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グラン
野望に向けて
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ここまで来て、キャルが邪魔になってきた。
体力がないので足が遅いし、最近生意気なことも言う。
「自然治癒力がなくなってるよ。回復薬の使い方が荒すぎるよ」
自然治癒力なんて必要か?薬を使えばすぐに元通りなのに?
「キャル……できないなら、いいんだよ?」
グランは優しく微笑む。
途端にキャルは真っ青になって黙り込み、「できる」と小さな声で呟く。
--最初からやっていればいいのに。
グランたちに進言をするなんて、おこがましいにもほどがある。Eランクのくせに。
キャルのランクは全くあがらなかった。
あいつは薬を作っているだけだ。グランたちが剣をふるって戦っている。
だから、依頼完了報告の中に、キャルの名前は入れない。
そうすると、四人で依頼を完了したということで、もっと早くランクが上がるのだ。
わざわざ道具のランクまで上げてやる必要はない。
しかも、一人だけランクの上がらないキャルは、もっともっと従順になる。
「足手まといだけど……仕方ないね。一緒に連れて行くよ」
「うん。ありがとう」
キャルは泣きそうな顔でお礼を言うのだ。
グランは、お荷物なキャルを連れて歩いてあげる優しい優しい勇者様なのだから。
グランの目標は、もうすぐそこまで見えている。
Sランクになれば、王都に家がもらえ、貴族のように振る舞えると聞く。
Aランクも長いし、もうそろそろSランクが見えてきてもいいころだ。
しかし……Sランクになるには、何か大きなことをやる必要がある。
ギルドに通い、依頼を眺めるけれど、大したものは書いていない。
どうしようかなと思っているところに、またもうわさを聞いた。
ノース山の向こうの国、スイル国には魔物で溢れていると。
魔物をせん滅させるっていうのはどうだ?
そして、スイル国で報奨金を貰い、大手を振ってこの国に帰ってくるのだ。
隣国で認められた勇者だ。自国ではSランクがふさわしいだろう。
「スイル国には魔物が多いらしい」
グランが話すと、キャルが頷く。
「スイル国は一部の魔物を信仰しているんだよ。だから、魔物の住む場所には近づかない」
また、馬鹿なことを言う。
魔物を信仰?――するわけがないだろう。
魔物を倒して責められるわけがない。
グランの知識にいちいち、自分は知っているとばかりに頷くのも気に入らない。
そろそろ潮時だと思う。
グランは、仲間になりそうな治癒術師を探した。
すると、すぐに一人、グランに近づいてくる女がいた。
彼女はリズと名乗り、Bランクの精霊使いだという。
ピンクブロンドの髪は美しく、体つきもものすごく好みだ。
「私を仲間にしてくださらない?」
グランは、微笑む。
そうだ。彼女は妻にしよう。
魅了で手に入れた女たちは、みんなグランの言うことばかり聞いて面白くなかった。
リズには魅了を施さず、普通に仲間にした。
あとは、キャルが自分でパーティを抜けるというだけだ。
キャルにノース山を越えることを話すと、案の定、難色を示した。
「この時期のノース山は、山猿が出て……」
キャルの知識披露はもういらない。
自分たちは、キャルの力を必要としないほどに力をつけた。
もう高ランクの治癒術師が、自分から仲間にして欲しいと申し出てくるほどなのだ。
「あの山を越える。もう決めたんだ」
だから何も言うなと、グランは目に力を込めた。
キャルは息を呑んで、頷く。
「わ……かった。私は、付いていけないから、ここで、別れる」
グランは、見た目だけは悲しそうな表情で微笑む。
「キャル、世話になったな」
グランが立ち上がると、他のメンバーも立ち上がった。
俯いたキャルは、随分と小さい。
こんなものに頼らなければならなかった自分たちはもういない。
――ノース山を越えれば、俺は英雄だ!
体力がないので足が遅いし、最近生意気なことも言う。
「自然治癒力がなくなってるよ。回復薬の使い方が荒すぎるよ」
自然治癒力なんて必要か?薬を使えばすぐに元通りなのに?
「キャル……できないなら、いいんだよ?」
グランは優しく微笑む。
途端にキャルは真っ青になって黙り込み、「できる」と小さな声で呟く。
--最初からやっていればいいのに。
グランたちに進言をするなんて、おこがましいにもほどがある。Eランクのくせに。
キャルのランクは全くあがらなかった。
あいつは薬を作っているだけだ。グランたちが剣をふるって戦っている。
だから、依頼完了報告の中に、キャルの名前は入れない。
そうすると、四人で依頼を完了したということで、もっと早くランクが上がるのだ。
わざわざ道具のランクまで上げてやる必要はない。
しかも、一人だけランクの上がらないキャルは、もっともっと従順になる。
「足手まといだけど……仕方ないね。一緒に連れて行くよ」
「うん。ありがとう」
キャルは泣きそうな顔でお礼を言うのだ。
グランは、お荷物なキャルを連れて歩いてあげる優しい優しい勇者様なのだから。
グランの目標は、もうすぐそこまで見えている。
Sランクになれば、王都に家がもらえ、貴族のように振る舞えると聞く。
Aランクも長いし、もうそろそろSランクが見えてきてもいいころだ。
しかし……Sランクになるには、何か大きなことをやる必要がある。
ギルドに通い、依頼を眺めるけれど、大したものは書いていない。
どうしようかなと思っているところに、またもうわさを聞いた。
ノース山の向こうの国、スイル国には魔物で溢れていると。
魔物をせん滅させるっていうのはどうだ?
そして、スイル国で報奨金を貰い、大手を振ってこの国に帰ってくるのだ。
隣国で認められた勇者だ。自国ではSランクがふさわしいだろう。
「スイル国には魔物が多いらしい」
グランが話すと、キャルが頷く。
「スイル国は一部の魔物を信仰しているんだよ。だから、魔物の住む場所には近づかない」
また、馬鹿なことを言う。
魔物を信仰?――するわけがないだろう。
魔物を倒して責められるわけがない。
グランの知識にいちいち、自分は知っているとばかりに頷くのも気に入らない。
そろそろ潮時だと思う。
グランは、仲間になりそうな治癒術師を探した。
すると、すぐに一人、グランに近づいてくる女がいた。
彼女はリズと名乗り、Bランクの精霊使いだという。
ピンクブロンドの髪は美しく、体つきもものすごく好みだ。
「私を仲間にしてくださらない?」
グランは、微笑む。
そうだ。彼女は妻にしよう。
魅了で手に入れた女たちは、みんなグランの言うことばかり聞いて面白くなかった。
リズには魅了を施さず、普通に仲間にした。
あとは、キャルが自分でパーティを抜けるというだけだ。
キャルにノース山を越えることを話すと、案の定、難色を示した。
「この時期のノース山は、山猿が出て……」
キャルの知識披露はもういらない。
自分たちは、キャルの力を必要としないほどに力をつけた。
もう高ランクの治癒術師が、自分から仲間にして欲しいと申し出てくるほどなのだ。
「あの山を越える。もう決めたんだ」
だから何も言うなと、グランは目に力を込めた。
キャルは息を呑んで、頷く。
「わ……かった。私は、付いていけないから、ここで、別れる」
グランは、見た目だけは悲しそうな表情で微笑む。
「キャル、世話になったな」
グランが立ち上がると、他のメンバーも立ち上がった。
俯いたキャルは、随分と小さい。
こんなものに頼らなければならなかった自分たちはもういない。
――ノース山を越えれば、俺は英雄だ!
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