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一章

2. パン泥棒犬2

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「ジーン!! どこに行ってたんだ! 探したんだぞ」

 ちなみに私はジーンではないのでその声にぼーっとしていると犬が私の顔を舐めてきた。やめろ。

「君......。まさかジーンを助けてくれたのか?」
「? ああ、この犬......」
「ありがとう。君は救世主だ」

 そう言って男は私の手を両手で握る。
 顔は帽子と髭でよく見えなかったがどうやら四十代くらいの初老の、あまり悪い感じはしない印象を受けた。

 それにしてもこのおじさん、髭は髭でも整えられて嫌悪感がない髭だ。それに着ている服もこの辺のスラムの人間では無い。

 なにより”ありがとう”だなんて言って手を握るなんてそんな行動、まだ地獄を見たことがない綺麗な人間がする行動だ。

「あの、おじさんは――」
「ああ、すまない。私はカインという。君は?」
「フィオネ」
「そうか。とにかくジーンを助けてくれてありがとう。日中はぐれて探してたんだ。こんなにジーンが懐くなんて君が遊んでくれたんだね?」

 そう言ってカインと名乗る男はくしゃりとした顔で笑った。

 (遊んでくれたというか遊ばれたというか......)

「うん、でもこの犬私のパン食べちゃった」
「そうなのか? こらジーン、ダメじゃないか。そうだ、お詫びと言ってはなんだが何かお礼がしたい。何か必要な物があれば――」

  そこまで言ってカインは何か考え込むように犬を撫でる手を止めた。

「君、近くに家族はいるのかい?」
「? 一人だけど」
「一人? 両親はどこかに行ってるのか?」
「家族はいないよ。だいぶ前に死んだの」

 そう答えるとおじさんは目を見開いた。
 でも別に不思議なことではない。ここにいるやつらは皆そんな風な身寄りのないやつばかりだから。

「っ! じゃあ一人でこんなところに? 決めた。君、フィオネは私の恩人だからね。いい仕事を紹介するよ」
「しごと......」

 聞きなれない単語にピンとこない。
 本当はお礼なら山盛りのパンが食べたいと要求する予定だったが、働けばパン以上の物が食べられると言うので仕方なくついて行くことにした。

 スラムで仕事を紹介するとしたらクスリの密売人とか臓器売買なんだけどこのおじさん、もといカインとやらはなぜか悪い人に見えなかった。
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