Eランクの薬師

ざっく

文字の大きさ
上 下
53 / 58
グラン

野望に向けて

しおりを挟む
ここまで来て、キャルが邪魔になってきた。

体力がないので足が遅いし、最近生意気なことも言う。
「自然治癒力がなくなってるよ。回復薬の使い方が荒すぎるよ」
自然治癒力なんて必要か?薬を使えばすぐに元通りなのに?
「キャル……できないなら、いいんだよ?」
グランは優しく微笑む。
途端にキャルは真っ青になって黙り込み、「できる」と小さな声で呟く。

--最初からやっていればいいのに。
グランたちに進言をするなんて、おこがましいにもほどがある。Eランクのくせに。
キャルのランクは全くあがらなかった。
あいつは薬を作っているだけだ。グランたちが剣をふるって戦っている。
だから、依頼完了報告の中に、キャルの名前は入れない。
そうすると、四人で依頼を完了したということで、もっと早くランクが上がるのだ。
わざわざ道具のランクまで上げてやる必要はない。
しかも、一人だけランクの上がらないキャルは、もっともっと従順になる。
「足手まといだけど……仕方ないね。一緒に連れて行くよ」
「うん。ありがとう」
キャルは泣きそうな顔でお礼を言うのだ。
グランは、お荷物なキャルを連れて歩いてあげる優しい優しい勇者様なのだから。

グランの目標は、もうすぐそこまで見えている。
Sランクになれば、王都に家がもらえ、貴族のように振る舞えると聞く。
Aランクも長いし、もうそろそろSランクが見えてきてもいいころだ。
しかし……Sランクになるには、何か大きなことをやる必要がある。
ギルドに通い、依頼を眺めるけれど、大したものは書いていない。
どうしようかなと思っているところに、またもうわさを聞いた。
ノース山の向こうの国、スイル国には魔物で溢れていると。
魔物をせん滅させるっていうのはどうだ?
そして、スイル国で報奨金を貰い、大手を振ってこの国に帰ってくるのだ。
隣国で認められた勇者だ。自国ではSランクがふさわしいだろう。
「スイル国には魔物が多いらしい」
グランが話すと、キャルが頷く。
「スイル国は一部の魔物を信仰しているんだよ。だから、魔物の住む場所には近づかない」
また、馬鹿なことを言う。
魔物を信仰?――するわけがないだろう。
魔物を倒して責められるわけがない。
グランの知識にいちいち、自分は知っているとばかりに頷くのも気に入らない。
そろそろ潮時だと思う。
グランは、仲間になりそうな治癒術師を探した。
すると、すぐに一人、グランに近づいてくる女がいた。
彼女はリズと名乗り、Bランクの精霊使いだという。
ピンクブロンドの髪は美しく、体つきもものすごく好みだ。
「私を仲間にしてくださらない?」
グランは、微笑む。
そうだ。彼女は妻にしよう。
魅了で手に入れた女たちは、みんなグランの言うことばかり聞いて面白くなかった。
リズには魅了を施さず、普通に仲間にした。
あとは、キャルが自分でパーティを抜けるというだけだ。
キャルにノース山を越えることを話すと、案の定、難色を示した。
「この時期のノース山は、山猿が出て……」
キャルの知識披露はもういらない。
自分たちは、キャルの力を必要としないほどに力をつけた。
もう高ランクの治癒術師が、自分から仲間にして欲しいと申し出てくるほどなのだ。
「あの山を越える。もう決めたんだ」
だから何も言うなと、グランは目に力を込めた。
キャルは息を呑んで、頷く。
「わ……かった。私は、付いていけないから、ここで、別れる」
グランは、見た目だけは悲しそうな表情で微笑む。
「キャル、世話になったな」
グランが立ち上がると、他のメンバーも立ち上がった。
俯いたキャルは、随分と小さい。
こんなものに頼らなければならなかった自分たちはもういない。

――ノース山を越えれば、俺は英雄だ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。