Eランクの薬師

ざっく

文字の大きさ
上 下
56 / 58
カイドの風邪

風邪

しおりを挟む
キャルと共に、ようやくコロンに帰れることになった。
コロンに向かって旅をしている時。
ある朝起きると、喉が痛いことに気が付いた。

「まずい。風邪ひいたかな」
カイドは言いながら起き上がる。
頭もガンガンする。ちょっとばかりめまいもする感じだ。
確実に風邪をひいてしまったと、カイドは大きく息を吐いた。

依頼を持たずにするキャルとの旅に、少々……多少は……結構、いやかなり、浮かれていた。
しかも、コロンに帰る旅だ。楽しい以外に無い。

夜はもちろん、彼女を抱きしめて寝るし。
「なんでっ?もう依頼主じゃないのに!」
これはもう、自分たちのライフスタイルだから変えられないのだ。
「というか、馬車とか宿とか使おうよう!」
キャルが泣き言を言うが、冒険者たるもの、仲間同士仲良く野宿をするべきだろう。
なんだかんだと抱き上げることができるし。
「ちょ、カイド!抱き上げるよりはカイドが採ってくれた方が早いんだけど!?」
抱き上げた方が自分が楽しいので、果物狩りは楽しい方がいいと思う。

キャルの文句が多いことが玉に瑕だが、非常に有意義な旅ができた。

そして、ついにコロンにもうすぐ着くという頃になって、大雨が降った。
「雨宿りした方がいいよ」
そう言って暴れるキャルを抱っこしたまま歩いた。
雨宿りは宿になるから、キャルが同じ部屋に泊まってくれなくて嫌いだ。
必ず抱きしめて眠りたい。
もう手に入れてしまったからには、手放せないのだ。

--という、強行軍を三日やってしまった。
昨日、町につくことはできたが、キャルの家に入った途端倒れた。……というところまで覚えている。

だるい体を起こして、部屋を出る。
隣の部屋をノックすると、キャルが顔を出した。
……やっぱり別の部屋になっていた。
宿でも同じ部屋がいいというのに、どうしても却下されるのだ。解せない。
しかも、ここはキャルの家。いわば愛の巣のはずなのに何故!

「カイド、おはよう!今日はゆっくりだね?」
すでに身支度が済んだキャルが部屋から出てくる。
「ああ。おはよう」
声を出した途端、キャルはカイドの額に、ぺたっと手を当てる。
こういうときのキャルは素早い。
カイドが今、体調が悪いことを抜きにしても、カイドに避ける隙を与えないというのはすごいことだ。
「熱があるじゃない!」
キャルは叫んで、カイドの背中を押す。
「ベッドに戻って!朝ご飯は部屋まで運んであげる」
「いや、そこまで迷惑は……」
「ここに居た方が迷惑!」
きっぱりと言われて、諦めてもう一度部屋に戻った。
キャルにベッドに押し込まれながら、休息に体がだるくなっていくのを感じていた。
「熱が高いなあ。風邪ひいちゃったね」
キャルは、カイドを上から覗き込みながら、首や肩、目や口をみていく。
気分的には押し倒されている。
――なかなかいい。
「カイド?」
馬鹿なことを考えていると、キャルがカイドの顔を覗き込んできた。
「なんだ」
なんでもないように返事をすると、キャルは言いづらそうに、もじもじと手をこすり合わせる。
頬が染まって、上目遣いをされると、邪な思いが溢れ出してくるのだが。
しかも、カイドを押し倒しながら。
なかなかいい。

「あのね、カイドの風邪、私に任せて欲しいの」

思わぬことを言われて、目を瞬かせた。
いつもだったら、キャルは「私は医術士じゃないから」と言いながら病気になった時は医術士に任せるように言っていたように思う。
それが、どうしたというのか。
カイドはキャルの顔を見つめる。
キャルは申し訳なさそうな顔になってから、きゅっと唇をかんだ。
「私……私だけでカイドの風邪治したいの。……だめ、かな」
キャルの言葉に、カイドは微笑む。
なんて愛情表現だ。
さすがにちょっと照れくさいくらいある。
キャルは、カイドを他の人に任せたくないのだ。自分だけでカイドを独り占めしたいということだろう。
「いいよ。……じゃあ、よろしく?」
可愛すぎるキャルの我がままに、カイドはくすくすと笑った。
こんな独占欲が嬉しいと思ったことは無かった。

「カイド、じゃあお薬だよ。これ飲んでね」
キャルに渡されたのは、少し赤みを帯びた薬湯。
赤い色というのは珍しい。
しかし、キャルが妙なものを出すはずがないので、抵抗なく口に含んだ。
だが、しかし。

「ああ、そうか」
思わず、先に口からこぼれ出た。
「え、何が?」
「ぴりぴりする」
キャルの薬は、別に飲みやすいわけじゃなかったなと思いだしただけだ。
ものすごく苦かったりしていた。
そして、これ、赤いのは唐辛子だ。辛い。
「飲みにくい?甘いよりは辛いのかなと思ったんだけど。しかも発汗作用もあってね」
辛いにも限度がある。
口の中が痛い。
発汗作用はあるのだろう。体が急にポカポカしてきた。

「少し暑くなってきたな」

身体中が痛くてだるいのもあって、カイドはそのまま眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。