とある護衛の業務日記

文字の大きさ
上 下
22 / 29

六ヶ月経過③

しおりを挟む
 時間がないのが問題だった。
 クソガキ二号には昨日までの要領で城に潜入してもらう。おれと三号は正面玄関から喧嘩の叩き売りだ。

「私はランス国ディオ家の使者、ルテマリア・グロース。こちらにディオ家次期当主がいらっしゃるのはわかっている。急ぎ私を案内せよ」

 申し訳程度の人員しかいない城だが、この言葉には驚天動地の衝撃を感じているのはよくわかった。目の前で紹介状もなく唐突に訪れたおれらに適当に応対しようとしていた城宰は腰を抜かさんばかりになっている。目はおれの掲げた上質紙の文字と花押に釘付け。顔面は真っ青。クソガキ三号が高らかに声を張り上げたもんだから、門番や門の上を哨戒する兵士たちにも聞こえて、あっちも同じような反応をしている。
 クソガキ三号ははじめこそうじうじしていたが、いざとなれば胆の据わりは期待以上だ。冷たい容貌でまともな思考判断ができそうにない城宰に詰めより、一国の最高位貴族家の威を借りて虐め抜いている。

「な、なんのことでしょうか?」
「なんと、ご存じないと?半月前、当家からディオ家次期当主であるレオナール・ディオさまが拐われたのだ。拉致犯がこちらに潜伏していると情報を受けてお迎えに参上した次第」
「馬鹿な!」
「ディオ家の調査能力を侮らないでもらおう。さあ、どこにいらっしゃる?……おや、まさか案内できないと?それでは貴君らは立派な反逆者だ。かの公子はランス国とここルスツ国の和平に立ったライオネル・ディオさまのご子息であるぞ。ルスツ国王陛下が貴君らの態度を知ればどう思われるかな?」

 しかも隣国とはいえ他国の国王の威まで借りはじめていた。冷静に聞けばおかしいと思うだろうが、城宰も兵士たちもまだまだ衝撃から抜け出せていない。……にしてもこいつ、単純バカかと思ったら案外口が回るな。裏社会に片足突っ込んでも無事だったのはあの大人しそうなクソガキ四号がフォローしてたからかと思ってたが、そうでもなかったようだ。

「止め立てするようならば私も手段を選んではいられない。押し通る」
「まっ……お待ち下さい!」
「――あんた、レイテ神皇国の者だな」

 かねて用意していたおれの言葉に、ぴたりと城宰が固まった。

「おかしなことだな。なぜルスツ国と我が国の国境に位置するこの城に、地理的に無関係の国の者が我が物顔で居座っているのやら。よもやルスツ王国は、また我が国に戦火をもたらそうと?しかも非戦を謳う神皇国とどのような縁があって我が主を匿っているのか……」
「う、嘘だ!!」
「ならば案内して頂けるのだろうな?」

 クソガキ三号のだめ押しに城宰は喜び勇んで踵を返した。疑いを晴らすことこそ優先だと思ってくれて結構。――っと。

「わっ!?」

 おいボロが出てるぞクソガキ。門の上から飛んできた矢を払い落とすと、クソガキ三号にじろりと視線をやった。……よし落ち着いたな。行け。

「……これはどういうことか。まさか正式な使者である私を害そうと?」
「そ、そんなことは――おい!今射たのは誰だ!」
「そ、それが……」

 おそらく隊長格、駆けつけた兵士がしどろもどろになって、城宰と一緒に失点を取り戻そうとしている。いや無理だろ。脳天狙って殺す気満々だったぞ。
 ……まずい流れになる前に釘刺すか。

「最近国境にルスツ国と無関係の国の者が出入りしていると聞いてはいたが、まさか神皇国だとはな」

 お前らの関与を知っているのは、おれやこいつだけじゃない。ここで口封じすれば疑いが深まるだけ。どうせ心当たりはないんだからさっさと判断すりゃ、何も言わずに済んだってのに。
 さあ、これでもまだ折れないか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...