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カイドの風邪
風邪
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キャルと共に、ようやくコロンに帰れることになった。
コロンに向かって旅をしている時。
ある朝起きると、喉が痛いことに気が付いた。
「まずい。風邪ひいたかな」
カイドは言いながら起き上がる。
頭もガンガンする。ちょっとばかりめまいもする感じだ。
確実に風邪をひいてしまったと、カイドは大きく息を吐いた。
依頼を持たずにするキャルとの旅に、少々……多少は……結構、いやかなり、浮かれていた。
しかも、コロンに帰る旅だ。楽しい以外に無い。
夜はもちろん、彼女を抱きしめて寝るし。
「なんでっ?もう依頼主じゃないのに!」
これはもう、自分たちのライフスタイルだから変えられないのだ。
「というか、馬車とか宿とか使おうよう!」
キャルが泣き言を言うが、冒険者たるもの、仲間同士仲良く野宿をするべきだろう。
なんだかんだと抱き上げることができるし。
「ちょ、カイド!抱き上げるよりはカイドが採ってくれた方が早いんだけど!?」
抱き上げた方が自分が楽しいので、果物狩りは楽しい方がいいと思う。
キャルの文句が多いことが玉に瑕だが、非常に有意義な旅ができた。
そして、ついにコロンにもうすぐ着くという頃になって、大雨が降った。
「雨宿りした方がいいよ」
そう言って暴れるキャルを抱っこしたまま歩いた。
雨宿りは宿になるから、キャルが同じ部屋に泊まってくれなくて嫌いだ。
必ず抱きしめて眠りたい。
もう手に入れてしまったからには、手放せないのだ。
--という、強行軍を三日やってしまった。
昨日、町につくことはできたが、キャルの家に入った途端倒れた。……というところまで覚えている。
だるい体を起こして、部屋を出る。
隣の部屋をノックすると、キャルが顔を出した。
……やっぱり別の部屋になっていた。
宿でも同じ部屋がいいというのに、どうしても却下されるのだ。解せない。
しかも、ここはキャルの家。いわば愛の巣のはずなのに何故!
「カイド、おはよう!今日はゆっくりだね?」
すでに身支度が済んだキャルが部屋から出てくる。
「ああ。おはよう」
声を出した途端、キャルはカイドの額に、ぺたっと手を当てる。
こういうときのキャルは素早い。
カイドが今、体調が悪いことを抜きにしても、カイドに避ける隙を与えないというのはすごいことだ。
「熱があるじゃない!」
キャルは叫んで、カイドの背中を押す。
「ベッドに戻って!朝ご飯は部屋まで運んであげる」
「いや、そこまで迷惑は……」
「ここに居た方が迷惑!」
きっぱりと言われて、諦めてもう一度部屋に戻った。
キャルにベッドに押し込まれながら、休息に体がだるくなっていくのを感じていた。
「熱が高いなあ。風邪ひいちゃったね」
キャルは、カイドを上から覗き込みながら、首や肩、目や口をみていく。
気分的には押し倒されている。
――なかなかいい。
「カイド?」
馬鹿なことを考えていると、キャルがカイドの顔を覗き込んできた。
「なんだ」
なんでもないように返事をすると、キャルは言いづらそうに、もじもじと手をこすり合わせる。
頬が染まって、上目遣いをされると、邪な思いが溢れ出してくるのだが。
しかも、カイドを押し倒しながら。
なかなかいい。
「あのね、カイドの風邪、私に任せて欲しいの」
思わぬことを言われて、目を瞬かせた。
いつもだったら、キャルは「私は医術士じゃないから」と言いながら病気になった時は医術士に任せるように言っていたように思う。
それが、どうしたというのか。
カイドはキャルの顔を見つめる。
キャルは申し訳なさそうな顔になってから、きゅっと唇をかんだ。
「私……私だけでカイドの風邪治したいの。……だめ、かな」
キャルの言葉に、カイドは微笑む。
なんて愛情表現だ。
さすがにちょっと照れくさいくらいある。
キャルは、カイドを他の人に任せたくないのだ。自分だけでカイドを独り占めしたいということだろう。
「いいよ。……じゃあ、よろしく?」
可愛すぎるキャルの我がままに、カイドはくすくすと笑った。
こんな独占欲が嬉しいと思ったことは無かった。
「カイド、じゃあお薬だよ。これ飲んでね」
キャルに渡されたのは、少し赤みを帯びた薬湯。
赤い色というのは珍しい。
しかし、キャルが妙なものを出すはずがないので、抵抗なく口に含んだ。
だが、しかし。
「ああ、そうか」
思わず、先に口からこぼれ出た。
「え、何が?」
「ぴりぴりする」
キャルの薬は、別に飲みやすいわけじゃなかったなと思いだしただけだ。
ものすごく苦かったりしていた。
そして、これ、赤いのは唐辛子だ。辛い。
「飲みにくい?甘いよりは辛いのかなと思ったんだけど。しかも発汗作用もあってね」
辛いにも限度がある。
口の中が痛い。
発汗作用はあるのだろう。体が急にポカポカしてきた。
「少し暑くなってきたな」
身体中が痛くてだるいのもあって、カイドはそのまま眠りについた。
コロンに向かって旅をしている時。
ある朝起きると、喉が痛いことに気が付いた。
「まずい。風邪ひいたかな」
カイドは言いながら起き上がる。
頭もガンガンする。ちょっとばかりめまいもする感じだ。
確実に風邪をひいてしまったと、カイドは大きく息を吐いた。
依頼を持たずにするキャルとの旅に、少々……多少は……結構、いやかなり、浮かれていた。
しかも、コロンに帰る旅だ。楽しい以外に無い。
夜はもちろん、彼女を抱きしめて寝るし。
「なんでっ?もう依頼主じゃないのに!」
これはもう、自分たちのライフスタイルだから変えられないのだ。
「というか、馬車とか宿とか使おうよう!」
キャルが泣き言を言うが、冒険者たるもの、仲間同士仲良く野宿をするべきだろう。
なんだかんだと抱き上げることができるし。
「ちょ、カイド!抱き上げるよりはカイドが採ってくれた方が早いんだけど!?」
抱き上げた方が自分が楽しいので、果物狩りは楽しい方がいいと思う。
キャルの文句が多いことが玉に瑕だが、非常に有意義な旅ができた。
そして、ついにコロンにもうすぐ着くという頃になって、大雨が降った。
「雨宿りした方がいいよ」
そう言って暴れるキャルを抱っこしたまま歩いた。
雨宿りは宿になるから、キャルが同じ部屋に泊まってくれなくて嫌いだ。
必ず抱きしめて眠りたい。
もう手に入れてしまったからには、手放せないのだ。
--という、強行軍を三日やってしまった。
昨日、町につくことはできたが、キャルの家に入った途端倒れた。……というところまで覚えている。
だるい体を起こして、部屋を出る。
隣の部屋をノックすると、キャルが顔を出した。
……やっぱり別の部屋になっていた。
宿でも同じ部屋がいいというのに、どうしても却下されるのだ。解せない。
しかも、ここはキャルの家。いわば愛の巣のはずなのに何故!
「カイド、おはよう!今日はゆっくりだね?」
すでに身支度が済んだキャルが部屋から出てくる。
「ああ。おはよう」
声を出した途端、キャルはカイドの額に、ぺたっと手を当てる。
こういうときのキャルは素早い。
カイドが今、体調が悪いことを抜きにしても、カイドに避ける隙を与えないというのはすごいことだ。
「熱があるじゃない!」
キャルは叫んで、カイドの背中を押す。
「ベッドに戻って!朝ご飯は部屋まで運んであげる」
「いや、そこまで迷惑は……」
「ここに居た方が迷惑!」
きっぱりと言われて、諦めてもう一度部屋に戻った。
キャルにベッドに押し込まれながら、休息に体がだるくなっていくのを感じていた。
「熱が高いなあ。風邪ひいちゃったね」
キャルは、カイドを上から覗き込みながら、首や肩、目や口をみていく。
気分的には押し倒されている。
――なかなかいい。
「カイド?」
馬鹿なことを考えていると、キャルがカイドの顔を覗き込んできた。
「なんだ」
なんでもないように返事をすると、キャルは言いづらそうに、もじもじと手をこすり合わせる。
頬が染まって、上目遣いをされると、邪な思いが溢れ出してくるのだが。
しかも、カイドを押し倒しながら。
なかなかいい。
「あのね、カイドの風邪、私に任せて欲しいの」
思わぬことを言われて、目を瞬かせた。
いつもだったら、キャルは「私は医術士じゃないから」と言いながら病気になった時は医術士に任せるように言っていたように思う。
それが、どうしたというのか。
カイドはキャルの顔を見つめる。
キャルは申し訳なさそうな顔になってから、きゅっと唇をかんだ。
「私……私だけでカイドの風邪治したいの。……だめ、かな」
キャルの言葉に、カイドは微笑む。
なんて愛情表現だ。
さすがにちょっと照れくさいくらいある。
キャルは、カイドを他の人に任せたくないのだ。自分だけでカイドを独り占めしたいということだろう。
「いいよ。……じゃあ、よろしく?」
可愛すぎるキャルの我がままに、カイドはくすくすと笑った。
こんな独占欲が嬉しいと思ったことは無かった。
「カイド、じゃあお薬だよ。これ飲んでね」
キャルに渡されたのは、少し赤みを帯びた薬湯。
赤い色というのは珍しい。
しかし、キャルが妙なものを出すはずがないので、抵抗なく口に含んだ。
だが、しかし。
「ああ、そうか」
思わず、先に口からこぼれ出た。
「え、何が?」
「ぴりぴりする」
キャルの薬は、別に飲みやすいわけじゃなかったなと思いだしただけだ。
ものすごく苦かったりしていた。
そして、これ、赤いのは唐辛子だ。辛い。
「飲みにくい?甘いよりは辛いのかなと思ったんだけど。しかも発汗作用もあってね」
辛いにも限度がある。
口の中が痛い。
発汗作用はあるのだろう。体が急にポカポカしてきた。
「少し暑くなってきたな」
身体中が痛くてだるいのもあって、カイドはそのまま眠りについた。
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