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王太子の想い

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クロード・オン・アルランディアン公爵は、ディートリヒの叔父だ。

少々ごつくて、大きすぎて、勇ましい姿をしているので、女性には忌避されがちだが、甥である自分にはとても優しい人だ。
そんなクロードが結婚をした。
彼の良さを分かってくれる人がいたかと喜んだ。
聖女と二度見合いをして、二度とも断られた形で終わっている。ただ単に高位貴族だからという理由で、望んでもいない聖女と見合いをさせられ、さらには断られていた。
わざわざ恥をかかされて、王弟でもあるクロードが、そんなことをしてやらなければならないのか。
二度も断っておいて、教会はまたも聖女との見合いを持ってきた。
恥という言葉は、聖職者は知らないのか。図々しいにもほどがある。
そう、苦々しく思っていたら、クロードは三度目の聖女との見合いの後、あっという間に結婚した。
スケジュール的に厳しく、結婚式には出席できなかったが、クロードから断りを入れられた。曰く、誰かから取られないうちに、早く結婚したかったと言う。
聖女だということが引っ掛かったが、そんなにも愛し愛される女性が、彼に現れたことが嬉しかった。
きっと、メイシ―という聖女は、見た目に惑わされない、素晴らしい女性なのだろう。
そう思っていた。

出立の日、クロードは一人でやってきた。
付き従う使用人はいるが、奥方の姿が見えない。
「クロード、奥方は?」
ディートリヒが、クロードの奥方に合うのを楽しみにしていたことは知っているはずだ。
だからこそだろう。
クロードは申し訳なさそうに、「体調不良」だと答えた。
小規模とはいえ、国境まで遠征に出発するのだ。
それなのに、見送りさえしない?
体調を崩しただと?
クロードが心配した様子もなく出立の準備していることからも、妻の容体は大したことはないのだと思う。
だったら、這ってでも来い。
国を守る任を負った夫を見送りもしない妻。
させる気はないが、もしかしたら死ぬことだってあるかもしれない場所へ赴く夫の見送りもせずに、体調不良で寝ている?
これで、まだひと月もたっていない新婚なのだという。
周りの兵たちも、ディートリヒと同じ気持ちを抱いたのだろう。
心配そうな視線が彼に注がれていた。

順調な行軍をして一週間がたった。
第一便の物資が届いた。
その中に、クロード宛の手紙が入っていた。
妻かららしく、嬉しそうにしていたと思ったら、次に見たときは泣きそうな顔をしていた。
出征中に夫が落ち込むような手紙を渡してくる妻など、必要か?
ディートリヒは決断した。
この行軍の大将として、クロードへの妻からの手紙を渡さないようにしようと。
クロードが不調になれば、士気に関わる。これは、戦略的にも有効な判断だ。
――せめて遠征中は、悪妻のことに振り回されずにいてほしい。
ディートリヒは、秘密裏にクロードへの手紙を制限するように手配したのだった。

尊敬する叔父が、聖女というまやかしの悪女に騙されて結婚してしまったことは、残念だ。
結婚自体は、もう覆せない。しかし、せめて、悪妻から離れていられる今くらいは、心穏やかに過ごしてほしい。
ディートリヒは、彼のためを思って、総指揮官として判断した。
この行軍の間、彼の妻からの手紙は届けないし、クロードからの手紙も送らない。
ひと時でも、クロードが苦しまないようにと。
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