最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
41 / 42

第4話 そして勇者は夢を見る その9

しおりを挟む
 『勇者』とは何か。ルーク自身にもよくわからない。
 一般の認識では、手のつけられない存在となった魔物やダンジョンを制覇し、人間の生きる環境を維持するため、神から遣わされた存在と言われている。

 それでもいいか、とルークは思う。
 『勇者』というものに、ルークは好んでなった訳ではない。
 なるべき者と宣託を受けて、他の誰にも出来ない事をやる。
 その事自体に不満は無い。達成感もある。

 魔物は群れる習性がある。
 魔物が何処かに定住すると、どこからともなく他の魔物も集まってくる。
 ある程度以上に魔物の密度が増えると、その場の空間が変質しはじめる。
 魔物のとって住みやすい環境が形作られる。
 その環境を求めて新たな魔物が集まってくる。
 あるいは環境そのものが魔物を作り出す。

 それがダンジョンだ。
 魔物が固有に発する魔力によって作られた、ある種の異界だ。

 魔物が増える程、強力な魔物が存在する程、ダンジョンは地上とは異なる空間へと変わっていく。
 異界と化した空間は、どこからともなく新たな魔物を呼び寄せる。
 強力な魔物の元には配下と言える魔物が集まり、グループを形成する。
 生息域が狭くなれば、地中を掘削し、建造物を立て、あるいは魔法で新たな空間を創造する。

 そうやって、ダンジョンは階層化し、拡大していく。
 放置していれば、どこまでも。

 異界の生成物である魔物の肉体は、希少で有用な資源だ。
 それを狩り、売買する事で冒険者は生活する。
 その冒険者が落とす金。付随する各種の産業。
 それらはダンジョンを擁する都市や国家にとっての大きな資金源にもなる。

 人間社会とダンジョンは持ちつ持たれつの関係にあると言える。

 しかし、ダンジョンが巨大化し過ぎた時、その関係は崩壊する。

 ダンジョンに現れる魔物が、冒険者達の手に負えないほどに強力になる。
 冒険者の手を離れたダンジョンは、無制限に魔物を増殖させる。
 増加しすぎた魔物がダンジョンの外に溢れる。

 そうやって、国が滅ぶ事もある。

 でなくても、ダンジョンの外に弾き出された魔物が村や街を襲って、そこを新たなダンジョンに変える。
 そんな事も時折発生する。

 そういった危機を解決するのが『勇者』だ。
 一般にはそう信じられている。

 今回、このダンジョンにルーク達が訪れたのもそれが原因だ。
 階層の増加と魔物の強大化。
 上層部はまだ、一般の冒険者で対応できる程度ではあるが最奥部はすでに人間の領域外にあると報告されている。

 そこに棲む魔物の駆除。
 特に、十階層以降の魔物を殲滅する事で、ダンジョンを一般的な冒険者でも対処出来る程度のダンジョンへと『加工』する。

 それが今回『勇者』に課せられた使命だった。

 とは言え、『勇者』であっても人間で。そして替えの効かない人材でもある。
 本来であれば、時間をかけて各階層の情報を集積し、確実を期してダンジョンを攻略する。

 年単位をかける大事業。そのはずだった。

「直通の穴ぁぶち開けるなんざ、さすが勇者様ですなぁ」

 ルークのダンジョン攻略速度はそもそも驚異的で、ましてやダンジョンそのものを破壊する等、前代未聞の自体と言えた。

「その割には対して驚いていないな」

 両手を広げてへらへら笑うローケンに、ルークは面白くもなさそうに尋ねる。
 正直な話、ルークとしても大分凄い事をしたと思っている。
 周囲の者が驚き、称賛してくれるものと思っている。
 実際他の連中は皆そうしている。

 ただ、この盗賊だけは普段と態度が変わらない。

「そりゃあこちとら、経験だけは長ぇんで」

 盗賊は人差し指を立ててそう言った。

「馬鹿なモンはいくらでも見て来ましたぜ。ツルハシ担いでダンジョンを更地にするドワーフの軍団だとか。魔法使いの迷宮に川を繋げて水攻めだとか」
「面白いね、それは」

 意外と誰も思い付く事らしい。
 ちょっとがっかりするルーク。

「どれも手間の割にゃあ。ってヤツでしてな。そんな大規模な土木事業、百や二百の人足で出来るワケも無えって奴で」
「そりゃまあ、道理だね」
「だから、『勇者』様にやらせる方がよっぽど安上がりって寸法でさ」

 声を出さずにローケンが笑う。
 笑った後、気配だけを背後に向けた。

 ルークが振り返ると、闇の向こうにアリアの【窓】が見えた。

「ついて来たのか。来るなって言ったのに」
「いじらしいじゃねえですか。それで美人なら、尚更嬉しい」
「裏がある女はあまり好きじゃないんだけど」
「裏があるから女は美人になるんですぜ」

 坊やにはまだわからないかなと、吊り上げた唇で語って。
 ローケンはするりと闇の中に溶けていく。

「あっしはお嬢様を安全な所に置いておきますわ」

 嬉々とした声は、『勇者』の戦いから離れられる事への喜びか。
 それとも美人の近くにいられる事か。

「オレはどうすんのさ」
「出来たばかりの道に危険なんかありゃしませんぜ」

 はぁ、とため息をつくルーク。
 それから脚に力を込めた。

 眼下から、力の塊が這い上がってくる。
 最大警戒をよびかける【窓】が、それを知らせてくれた。

 【窓】の表記は『嵐龍ドラゴネード』。
 示された数値は、以前倒した吸血鬼ノスフェラトゥとは二桁違う。
 所持する特殊能力も、【暴風】【雷撃】【水流撃】【獄炎】【再生】【不死身】その他諸々。強力な能力が目白押し。
 事によっては、神の一柱と崇められてもおかしくない。
 そういう魔物だった。

「行くぞ」

 抜きっぱなしの剣に力を込める。
 いくつもの【術技】が、ルークの中で自発的に動き出す。

 まだか。
 まだか。
 俺の出番はいつなのか。

 手綱をもぎ取らんばかりに【術技】が出番を待ちわびる。
 ルークがそれを許した瞬間、数百の【術技】達が牙を剥いて飛び出すだろう。

 突風が正面から吹き付ける。
 風そのものが見えない刃と化して、床を壁を切り裂いた。

 マントをなびかせるルークは、しかし仁王立ちのまま。
 風の刃も『勇者』の守りに触れて弾かれる。

「行けっ!」

 そしてルークは手綱を手放した。
 瞬間、光がすべてを映し出す。
 ルークの全身が光と化した。
 四肢は稲妻だった。
 剣先が数百の光の筋と変わる。

 そして、形となった光が、吹き荒れる嵐を切り裂いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...