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しおりを挟む「ふぅ。風が気持ちいい…」
踊り終わったあと、さすがに疲れたのでバルコニーへ出てきた。ヴィンセント様は飲み物を取りに行っているので今は一人だ。
「…ダンス、楽しかったな」
以前までの自分はダンスが苦手であったが、練習した甲斐もあり楽しく踊ることができた。ただ契約の一年が終われば一人で生きていくつもりの私にダンスを踊る機会などないだろう。今日ヴィンセント様と踊ったことは大切な思い出にしよう。そして契約が終ったあとは思い出を胸に新しい場所で頑張りたいと考えていた。
「契約が終わる前にキースさんに相談しないと…」
――ガチャ
今後のことをぼんやりと考えていると誰かがバルコニーにやって来たようだ。きっとヴィンセント様が戻ってきたのだろう。
「ヴィンセントさ」
「レイラ!」
「…え?」
私はヴィンセント様だと思い振り向いたのだが、そこにいたのはエリクだった。エリクはブロイズ伯爵家の嫡男としてこのパーティーに参加していたのだろう。私は婚約者業務で頭がいっぱいで自分の知り合いに会う可能性を全く考えていなかった。
(こんな時に会うなんてついてない。私になんて構わなくていいのに…)
「…エリク」
「お前、今まで一体どこにいたんだよ!」
「…なにをそんなに怒っているのよ」
「当たり前だろ!?お前の親からお前が王都に行ったって聞いて探したんだぞ!」
「どうして私を探すのよ。私がどこでなにをしていてもあなたには関係ないでしょう?」
「っ!か、関係あるだろ!…あの日、話があるって言ったのを忘れたのか?」
「…あぁ、そういえばそんなこと言ってたわね。でも私はちゃんと言おうとしたのよ?今日家を出るってね。それなのに私の話を聞かずに帰ったのはあなたじゃない」
「そ、それは…!」
「…まぁ別に今さらね。じゃあ私は人を待たせているから戻るわ」
私は特にエリクと話すことはない。それに今の私はヴィンセント様の婚約者だ。異性と二人きりでいることは褒められたことではない。だから会場へと戻ろうとしたのだがエリクに腕を掴まれた。
「待てって!」
「痛っ」
「っ!お、お前が俺の話を聞かないのが悪いんだからな!」
強い力で掴まれたようで腕が痛んだ。すぐに放されたがまだ痛みが残っている。
「…話があるのなら今もあの時もすぐに言えばいいじゃない。それができないのならあなたに文句を言われる筋合いはないわ」
「っ…」
「中に人を待たせているから話があるなら早くして」
「…さっきお前がキルシュタイン公爵様とダンスを踊っているのを見た。一体公爵様とはどんな関係なんだ」
「…あなたには関係ないことよ。それに私が誰と踊っていたって別にいいじゃ」
「よくない!」
「…どうして?」
「そ、それは…」
「…はぁ。話せないのなら私はもう行くわ。それじゃあ」
「っ、お前のことが好きなんだ!」
私が再度バルコニーから出ようしたその時、エリクの口から信じられない言葉が聞こえてきた。
「…あなたが私を?嘘をつくならもっとましな嘘をつくのね」
「嘘じゃない!本当にお前のことが好きなんだ!」
「散々私に暴言を吐いてきたというのにその言葉を信じろと?」
「い、今までの態度は悪かったって反省してる!どうしてもお前を前にするとうまく話せなくて!…すまなかった」
「!」
(あのエリクが謝るなんて…。私のことが好きって本気で言っているの?)
「俺はお前に初めて会った時からずっと好きだったんだ。婚約を申し込みたかったけどお前は後継ぎだからダメだって両親に反対された。でもお前はもう後継ぎじゃないだろう?ずっとそうなることを待ち望んでたんだ。そうすればお前に婚約を申し込めるからな。これからは優しくするし大切にする!だから俺と」
「そこまでだ」
「っ!」
「ヴィ、ヴィンセント様…」
「彼女は私の婚約者だが、何か用か?」
「…ヴィンセント様?」
声はいつもと同じはずなのに、なぜかヴィンセント様が怒っているように感じた。それに飲み物を取りに行ったはずなのに手には何も持っていないし少し息が上がっている。
(もしかして心配して急いで来てくれたの?)
もしそうだったら素直に嬉しい。本当の婚約者みたいに大切にされているような気がした。
しかし今はそんな呑気なことを考えている場合ではない。端から見れば私たちは三角関係のように見えてしまうだろう。それは避けたい。意味不明なことを言うエリクなど無視してこの場を去りたいが、そんな雰囲気ではなかった。
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