どーでもいいからさっさと勘当して

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上下果てなし

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暴力、戦闘シーンあり。
ーーー







 気絶しているニーナがそのまま乱雑に教師不在の部屋に押し込まれた一方で、アデルは廊下を歩かされていた。留守番役だった学生やニーナを襲った者、その後から出てきた生徒や従者たちに囲まれて。

「……ファリーナさまをどうするつもりなのですか」
「『大輪』はなんともお優しい。自分より格下の者を案じるか」
「あなた方に誉められる筋合いはございません。私の侍女にも、彼女にも、これ以上よからぬことを企みになさるのでしたら、覚悟をすることです」
「はっ、覚悟、ね」

 暗にスートライト侯爵家を敵に回すぞ、と言ったのだが、なぜか会話を主導する学生は鼻で笑い飛ばした。他の生徒も同じく、にやにやと、気色悪い笑みを浮かべて、それでも周囲には雑談をしているように見せかけて、ゆっくりと足を進めてゆく。アデルも表面はにこやかな笑みを貼り付けていたが、内心は疑念と恐怖と焦燥でいっぱいいっぱいだった。
 彼らがアデルの体を目当てにしていることは、時々腰や肩、背筋に無遠慮に触れられるべったりした手の感触や視線の動き、なによりもその下衆めいた瞳から明らかだった。生まれてこの方、ほとんどの異性からそういうものを向けられているので慣れている。
 けれどもそれで恐怖が薄らぐわけではない。今、アデルが傍目にも毅然として見えるのは、ニーナが襲われたあの場でことに及ばれなかったからだ。移動を強引に促されてこうしているわけだが、歩いているうちはまだ猶予がある。
 アデルは時々水を差されながらも、必死に足りない思考を回して状況把握に努めていた。

(部屋を差し出してるようなものだもの。私を呼び出した先生も、お仲間よね)

 呼び出しの時点でアデルを目的としていた、ということ。なら、ファリーナを引き離したのも作戦のうちだろう。……あまり考えたくないが、ナタリーも疑わなくてはなるまい。 そしてスートライト家を鼻で笑う態度からして、何か兄にもよからぬことをするつもりなのだろうかと一瞬不安になったが、あの兄が負けることはありえないのですぐ切り替えた。

(今は、どうやってこの場を切り抜けるか、よ)

 じわじわと恐怖が優勢になってきたが、おめおめと相手の言葉に従った自分の判断を悔やみたくはなかった。ニーナもファリーナも、アデルにとっては喪うことは絶対に許されない存在だったので。
 だからといって、自分がこのまま汚されるのを待つのも論外だ。この身はアデルだけのものではなかった。小さな頃からアデルが磨いてきたもので、兄と姉が大事に守ってきたもので、つい最近も、屋敷の皆がアデルに「こんなに素晴らしい刺繍をありがとうございます」と言ってくれた。
 そして、ニーナもファリーナも、彼女たち自身が無事でも、アデルが汚されたらとてつもなく傷つくだろう。だって、アデルを躊躇なく抱きしめてくれた。素のアデルを受け止めてくれた。

 兄や姉になりたかった。
 今このときだけ、奇跡的に天啓が降りないかと期待した。
 強くなくて、賢くないアデルでは、状況把握だけで思考が止まる。どうやったらみんな無傷ですむのか、全然わからなかった。考えても考えても、行き詰まって堂々巡り。焦って視線を外へ向けるも、人気のほとんどない廊下なのでどうしようもなかった。

「――ぃやっ!」

 不意に、髪を掻き分け首に触れられてゾッとした。
 全身でその手から離れた瞬間に我に返ったが、相手は嗜虐的に笑みを深めていた。他の男たちも、また。一人などはふざけて「これは失礼しました」と、アデルの手を強引に掴んでその甲に口付けてきた。素手なので手や唇の感触が直に伝わる。
 今すぐこの場から逃げ出したくてたまらなくなった。怖い。気持ち悪い。嫌だ。汚い。震える手をどうして取り返せないの。どうして足が動かないの。やだ。やだ。やだ……!

「今のは仕方ないが、大人しく、私たちについていきましょうか。ご友人が大切なのでしょう?」

 ぐいっと手を引っ張られ、強引に歩かせられる。どこに行くの。そう言えない自分が情けなくて、情けなくて、でも口を閉じるしかなかった。

(どうしよう)

 どうしよう。どうしよう。助けて兄さま姉さま。リーナとニーナが危ないの。馬鹿な私じゃ守れないの。失くしたくないの。手離したくないの。

 お願い、助けて。

 私たちを助けて。











 校舎の外に出て、これまた人気のない外廊を歩かされて、アデルはとうとう絶望した。
 目の前に、いかにも終点な物置小屋があった。

「さあ、アデライト。我が妻よ」

 気安く名前を呼ばないで、なんて言葉は出なかった。一人が開いたその扉から押し込まれ、強張った足ががっくりと折れて転び、手のひらが擦りむけた。
 先頭に立つその生徒は、既に胸のタイを緩めていた。アデルの足を跨ぐようにかがみ込む。はっとアデルの息が止まった。

『アデル、これはほんとに非常事態でだけ使うのよ』

 ヒルダから教えられた最終兵器を奮ったのは無心の果てだった。
 扉をぶち抜くアデルのキック力は下半身の柔軟性からもたらされたものが半分以上だ。だから、こんな不利な態勢でも跳ね上げた膝が相手の股間に直撃するやいなや、生徒が「おふっ!?」と情けない悲鳴と共に転がっていったことは、当然のことだった。
 アデルは髪を振り乱して必死に距離を取ろうと後ずさった。ヒルダに教えられたときは脱兎のごとくその場を後にすることもセットだったが、今、逃げ道はなく、自然と物置小屋の奥に進んだ形になる。しまったと思ったときには、アデルの体にゆらりと起き上がった影がかかっていた。

「こ、この、優しくしておけば……!!」

 わなわなと震える手が拳の形を作っている。もう片方の手がアデルの胸ぐらを掴んだ。拳が振り上げられ、アデルは反射的に目を瞑った。

「ラ、ラインさま、さすがに殴るのは!――っ!?」
「うるさい!黙って外を見張っていろ!」

 小さな風が吹いた。
 アデルは、何かに突き飛ばされた感覚でぱっちりと目を開いた。そして、見た。
 アデルの代わりに、忽然と現れた黒い影が殴られているところを。その影の姿形から思わず「に」と動いた口は、それ以上動かなかった。兄さまじゃ、ない。

 ――誰?

「貴様、フェルトリタ家の……!」
「……あー、どーも、お久しぶりですキルデア侯爵令息。覚えていただけるようで何よりデス」

 体が傾ぐ勢いで殴られたウィンスターは、顔をしかめながら頬を拭い、……それでも、ふざけた笑みを浮かべ、その場にとどまった。
 アデルを背後に庇ったままで。

「落ちこぼれの分際で、何をしている……!?」
「いや、それはおれも聞きたい」
「は……!?なにをふざけたことを。おれの邪魔をするなと言っているんだ格下の落ちこぼれ風情が!まさか貴様ごときが『大輪』をおれからかっさらおうとでも?笑わせる!」
「いやあまじで笑えるっすねそれ。あっはは。――なあクロード。お前、こないだの窃盗云々の事件でどうせヘザー家から足切り寸前なんだろ?せっかく第三学年に進級できたってのに、こんな真似してちゃ勘当もんだろ」

 入り口のところに突っ立っていた生徒がびくりと肩を震わせ、ウィンスターを睨み付けた。

「うるさい!なぜお前がそれを知ってるんだ!」
「ちっさい頃に家庭事情話してくれたのはお前だろ。そもそも男爵家崖っぷちの三男、運動も苦手だからせめて勉強教えてくれーって泣きついてきたことも忘れたのか?バルメルク家から圧力かけられてほんとの崖っぷちに立って、やることがこれでいいのかよ」
「……っ!」
「当たり?まあそんなところだろうと思ってたけど……」

 ウィンスターがちらっと目の前のキルデア侯爵子息にその視線を向けたのは、「あんたもそうなんだろう」という暗黙の確認で、突然出てきたバルメルク家の名に顔を強張らせた様子だけで図星だとわかった。じゃなきゃ、王兄・王子派の彼らが、こんなふざけた真似をしでかす訳がない。
 無理やり「大輪」を手籠めにしておいて、心を手に入れたと触れ回って社交界の地位を保とうとするなんて常識外れでぶっとんだことを、しでかす訳がない。

「……さっさと引くことをおすすめしますね、おれは。さっき警備兵にも声かけてきたんで、もうすぐここバレますよ。そうなったらどうなるとお思いで?あの『絶氷』が家の看板に泥を塗られて黙ってるわけないだろうし、あんたんちの方からもおとがめ来るでしょ」

 今度は警備兵、という言葉に怯んだようだった。アデル含め。
 はしっと背後から袖を掴まれ、ウィンスターは初めてアデルを振り返り、目を丸くした。なんでまた青ざめてる?

「リーナ……ファリーナ、さま、とニーナは、無事?」
「は?なん――ぐっ」
「きゃっ!」
「ふ、ははっ!警備兵ごときにこのおれがどうにかなるとでも?『絶氷』も、おれが下したと知れば父上はお慶びになるだろう。スートライト領を接収すれば、バルメルクなどという位が高いだけの日和見の一族なぞ末席に追いやってやる!」

 ウィンスターは、ライン・キルデアに蹴られた腹の激痛よりも、与えられた情報量の多さに目眩がした。しかし、彼にとって思考行動の優先順位はとっくの昔に決まっていた。

「……そういうことか。あいつを庇ってくれてたんだな、あんた」

 ならますます引けらんないな、と内心で呟く。あいつを守ってくれてありがとうなんて、言える立場じゃないから、せめて。

(……っつってもどうしよう。ハッタリかけても開き直られちまったし)

「ヘザー。他の連中も呼んでこいつを摘まみ出せ」
「は、はい」

 実は警備兵なんて呼ぶ暇もなく、無策で飛び込んできてしまったウィンスターは体を強張らせた。これまでもずっと会話の最中に切り抜ける隙を探していたが、どいつもこいつも崖っぷちすぎて、遠回しの脅迫も直接的な牽制も、全て通用していない。こうなれば強行突破しかない。
 後ろ手にアデルの手を掴み、じりっと後退りつつ態勢を整える。アデルの柔らかい指はひどく冷たくて、震えていて、……ウィンスターの手を握り返してこないので、ますます手に力を込めた。勝手に絶望されても困る。ほら、クロードの意識が外に向いた。ウィンスターはアデルの手を掴んだまま勢いよく走り始めた。が、左肩に鋭い一撃が振り下ろされると同時に横っ面を殴り飛ばされた。

「貴様ごとき、このおれが御すこともできないと思ったか」
「……うっわ正気じゃねえな」

 思わず敬語も礼儀も忘れて愚痴と血の混じった唾を吐き捨てたのは仕方がないと思う。なにせ目の前の男、腰に吊り下げていた護身用の剣を鞘から引き抜いていた。
 ライン・キルデアは学園内でもそれと知られた剣の使い手だ。サボってばかりの不良学生では敵いようもない。ましてや、脳震盪でも起こしたのか頭がくらくらするし、鞘で打たれた肩から下は使い物にならない。
 これでとっさにアデルを庇えた自分を褒めたいが、最後まで守りきれないなら同じだ。
 アデルの元に這い寄りつつ、己めがけてまっすぐ振り下ろされる剣を見つめた。踊る影、悲鳴、一直線に落ちゆく閃光。片時も目を逸らさず、閉じない。絶体絶命でも、まだ死んでない。まだ守れる。できることがどこかにあるはずだ。肉壁でもなんでも、最後まで守りきれ。

(今度こそ……)

 不意に鳴り響いた甲高い音と共に、剣筋が大きくぶれた。弾かれた剣先に驚愕の視線を向けたラインは続く二撃目につんのめり、ウィンスターのすぐそばに崩れ落ちた。

「――立って、逃げろ!」

 小屋の入り口に、真昼の光を背後に立つ人物がいたが、どうにも逆光が変な輪郭を映し出している。人間のものじゃない。ウィンスターもアデルも何度も瞬きを繰り返して、やっと認識できたとたん、度肝を抜かれた。

「は?か、え、はっ?」

 ウィンスターは自分の目を疑ったが、何度見しても、いくら瞬きしても現実は変わらなかった。
 輪郭がおかしいのは当然だった。

 その人物は頭からすっぽりと紙袋を被っていた。







☆☆☆








「いいから早く出るんだ!」

 がっくりと気が抜けそうな格好をしている反面、焦ったように追いたててくる不審人物は、手に細い棒のようなものを持っていた。紛れもなく今ラインを倒したのはこの人だった。
 紙袋の目の部分だけはちゃんと穴が空いていて、そこからウィンスターたちを見ているようだった。服装も謎。どこから拾ってきたのか、麻袋を裂いたような変なマントを着ていた。体格の印象も、性別すらも曖昧だった。

 が、アデルには、誰なのかは一目瞭然だった。
 ぽろ、と、やっと一滴の涙がこぼれ落ちた。

「……姉さま……」
「は!?」

 紙袋はちっと舌打ちをこぼし、うつ伏せのまま不埒な動きを見せていたラインの手を棒で突き刺した。

「ウィンスター・フェルトリタ!呆けるな!その子を守れ!!」

 苦悶の声に勝る怒号に我に返ったウィンスターは、アデルの手を掴み直し、ふらふらと立ち上がった。
 紙袋も二人の背後を押し、三人ひとかたまりで物置小屋から脱出を果たした。ウィンスターもアデルも、小屋を囲んでいた学生が地面にのたうち回っているのに目を丸くしたが、紙袋は構わず二人の背中を押した。

「傷は浅い、追いつかれる前に早くここから離れろ」
「……わかった」
「ね、あ、あなた、は」

 アデルの問いかけに、紙袋の下でその人が笑った気配がした。さらりとアデルの頬を撫で、髪についた埃を払う。アデルは、その瞳が激しい瞋恚に染まっているのに、今さらのように気づいて息を呑んだ。
 笑いながら、怒っている。かつてないほどに。棒を握る手が震えていた。

「――のことは気にしないで。行きなさい」

 紙袋は走り始めたウィンスターとアデルの後ろに続いた。復活して襲いかかってきたどこぞの従者はその懐に入り込みぶん投げた。受け身が取れたということは、やはり護衛の役も負っているのだろう。といっても、紙袋は、相手の態勢が整うまで待つ義理も優しさも持っていなかった。ましてや、今この時にかける情などどこにもない。
 さっさと側頭部を警棒で殴り飛ばし、遠ざかりはじめたアデルたちの後ろを振り返った、その瞬間。

「――っ!」

 右足の付け根に痛みが走ったのと同時に、警棒の取っ手に強い衝撃を受けて取り落とした。それでもとっさに体を捻って三つ目の攻撃を避ける。
 飛びずさる紙袋の前にふらりと現れた学生は、ピュイ、と呑気な口笛を吹いた。

「うっわーすごい。そんな爆笑もののハンデつけといて今の動き?ヤバいねあんた」
「……あなた、ここの学生じゃないな」
「あれ、なんでわかったノ?」

 きょとんとする少年は、片手で余裕ぶってナイフを弄んでいる。芸人のような滑らかな手捌き、隙のない立ち姿、この場における異様な落ち着きは、温室育ちの貴族のものではありえなかった。
 紙袋の下から盛大な舌打ちが漏れた。脳裏に過るのは、頭部に血痕を残した友人の姿。アデルを守る奥の手でもある彼女を容易く無力化できる人間は限られる。

「スートライト侯爵令嬢の侍女を倒したのもあなたか」
「マー、このお坊ちゃんたちじゃ敵わないからサ。手助けしただけダヨ」
「そのわざとらしいカタコトやめろ」
「あ、ばれた?」

 不意に少年はひょいと首を逸らした。急襲に失敗した紙袋はナイフを逆手に持ち直して第二刃を迫ったが、これも躱された。

「うっわ怖。仕込みあり?あんたほんとに元でも貴族令嬢?」
「――なんの話だ」
「口調変えてそんな変装して、それでも捨てた家族が大事?」

 思わぬことを言い当てられ一瞬硬直した隙を狙って、少年がとてつもない速度で間合いに踏み込んできた。身構える紙袋ににんまりと笑いかけ、その脇を通りすぎ、背後から紙袋を襲おうとしていた学生を一撃で無力化した。

「もう失敗してんだからさあ――邪魔すんなよ」

 紙袋に語りかける声ほどの温もりもない無機質な「音」に、紙袋は、ぞわりと背筋が震える思いを味わった。仕事中のヒューズたちを彷彿とさせる威圧感。

「雑魚が粋がったって敵う相手じゃないって、その見極めもできないとかほんとに雑魚って感じ。潔く首括っとけよ」

 紙袋は、一切、その場から動けなかった。少年が駆け回って、起き上がる学生らをまた気絶させていくのを、見守ることしかできなかった。大して動いてないはずなのに、呼吸が大きく乱れるのを抑えられない。

「その点、あんたはほんとーに強いよね。おれとの差をちゃあんとよくわかってる」

 軽い足取りで戻ってきた少年は、また無遠慮に間合いを詰めてきた。今度はナイフを仕舞い、素手を伸ばしてくる。蛇に睨まれた蛙のように微動だにしない紙袋に触れ、存外に優しい仕草で持ち上げた。露になった顔は、恐怖と緊張でひきつっていたことだろう。それを見て、なぜか少年は満面の笑みを浮かべた。

「わ、かーわいっ!おれの好みドストライク!結婚しない!?」
「……しないわ。気安く触れないで」

 第二の変態が現れた。
 ヒルダは一歩下がって手櫛で髪を整えた。少年から漂うおぞましいほどの殺意は消え去っていたので、そこは安心である。油断はできないが。
 アデルたちはきっと逃げ切れただろう。追っ手となるべき者は、この少年が全て倒してしまったので。

「……あなた、ルーデル国の手の者ね」
「よくわかったね!」
「あなたがわざとらしくそこの訛りを使ってきたんでしょうが」
「……んー、やっぱ、おれと結婚しない?こんなとこで息潜めてるより、よっぽどまともに生きていけるよ?不自由もさせないし!本国でのおれの地位知りたくない?」
「全然、これっぽっちも、わずかたりとも、紙一枚の厚さほども興味なんてないわね」
「わー全否定!好き!」
「反王太子派を使ってなにをしたかったの」
「クールで痺れる!」

 苛立ち紛れのひと突きは難なく躱され、ナイフを持つ手を掴まれた。少年の背丈はヒルダと並ぶほどだ。ぐいと覗きこまれ、その不思議な虹彩の目が蛇のようにゆっくりと瞬き、細まっていく――。

「元々、誘いをかけてきたのはあんたの親だよ?」
「……え?」
「あーその顔が一番好きかも。隙だらけでぶっ」

 今度こそヒルダは攻撃に成功した。頭突きついでに胴体に膝をめり込ませ倒れたところで腕を捻り上げようとしたが、少年はありえない柔軟性でぐるりと宙返りして拘束を抜け出すと、ととんっと近くの木の幹を走るように登って物置小屋の屋根に飛び移り、「すごいすごい!」と鼻をさすりつつ笑った。

「もう今回は時間切れ。残念だけど、また仕事があったら遊びに来るよ!」
「待ちなさい!」

 来ないでいいしむしろこっちが捕まえに行ってやる。今すぐにだ。
 そう駆け出したヒルダに、少年は余裕の投げキッスを決め、ひらりと物置小屋の向こう側に消え去った。


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