異世界で農業を -異世界編-

半道海豚

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異世界編

01-003 娘と逃げて!

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 アネルマとエイラが偵察から戻ってきた。 エイラが叫ぶ。
「盗賊の規模じゃない!」
 アネルマが引き継ぐ。
「新しい領主の軍だ。護衛兵の胸甲を着けた正規兵だよ。
 盗賊の風体じゃない。
 正規装備だ」
 レベッカが叫ぶ。
「ショウ様、イルメリと逃げて!
 お願い!」
 イルメリが泣きながら拒む。
「イヤだよ。母上と一緒じゃなきゃ。
 一緒に死ぬよ」
 レベッカはイルメリを抱きしめ、泣く。
「そんなことを言ってはダメ。
 ショウ様と一緒に穏やかに暮らして!」

 翔太は口を挟む隙を見出せなかった。彼以外、全員が死ぬ気になっている。母子は抱き合い、泣いている。
 翔太はこの修羅場で何を言うべきか考えたが、名言は思い浮かばなかった。
「今日は死なないだろう。
 俺の予定では……」
 最悪だ。一瞬で、場が白ける。
 全員の冷たい視線が翔太を刺す。
「アネルマ、ここに向かっているのは何騎?」
「おおよそ30騎」
「大砲は?」
「そんなものはないよ。
 大砲なんて、王家の軍しか持っていない」
「銃は?」
「たぶん騎馬銃士だろうから、騎兵銃と短銃だと思う」
「よし、迎え撃つ準備だ」

 イルメリを含めて、全員が土嚢の内側に入る。
 早朝は晴れていたが、雲が急速に厚くなり、雨が降り出す予感がする。
 翔太は、イルメリにゴム長靴を履かせ、レインコートを着せる。すると、アネルマが囃し立てる。
「何それぇ~、おかしいよぉ」
 イルメリが反論する。
「父上が買ってくれたんだ。
 これを着ていれば、雨に濡れないんだ!」
「叔父上ぇ~、私にも買ってぇ~」
 イルメリが口を尖らせる。
「叔母上、嫌いぃぃぃぃぃ」
 アネルマは、イルメリに「姉上、と呼べ」と命じているが、実際は叔母にあたる。イルメリは上手く切り返した。

 レベッカは、現実的問題に気付いていた。
「ショウ様、雨が降り出せば、銃の再装填は無理かと……」
 確かにこの問題はある。マッチロックやフリントロックに比べれば、パーカッションロックの天候から受ける影響は小さい。
 しかし、大雨になり、銃口から雨水が入り込む状況になれば発射はできない。
 金属薬莢の銃を使うしかない。
 翔太は、無酸素の地下空間に走った。

 地下空間に通じる土蔵扉からだいぶ離れて、イルメリが待っていた。
 彼女に弾薬缶を渡す。祖父が残した弾薬缶に高祖父が残した.577スナイドル弾を詰める。弾薬缶内の7.7ミリ級小銃弾は、木箱に無造作にバラ入れする。
 翔太は、ミニエー銃を後装化したスナイドル銃をつかむ。それと、.45ACP弾入りの缶を手にする。トンプソン短機関銃の30発弾倉を探すが見あたらない。100発ドラム弾倉が1個だけ。
 これを持って、異世界側出口に向かう。
 地下空間にある武器については、正確に調べておくべきだった。スナイドル銃は他にもあるかもしれないし、ウィンチェスターM1873の弾もあるかもしれない。
 だが、強力な銃器をレベッカたちの世界に持ち込みたくなかった。中途半端なモラルが、危機を増大させてしまった。
 いいや、慢心していた。
 新領主の護衛を任とする正規兵30を送り込んでくるとは、考えていなかったのだ。いままでの話から、5人ほどが嫌がらせをしに来る程度と思い込んでいた。
 農地ほしさから、彼女たちを追い出したいだけではないのかもしれない。そうでなければ、新領主が堂々と正規兵を送り込むはずがない。残虐行為自体、彼らには“正義”である可能性がある。
 手荒な仕事を粗暴な連中に任せていたのは、それが正規兵やまともな傭兵には不向きだったからではないのか。
 とするなら、今回は純粋な軍事行動ということになる。
 それなりの覚悟で臨まないと。

 エイラ、ヒルマ、ヤーナの3人は、練度の差はあるが銃を使える。3人に前装式パーカッションロックながら6連発のレミントンM1858を渡す。戦いが始まれば、リロードはできない。手間がかかりすぎるのだ。
 5挺のミニエー銃は弾込めをして、アネルマとエイラが使う。S&W No.3リボルバーはアネルマが使う。トップブレイクで、銃を折れば一瞬で排莢でき、迅速にリロードできる。

 レベッカにスナイドル銃の操作を教えると、彼女は怒り始める。
「ショウ様!
 この銃を隠していたのですか!
 それと、その奇妙な形の銃は何ですか!
 もっと、たくさんの秘密があるのですか!」
 翔太は、何と答えるか逡巡する。
「あるよ。
 もっと、ある。
 この銃を使えば、虐殺になる」
「虐殺?」
「あぁ。ここに向かっている30騎は抵抗の術なく、死ぬ。
 それは、戦いではない。
 虐殺だ」
 レベッカがにんまりと笑う。
 出会ったときはやつれて気弱に見えたが、健康を取り戻したいまは美しい女性だ。
 美しい彼女が、翔太には死を招く女神に見えた。

 ヒルマは走れないが歩ける。足取りは弱々しいが、弓は引ける。コンパウンドボウは、弦の引き始めは等価の力が必要だが、引き切った状態では滑車の効果で数分の1の力ですむ。
 ヒルマはこの弓に驚喜した。
 それはヤーナも同じで、手回しハンドルやレバーを使わず腕力だけで弦を引け、威力のあるボルトを発射するコンパウンドクロスボウを気に入っている。

 イルメリは「私も戦う」と言い張った。5歳の子供に何ができる?
 だが、意志は硬い。そして、自分が非力なことは理解している。
 翔太は、32口径のコルトM1903自動拳銃をイルメリに渡す。薬室に弾はなく、安全装置をかけた。安全装置を解除し、スライドを引かない限り、発射の状態にはならない。
「これは、強力な武器だ。
 イルメリ、これを預かってほしいんだ」
 全員の視線が、イルメリの小さな手に注がれる。
 レベッカが母親の声音で心配する。
「それは銃?」
「そうだ、8連発の拳銃だ」
 アネルマが手を伸ばすと、イルメリが「ダメ!」と引き渡しを拒否。黄色いレインコートの女の子が、黒い金属の塊を持つ様子はかなり異様だ。

 丸太で作ったバリケードで陣地の入口を閉鎖していたアネリアとエイラが「来た!」と叫んで、土嚢の内側に走り込む。

 28騎だ。

 空濠は二重、螺旋の有刺鉄線も二重になっている。二重の有刺鉄線は間隔を開けている。ウマでは越えられないが、レベッカたちはそうは思っていない。空濠は深いが狭い。針金を並べただけの柵なんて、障害とは呼べない、と考えている。

 それは、28騎の正規兵たちも同じだった。
 1騎が入口のバリケードに近付く。
 冑を脱ぐ。銃はサドルに付けたガンケースの中。
 翔太は、バリケードに向かって歩いて行く。軍用ヘルメットは、被ったまま。ボディアーマーも着けている。銃以外なら何でもネットで買えるので、低強度戦争の準備は簡単だ。

「せっかく来ていただいたが、あいにく、我々は貧しくてね。白湯も出せない」
「もてなしは結構だ。
 ずいぶんとみすぼらしい要塞だな」
「あぁ、貧しいんでね。
 だが、あんたたちは入れない。
 我々の許可なしにはね」
「正気か?」
「あぁ。
 で、あんたは何者だ?」
「私はこの地の領主に仕える軍人だ」
「正規兵か?」
「そうだ」
「領主とやらはあんたたち以外に、ならず者を雇っているようだな」
「そうらしい」
「あんたたちは違うのか?」
「兵にもいろいろな種類がある。
 ここの住民をいたぶる任務は、これが初めてだ。やりたくはないが、命令なんでね」
「すまじきものは宮づかえ、か」
「それ、何だ?」
「雇われ人に自由はない、ってことさ」
「まぁ、そういうことだ。
 あんたたちを殺せと命じられた」
「そうか。
 それでは、殺し合いを始めよう」
「いい度胸だ。
 騎士には見えないが……」
「あぁ、畑を耕したいだけだ」
「農夫というわけか。
 殺すには残念な面魂だ。
 名を聞いておこう。農夫殿」
「ショウ・レイリン」

 翔太は、土嚢の内側に戻る。
 レベッカが「何をお話になったのです」と尋ねる。
「攻めてくる。
 それぞれの配置につけ」

 戦闘配置につくと同時に、戦いが始まる。戦いの帰趨を決する天の恵み、雨は降り出さない。
 5騎が空濠と有刺鉄線網を飛び越えようとして、失敗する。
 2騎のウマと兵は有刺鉄線に絡め取られ、針が身体を傷つける。銃手のアネルマとエイラが1人ずつを射殺、3騎はウマが嫌がり、空濠の手前で止まった。

 正規兵の隊長は、空濠を飛び越えれば、針金の束など蹴散らせると考えていた。
 だが、ウマは針金に足を取られ、兵は身体が有刺鉄線に絡まり動けなくなった。
 正規兵の隊長は、何もしないうちに2人を失う。1人は副隊長だ。歴戦の兵士が針金で身体の自由を奪われ、頭を撃ち抜かれた。
「罠だ」
 正規兵の隊長が呟く。
「正面から攻める以外ない。正面の障害物を取り除くぞ!」

「正面から来る。
 あの隊長はバカじゃない。戦い慣れしているし、犠牲をいとうだろう。
 厄介な相手だ。
 バリケードの排除を仕掛けてくるぞ」

 傭兵隊は縄を投げてバリケードに引っかけ、ウマの力で引っ張り出そうと何度か仕掛けた。
 最初はウマに乗ったままで、何回かは匍匐で近付いた。
「このために畑に鋤を入れたのか」
 遮蔽物がまったくなく、地面は深部まで柔らかく、ウマは走りにくい。
 殺す相手は、土嚢で囲った陣地から姿を出さない。
 土嚢から150メートルの畑に突っ立っているが、日没を待つわけにはいかなかった。
 手荒な仕事が専門の傭兵は、その農場にいる何人かの女を、以前から何度も襲うが逃げられていた。
 農場に向かったはずの兵が戻らない。その後、農場に逃げ込んだ娘を追うと撃退された。
 国家間の戦争がなくなり、平和が訪れたが、汚れ仕事をしない正規兵は需要を失いつつあった。いまの仕事がなくなれば、解雇されるかもしれない。職を失えば、盗賊になるしか生きる道はない。
 役に立つことを示せなければ、職を失う。代官として赴任した新領主の三男が酔って寝てしまう前に、結果を報告しなければならない。
 彼らも必死だった。

 アネルマは、すでに2騎を狙撃している。ヤーナも1騎倒した。
 ウマは無理と判断し、徒歩で近付くがエイラに狙撃されて、引き返す。
 匍匐は、狙撃で身動きできなくし、エイラが矢を大落射角で放ち、背を射貫く。
 両者はにらみ合って、膠着する。

 この状況は、すぐに破られた。
 レベッカが200メートルの距離を狙撃したのだ。有効射程の2倍の距離だ。
 銃声とともに泣き出しそうだった空が、雨滴を落とし始める。
 正規兵たちが、ウマを使わず、身をかがめて入口に走り寄り、翔太たちの頭を下げさせるために、カービンを発射。カービンを捨て、短銃を抜いて、入口のバリケードを潜って土嚢に向かって走り寄る。
 ヒルマの矢は外れ、ヤーナの矢は命中したが急所を外す。兵士は肩に矢を刺したまま、平然と走り寄ってくる。
 動きの速い相手に、120センチもある長銃を接近戦で使うことは適当ではない。それに、前装式単発銃では、発射すれば次弾装填の余裕はない。
 アネルマはライフルを発射すると、すぐに6連発拳銃を抜いた。
 正規兵とレベッカたちは、すでに発射している。レベッカ側は、エイラとレベッカが胸に銃弾を受けていた。
 正規兵側は勝利を確信していた。無反で両刃の長剣を抜く。制圧する相手は5人の若い女性と、農夫の男、そして子供。
 歴戦の正規兵の敵ではない。

 正規兵は驚いた。胸を撃った女性が立ち上がり、銃を再装填して発射したのだ。4人の女性は銃を変えて連続して発射する。
 農夫がようやく立ち向かってきた。女性に戦わせ、隠れていた男が勇気を振り絞ったように思えた。

 翔太は雨に濡れながら、自分の身体がゆっくりと動いている感覚を楽しんでいた。
 勇敢な兵士ではなく、禁酒法時代のギャングのような感覚だ。
 シカゴタイプライターと渾名されたアル・カポネのようなギャング御用達のトンプソン短機関銃を発射する。

 弾丸を雨のように発射する銃など、あり得ない。理解する前に、正規兵が倒れる。

 戦いのクライマックスは、数十秒で終わった。
 8人がバリケードを越えて後退したが、レベッカが追い打ちをかけ、2人を背後から撃つ。
 2発とも命中。

 陣地内に倒れている正規兵は6人が生きていた。4人は意識がある。1人は軽傷で、彼は戦闘中に降伏した。
 この世界には“捕虜”という制度はない。敵に捕らえられれば、殺される。例は少ないが、解放されることもある。また、社会体制によっては奴隷になる。
 生死は確率だ。殺されない、と判断したから降伏した。

 アネルマたち4人の10歳代は捕虜を「殺せ」「首をはねろ」と息巻くが、翔太が「そんな必要はない」と制止する。

「隊長、6人が逃げた。
 雇い主のところに戻ると思うか?」
「いや、ねぐらに戻ったら、蓄えをかき集めて逃げる。この失態は、言い訳のしようがない。
 農夫殿は、これからどうするんだ?
 我らは敗れたが、次も、その次もある。別の部隊が送り込まれるぞ」
「そこで知りたいんだ。
 領主の正確な戦力について」
「義理がある。話せない」
「隊長、あんたの足では立つこともままならない。それに、こちらは女性6人。うち1人は子供だ。それと、ただの農夫が1人。
 隊長が戦力を教えてくれるなら、逃げ出せる可能性もある。
 そもそも、10人にも満たない我々は脅威じゃないだろう?」
「あぁ、だが、あんたが手にしているものは脅威だ。どういう仕掛けか知らないが……」
「隊長、銃1挺で何ができる?
 何もできやしない。
 あんたが何を話しても、大勢に影響はない。
 それと、もう義理は果たした。負傷したんだ。領主に借りはもうないよ」
「そうだな……。
 代官の正規兵は精鋭だ。50人以上いる。
 私たちは正規兵装備の傭兵なんだ。正確には傭兵ではないが、まぁ、雇われているのだから傭い兵だ。
 傭兵は時々で雇われる。常時雇用されている傭兵は、我々以外にはもう1隊ある。異国の兵だ。
 我々と別の隊以外は、盗賊のようなものだ。荒事を請け負うことが多い。3隊合計で50人くらいだ」
「150から200人か?」
「そうだ。
 ところで、おまえはレイリンを名乗ったが、本当にレイリン家の男なのか」
「あぁ、そうらしい」
 アネルマがすかさず声を張る。
「叔父上は、レイリンの当主となられた。レイリン唯一の男なのだから、当然だ」
 隊長が足の傷を気にしながら、見上げる。
「あんた、無事ではすまないぞ」
 その声は穏やかで、脅してはいない。
「そうなのだろうが、いい迷惑だ。
 降りかかる火の粉は払わなくちゃならないし、逃げ出すという判断もあるが、そうもいかないんだ。事情があってね」
「畑なんて捨てちまえ」
「いや、畑じゃない」
「それじゃ、何だ?
 農夫にとって畑は生命だろう?」
「それは、言えないんだが……」
「当主殿、あの男は強欲で淫乱だ。
 その上、狡猾で残虐。
 並みの男では、戦っても勝てないぞ」
「隊長、その淫乱野郎の話をもっと聞きたい。
 話してくれれば、服を乾かし、もう少しマシな傷の手当てと、化膿しないようにしてやる。
 全員だ」
「助けてくれるのか?」
「いいや、助けるんじゃない。
 あんたは情報を与える。その見返りに俺は傷の手当てをする。
 単なる取り引きだ」
「やはり、ただの農夫ではないな」

 雨は戦闘が終わると同時にやんでいた。
 翔太はアネルマを見る。
「アネルマ、こいつで見張っていろ。
 俺は、陣地の外にテントの用意をする」
 アネルマにトンプソン短機関銃を渡すと、銃口を捕虜に向ける。
 もっとも傷の浅い兵が「それをこっちに向けるな!」と悲鳴に近い声を出した。

 捕虜は、アネルマとヒルマが見張る。

 地面にブルーシートを敷き、その上に空気で立体化する防災テントを置く。
 100キロ近い重さがあるので、1人では運べない。ミニショベルのバケットに吊り下げて移動したのだが、それを驚嘆する目で捕虜たちが見ている。
 充電式送風機で膨らませるのに5分ほど。これで間口5メートル、奥行き6メートル、高さ最大3メートルのテントが完成する。
 捕虜をそのテントに移動させ、服を渇かすために脱がせる。

 レベッカは捕虜を治療することに不満だ。過激な発言をする若い4人より、レベッカのほうがリアルに怖い。
 翔太は、そこは無視する。
 傷を消毒し、弾を取り出し、止血・縫合する。1人は重体で、麻酔にはジエチルエーテルを使ったが、効果が出るのに時間がかかるので手術は夜になった。
 このとき初めて、充電式LED照明を使った。これには、誰もが驚いた。驚いていないのは、イルメリだけ。
 イルメリが語った異世界の道具、食べ物を入れておくと凍らせてしまう箱、冷え切った食べ物を一瞬で暖める箱、汚れ物を入れるだけで洗濯してくれる箱、一瞬でお湯を出す箱、無限に水が出る筒、などが一気に現実味を帯びてくる。
 そして、彼女たちがもっとも求めたものが、洗濯機だった。洗濯は川で行うが、長時間を要する重労働で、野生動物に襲われる危険があった。それに加えて、武装集団による襲撃も問題だ。
 洗濯機があれば、それが一気に解決するのだ。この地における洗濯は、生死に関わる危険な仕事なのだから、当然の要求だ。

 翔太は、彼の父親が集めた太陽光パネルの設置を決める。直交変換器(DC/AC)があったので、使うことにする。バッテリーはない。発電後即消費だ。
 夜間の照明は、小型のプロパンガスエンジン発電機を使う。
 翔太の父親が建てたポツンと一軒家には、電力会社からの送電がない。太陽光発電とディーゼル発電で、電力を賄っていた。この家での小型プロパンガスエンジン発電機は、非常用の必須設備だ。
 洗濯機は、翔太が妻子と住んでいたマンションで使っていたものを充てる。彼の父親が建てた3棟のテント倉庫1棟の一画に保管していた。ここには、冷蔵庫やオーブンレンジなど生活家電一式が置かれている。
 物に執着しない翔太だが、これらは幸せであった頃の証であり、見れば複雑な心境になる。そして、処分できなかった。

 翔太は、無酸素の地下空間に何が置かれているのか詳細に調べ始める。
 結論は、彼の高祖父はどこかの小藩の武器庫を丸ごと手に入れた。時期は明治の初期で、廃藩置県が行われた直後。
 藩名が書かれた台帳が残されていた。ただ、江戸期の手書き文書なのでほとんど意味がわからない。仮名も現代仮名とは異なるので、解読できない。
 刀槍、火縄銃、フリントロックのままの滑腔銃身のゲーベル銃、パーカッションロックに改造されたゲーベル銃、前装式ライフルのミニエー銃、ミニエー銃を後装に改造したスナイドル銃。
 拳銃は、パーカッションロックのレミントンM1858リボルバー、M1858のカービンタイプもある。この回転式6連発銃が小藩の秘密兵器だったらしい。
 時期的な判断だが、ウインチェスターM1873とS&W No.3リボルバーは、小藩の武器とは別に高祖父が明治以降に集めたもののようだ。

 祖父の遺品は調べ切れていない。銃は、トンプソンM1921短機関銃、コルトM1903自動拳銃、コルト・ニューサービス6連発リボルバーの3挺のみ見つけた。コルト・ニューサービスは、.44-40ウインチェスター弾仕様だ。
 この弾がウインチェスターM1873とS&W No.3リボルバーで使える。
 装甲運搬車が、何に使われたのかはわかった。翔太の父親のポツンと一軒家が建つ土地は、戦前までは雑木林だった。戦後、祖父はこの荒れ地を開墾し、芋畑にした。そして、食糧事情が悪い敗戦直後を乗り切った。
 農地開墾のための作業機として、装甲運搬車を使った。太平洋戦争敗戦直後に入手した可能性が高い。
 林業の再開後は、牽引具が残されているので木材の牽引車としても使った可能性がある。
 アメリカ軍の接収を免れた日本製戦車は、ブルドーザーやトラクターなどに改造され、更正戦車となったが、祖父の装甲運搬車も同じで敗戦直後にリッパを牽く作業機とて使われた。
 祖父が自動車整備会社を設立するのは、それからだいぶのちのこと。
 ただ、車体幅が1.92メートルもあるので、土蔵扉をどのように通過させたのかわからない。
 入手したものの警察やGHQ(連合国最高司令官総司令部)に咎め立てされることを恐れて、ここに隠した可能性もある。
 ただ、残されたリッパには使用痕があるから、開墾に使われたことは確かなようだ。
 占領が終わった独立後は、林業に長期間使われたことも確実。

 捕虜は4日間、翔太たちの陣地で過ごす。1人は重体のまま動かせず、5人には迎えが来た。
 あの戦闘で逃げ切った兵だ。ウマと馬車で戻ってきたのだ。
 1人が剣と銃を地面に置き、両手を挙げてバリケードに近付いてくる。
 翔太が近付く。
「何の用だ?」
「隊長が生きていると聞いた。
 できれば、助けたいと思ったんだ。
 身代金は払う。解放してくれ」
「仲間が大切なんだな」
「あぁ、戦友だし、俺の親父みたいな人だ」
「身代金は不要だ。
 すでに、対価はもらっている。
 連れて帰ってくれ。
 だが、1人は無理だ。いま動かすと死ぬ」「誰だ?」
「30歳代半ばの女性兵だ」
「ピエンベニダか……。
 最近加わった補充兵だ。彼女のことはよく知らない。どうする気だ?」
「どうもしない。
 回復すれば自由だ。
 銃と剣を置いて、馬車を持ってこい」

 隊長は肩を借り、2人は担架で、2人は自力で歩いて馬車に乗る。
 翔太は、5人に武器を返す。
 御者の隣に座る隊長が、翔太を見る。
「当主殿。
 言い方はヘンだが、世話になった。
 俺たちは南に行く。
 くれぐれも領主の四男殿には気を付けろ。
 無事を祈る」
「あんたもな。隊長さん。
 これから、どうする?
 戦〈いくさ〉はもうないのだろ」
「どこかに土地を買って、仲間と村を作る」
「縁があったら、また会おう」
「そうだな。そのときは、あんたの敵にはなりたくない」

 ウマに乗る2人が、振り向きながら帽子に手を当てた。挨拶したのだ。

 翔太にいま必要なものは、軍資金。金目のものは、彼の父親が残した骨董品の四輪駆動車だけ。
 ライトブラウンとホワイトのツートンで塗装され、完璧にレストアされたランドクルーザーFJ55ワゴンは、買い手に心当たりがある。
 商談を持ちかけると、すぐに成立した。金額は税抜き500万円で成立。
 商談相手は、レストア済みのFJ40も買ってくれた。こちらは250万円。
 軍資金は、手に入れた。
 当面の生活はどうにかなる。

 翔太は次の段階に移る算段を始める。
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半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

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