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30.惨めな心※
しおりを挟む「……くっ、だめだっ……そんなに締められたらっ……くそっ」
テオドルスは苦痛を滲ませながらも腰の抽送をやめない。内壁を擦られ、気持ちのいいところをノックされるだけで腰が揺れてしまう。パンパンと肌のぶつかり合う音が部屋に響き渡っていたが、テオドルスの下で揺すられ続ける私の耳には届かない。すでに頭の中は快楽に染められてしまっており、それ以外を気にする余裕はなかった。
「……ぁっ、んんっ、はぁっ、んっ、あっ、んんっ……はぁんっ、あっ」
腰のスピードが上がり、苦しいほどの悦楽が目前に迫る。全身が汗まみれで、体の限界も近づいて来ていた。
「……だ、めっ、ぁぁ、きっ、きちゃ、来ちゃうっ、ぁぁっ、んっ」
「……っ、俺もっ、くっ、はぁ……出そう、だっ、くっ」
その言葉を聞いた瞬間、私は一気に顔を青ざめさせた。
「……ぁっ、だ、だめっぁ、外に、中っ、ぁぁっ、だめなのっ」
「……っ、君はっ、そう言うと、っ、思ってた………でも、中にっ……注ぐから」
テオドルスのしようとしていることのおかげで一気に現実に引き戻される。
万が一、子供ができてしまえば。
私は彼から逃げる機会を失うだろう。なにせ子を捨てて、自分だけ逃げる訳にはいかない。彼は私がそう考えることを分かっているのだろう。
抵抗しようと足をばたつかせようとするも、テオドルスは私の腰を掴み引き寄せる。挿入がより深くなり、最奥に強く叩きつけられながら私は首を振った。
激しい快楽が迫り、私は狂ったように首を振った。けれど、すでに限界まで追い詰められていた身体はあっけなく陥落する。
抉るように一番いいところを突かれたその瞬間。
目の前がぱちりと弾けた。
「……んっ、あ、あああああアアア!」
「……くっ、っっ!」
先程以上の絶頂で、結合部付近から溢れる。何かが出てしまった感覚があったが、それを機にする余裕もなくただただ叫び声のような喘ぎをこぼした。
同時に温かいものが中に注がれる。テオドルスが精を吐き出したのだと分かった。けれどそれを容易に受け入れてしまうほど、私の頭はきちんと働いていなかったのだ。
ひくひくと蜜壺が痙攣し、腰が勝手に揺れてしまう。絶頂を迎えて力の入った身体は、緊張の糸が切れた瞬間に崩れ落ちる。
室内には荒い呼吸音だけが聞こえる。
喉奥から競り上がる熱い涙を飲み込み、私は震える声で呟く。
「………………あなたは私に何か恨みでもあるの…………」
知らず知らずのうちに、テオドルスの恨みを買っていた?
これはその復讐なのか?
そうとしか思えないほど、彼の行動は私を追い詰める。
「……………………俺は君のことを愛してるよ」
まるでその言葉が真実かのように、彼は切実に愛を希っていた。
その光景を目の当たりにするたび、心が壊れていく音がした。
私はテオドルスの言葉に返答することもなく、身体を起こしてベッドから降りる。足裏からひんやりとした冷たされてが伝わり、火照った身体に気持ちよかった。
「…………どこに行くんだ?」
ほとんど意味をなしていなかった衣服を整えていると、背後から彼が声をかけてくる。
私は端的に答えた。
「この時間ならばお湯も用意されているでしょう」
質問の答えをなしてはいなかったが、浴室へ向かうということは伝わっているだろう。
(……早くこの中のものを掻き出さないと)
今の私にはそれしかなかった。
情事の後の気怠い体に鞭を打ち、仮眠室のノブを握る。そして退出する前にぽつりと言い残した。
「…………思い通りになって良かったですね。自分本位に行動できるあなたが羨ましい」
呟き、そのまま後にした。
廊下を歩きながら私は思う。
おそらく彼にとって先程の言葉は嫌味のように感じられるだろう。だが、決して私はそういう意味で告げたわけではなかった。
ただ、心に浮かんだ言葉を述べただけ。
自由に行動を起こせる彼が羨ましくて仕方がなかったのだ。私の願いは何一つ叶わないのに。
使用人に告げ、お湯の支度が出来上がっていることを確認した私は真っ先に浴室へと足を向けた。お湯の手伝いをするという彼女たちの言葉を拒絶し、そのまま衣服を脱ぐ。
たらりと内腿から垂れる白濁が惨めで。
「…………どうしてこうなっちゃったのかしら……」
ぽつりとこぼした言葉は誰にも届くことはなかった。
◆
その日から私はなるべくテオドルスとかち合わないように避け続けた。共に取るべき食事も体調が優れないと告げて自室で取ることが多くなった。
それに対してテオドルスは何も言わなかった。けれど、あの交わりがあってから一度だけ彼が訪ねて来たことがある。そのときこう言ったのだ。
「…………何をしてもいいけど、絶対に逃げることは考えないでね」
目を細め、私の心を見透かすような視線だった。本心で今すぐにでもどこかに消えてしまいたいと考えていた私の考えを予期してのことなのだろう。
私の考えを容易く看破するテオドルスに鳥肌が立ちそうになった。
けれどその時以来、彼は何も私に言わなくなった。同じ屋根の下にいても干渉すらしてこなくなったのだ。
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