1 / 50
一章
1.パン泥棒犬
しおりを挟む
見渡す限り広々とした廊下。
その両端にはメイドと執事がざっと見えるだけ五十人以上立っているのが伺える。
そして一番最後尾にいる一人だけ緊張で馴染めていないメイドが私だ。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
使用人達が一斉に頭を下げるので私も慌てて頭を下げる。
コツコツと革の靴を鳴らしながら目の前を通り過ぎていく人物、それがこの国の皇弟である。
まさか数日前まで超貧乏人の私が、こんな貴族の宮で働く事になるとは......。
そう思いながらオリーブ色の瞳を揺らす少女。
彼女がこの屋敷の使用人になれたのはつい3日前、こんな出来事があったからだった。
「やっと、飯にありつける......」
スラムの路地に立つ私はその日、やっと三日ぶりの食事になる予定のパンを持っていた。
パンは子分(というか生意気だからボコボコにしたら勝手に懐いた)が隠し持っていたので奪ってやったものだ。
誰も来ないように人が少ない路地裏に隠れる。
ちなみにパンはカッサカサでカッチカチ。おまけにその辺の泥でコーティングされて真っ黒になっていた。
気にせず一口食べるがなんの味もしない。
というかまあ私の鼻がおかしくなってしまっているだけなのだが。
それでも私のようなスラムの虫けらにとってはこんなものでもご馳走である。腹を満たすことが最優先。死ぬよりはきっとずっとマシなはず。
「うぐ......けほっ、あっ」
二口目を食べて口の中の水分が無くなり、むせた。
その衝撃で掴んでいた手がパンを落としてしまった。
パンはアスファルトにバウンドし、跳ね返った。
(まあ、私には三十秒ルールがあるし)
そんなふうに開き直った私がすぐに拾おうとしたその瞬間、白い何かが前を通り過ぎた。
白い何かは私が落としたパンを咥えて路地の奥に走っていく。
「はっ!? 待て!!!」
私は血眼になって”それ”を追いかけた。
追いかけていくうちにそれは犬だということに気がついた。
(チッ、ついてない)
この辺によくいる犬は皆痩せこけてて汚くて目がギラギラしている。
そういうのとは真逆な汚れてない犬。白くて太ってて毛がふわふわな健康そうな犬が目の前を走っていた。
「はぁ、はぁ......。追いつけない」
しかもこの犬、私のスピードが遅くなると止まってこっちを伺ってくるのだ。
その隙を狙って一気にスピードを出して捕まえようとしてもふわりと逃げる。逃げられるのに本気で逃げない。まるでこちらを弄んでるようだった。
結局真っ昼間に食糧を奪われたその犬を捕まえたのは夕方になってからだった。
「ぜぇ、はぁ、お前、パン全部食べたの!?」
犬はパンを完食していた。ファック。
走って疲れたので今日はもうこの犬でも食べようかなと思っていた矢先――
「ジーン!!!!」
「?」
声のした方を見ると目の前には背の高い白髭の男が立っていた。
その両端にはメイドと執事がざっと見えるだけ五十人以上立っているのが伺える。
そして一番最後尾にいる一人だけ緊張で馴染めていないメイドが私だ。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
使用人達が一斉に頭を下げるので私も慌てて頭を下げる。
コツコツと革の靴を鳴らしながら目の前を通り過ぎていく人物、それがこの国の皇弟である。
まさか数日前まで超貧乏人の私が、こんな貴族の宮で働く事になるとは......。
そう思いながらオリーブ色の瞳を揺らす少女。
彼女がこの屋敷の使用人になれたのはつい3日前、こんな出来事があったからだった。
「やっと、飯にありつける......」
スラムの路地に立つ私はその日、やっと三日ぶりの食事になる予定のパンを持っていた。
パンは子分(というか生意気だからボコボコにしたら勝手に懐いた)が隠し持っていたので奪ってやったものだ。
誰も来ないように人が少ない路地裏に隠れる。
ちなみにパンはカッサカサでカッチカチ。おまけにその辺の泥でコーティングされて真っ黒になっていた。
気にせず一口食べるがなんの味もしない。
というかまあ私の鼻がおかしくなってしまっているだけなのだが。
それでも私のようなスラムの虫けらにとってはこんなものでもご馳走である。腹を満たすことが最優先。死ぬよりはきっとずっとマシなはず。
「うぐ......けほっ、あっ」
二口目を食べて口の中の水分が無くなり、むせた。
その衝撃で掴んでいた手がパンを落としてしまった。
パンはアスファルトにバウンドし、跳ね返った。
(まあ、私には三十秒ルールがあるし)
そんなふうに開き直った私がすぐに拾おうとしたその瞬間、白い何かが前を通り過ぎた。
白い何かは私が落としたパンを咥えて路地の奥に走っていく。
「はっ!? 待て!!!」
私は血眼になって”それ”を追いかけた。
追いかけていくうちにそれは犬だということに気がついた。
(チッ、ついてない)
この辺によくいる犬は皆痩せこけてて汚くて目がギラギラしている。
そういうのとは真逆な汚れてない犬。白くて太ってて毛がふわふわな健康そうな犬が目の前を走っていた。
「はぁ、はぁ......。追いつけない」
しかもこの犬、私のスピードが遅くなると止まってこっちを伺ってくるのだ。
その隙を狙って一気にスピードを出して捕まえようとしてもふわりと逃げる。逃げられるのに本気で逃げない。まるでこちらを弄んでるようだった。
結局真っ昼間に食糧を奪われたその犬を捕まえたのは夕方になってからだった。
「ぜぇ、はぁ、お前、パン全部食べたの!?」
犬はパンを完食していた。ファック。
走って疲れたので今日はもうこの犬でも食べようかなと思っていた矢先――
「ジーン!!!!」
「?」
声のした方を見ると目の前には背の高い白髭の男が立っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる