白狼は森で恋を知る

かてきん

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後日談・番外編

リアンナへの新婚旅行2*

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「美味しかったね。今度屋敷でもやろうよ。」
「そうだな。明日はあの麺を買って帰ろうか。」

店を出て街をゆっくりと観光しつつ、先程の食事の感想を言い合う。店に並ぶ商品はどれも色鮮やかな物が多く、ミアは早くも使用人達にお土産を買って彼らの喜ぶ顔を想像した。


「そろそろホテルの予約時間じゃないか?」
「本当だ。転移しなきゃね。」

イリヤの下調べによりチェックされた場所へ行き、人通りが無いことを確認してホテル近くへ転移した。

訪れたのはダリーズホテルという名前で100年続く老舗だ。立派な赤い門を潜ると、担当だという女性にさっそく部屋を案内される。

「お客様、温泉は初めてですか?」
「はい。」「ああ。」

リアンナ国は温泉が有名な街だ。ミアもその存在を知ってはいたが、体験したことは無かった。ガイアスも同じであり、遠征中は野宿野営が当たり前の地獄であり温泉に入るなどはありえないことだった。

「手紙の通り、落ち着いた雰囲気だね。」
「ああ。趣を感じる。」

このホテルはエドガーが勧めた2つのホテルのうちの1つである。『ダリーズホテル、サマンカホテル、いや、やっぱりダリーズが良いと思う!!』彼の手紙では、ホテルの名前に何度も斜線が引かれ、どちらを勧めるか迷った筆跡があったことを思い出し、ミアが案内をしてくれた女性に尋ねた。

「サマンカというホテルも有名なんですか?」
「はい。あちらもお湯は素晴らしいですが大浴場がウリなんです。うちは部屋風呂のみで、プライベートを重視される方なら当ホテルが一番かと。」
「そうなんですね。」

ミアは無邪気にお湯の効能について説明を受けており、楽しんでいる様子だったが、ガイアスはエドガーの心の葛藤に気付き、なんとも哀れな気持ちになった。

(俺とミアが2人きりで温泉に入るのを想像して線を引いたが、大浴場で皆にミアの裸が見られるよりかは…と苦渋の決断でこちらを選んだんだろう。)

こんな場所まで来てなぜ奴の顔を思い浮かべなくてはならないのか…ガイアスは意識を戻し、目の前で楽しそうに歩くミアを見て、その可愛さに目を細めた。



案内人による部屋の説明が終わり、興奮しているミアは部屋のあちこちを見回っている。

「床に寝て良いなんて、楽しいね。」
「厚い絨毯が敷いてあるんだな。」
「うちの談話室みたい。…今からお風呂入るよね?上がったら寝っ転がりたい!」
「ああ。」

ミアは、優しい顔で返事をするガイアスの手を引き、共に風呂へ向かった。


寝室へ入ると、ガラス張りのテラスに湯舟が2つ見えた。大きめの四角い湯舟は木製であり、もう1つは白くて丸い造りだ。ミアがさっそくと服を脱いでいる横で、ガイアスも風呂に入る準備をする。ミアはその姿をチラッと見てから、こんな明るいうちから外でガイアスと裸の付き合いをするのか…と少しだけ恥ずかしくなった。

「お、俺、先に入るね。」

カラカラとテラスに続く扉を開けて、シャワーを浴びる。そしてそのまま広い方の湯に足を浸け身体も沈める。

「ふぁあ~~。気持ちいい。」
「はは。良い声出してるな。」

ガイアスはそう言いながら、かかり湯をして同じ湯舟に入る。大きな身体が沈むと、湯がザバッと溢れた。ガイアスは、ふぅ…と息を吐きながら、「気持ちがいいな。」とミアに声を掛ける。

「うん!案内の人が言ってた通り、お湯が少しぬるっとしてるね。」
「疲労回復に良い成分が入っていると言っていたし、今日は沢山歩いたからよく浸かるといい。」

2人で並んでお湯を堪能する。時々ミアが「はぁ~」と零す息と、水のちゃぽんという音だけが響き、静かで穏やかな時間が流れた。

「そろそろ、」
しばらくしてガイアスが立ち上がり、ミアの手を引いた。

「身体を洗おうか。椅子に座って後ろを向いてくれ。」
「あ!今日こそ、俺もガイアスを洗うよ。お先に椅子へどうぞ。」

ミアは手の先を椅子に向けてエスコートするようにガイアスを導く。しかしそう言われた方のガイアスはピタッと動きを止めてしまった。

(まただ…。俺が「洗うよ」って言ったらいつも断る。)

屋敷では、どちらかが仕事で遅くならない限りは一緒に風呂に入っており、その際はガイアスがミアの身体を洗っている。ミアも返そうといつも申し出るのだが、やんわりと断られそれは叶わずにいた。

「ミアの手だと俺を洗うのは大変だろう。俺はいい。」
「え、でも…。」

今回も断られ、ミアは若干残念に思いながら、ガイアスのされるがままに洗われてしまった。
泡を流し終えて少し身震いして水を飛ばしたところで、ミアは立ち上がってガイアスの後ろに回る。背中を押して無理やり椅子へ座らせると、石鹸を手で泡立たせた。

「ねぇ、やっぱり俺もしていい?」
「……いや、大丈夫だ。」
「なんで?俺、いつもしてもらうばっかりだし…お返ししたい。」
「……。」

ガイアスは考えるように目線を逸らすと、「いや、」とまたもや断る言葉を続けようとしていた。

「理由が無いなら洗うね。」
「ミアッ…?」
「ぅわッ…!!」

ガイアスが近づく手を跳ね除けるように軽く手を上げ、それにびっくりしたミアが足を滑らせお尻から転んでしまった。
「キャンッ!」と狼らしい声とともにペチンッと水気のある音が響く。

「ミア!大丈夫か?!」
「……。」

ちゃんと受け身を取ろうと動いた為、打ったお尻に関しては大した痛みはないが、ガイアスに拒否された事実を頭が処理するのに時間がかかる。大きな手が近づいてミアの身体をゆっくりと起こそうとしているのをじっと見つめた。

「すまない!…打ったところは大丈夫か?」
「ガイアス、ごめん…。」

(…自分がされて嬉しいからってガイアスはそうとは限らないのに。)

結婚している間柄でありながら、そんなことも知っていなかったのかと落ち込む。

「無理強いして…嫌だったよね。」

ペタンと下がり切った耳を見て、ガイアスが焦って顔を覗き込む。

「違うんだ、ミア。…身体は痛くないか?」
「う、うん。大げさな音がしただけで、平気。」
「…よかった。すまない、焦ったんだ。」
「焦ったって…何で?」

耳はシュンと垂れたまま、ミアは目の前の伴侶の言葉の意味が分からず尋ねる。ガイアスは申し訳なさそうな表情のまま、小さな声で説明を始めた。

「その…風呂でミアに触られたら、襲ってしまいそうで。」
「おそう……。」
「手を出してしまうかもしれないんだ。」

ミアはその言葉を聞いて首を傾げる。ガイアスは『言ってしまった…。』といった表情で、ミアの反応を窺っている。

「何が駄目なの?俺達結婚してるのに。」
「風呂場で毎回求められるなんて…嫌だろ?ミアがそれで俺と一緒に風呂に入ってくれなくなったらと思うと、断るしかなかった。」

ガイアスは、はぁ…と溜息をついて恥ずかしそうに顔を逸らした。

「ガイアスはずっと俺とお風呂に入りたいから、我慢してたの?」
「…ああ。」
「本当は洗ってほしい?」
「……本心はな。」

耳を真っ赤にしているガイアスの様子に、ホッと安心して前から抱き着いた。水気の残った身体がペタッとガイアスにくっつく。

「ミア…?」
「俺、嫌じゃないよ。ベッドでもお風呂でも、いつでもガイアスと……えっちなことしたい。」
「…ッ!!」

埋めた胸元から目線を上げてガイアスを見ながらそう言ったミアは、逞しい腕で抱きしめられた。

「わっ…!」
「ミア……あまり可愛い事を言うな。」
「えっと…、」
「襲いたくなる。」

耳元で囁かれ、ミアは「うっ…」と言葉に詰まる。今の吐息交じりの声だけで、お腹の奥がズクンと疼いてしまった。

「お、俺も我慢できない。」

自分も同じだという思いを伝え、ガイアスの首に手を回すと、ガイアスにそのまま抱き上げられる。どうするのかとじっとしていると、「身体が冷えただろ。」と言われ再び湯舟に身体を浸けた。
小さい身体を膝に乗せ向かい合った体勢のまま、ガイアスは何も喋らずはちみつ色の瞳を見つめる。その視線に耐え切れず、ミアが小さな声で控えめに問いかけた。

「あのさ、…ちゅーしてもいい?」

目を細め、「俺も聞こうと思っていた。」と返すガイアスに、ミアは衝動のまま目の前の唇に顔を寄せる。

ふにゅっと唇同士が触れ合い、ミアはそのまま何度もちゅっちゅと唇を押し当てる。小さな狼が一生懸命に唇を食んでいる姿が可愛らしく、好きにさせているガイアスの表情は余裕があるように見えるが、その手は無意識にそろりとミアの尻を撫で始め、欲望が徐々に高まっていく。

「ミア、おいで。」
「あッ、…」

ガイアスがおいでと迎えた口内におずおずと舌を差し込む。湯で温まったからなのか、興奮しているのか、普段より熱いガイアスの舌にミアは頭がクラクラしてきた。

「はぁ、ミア…。触っていいか?」
「ちゅ、…んむ…うん…。」

やわやわとミアの尻を揉んでいた手は胸元に寄せられ、ふにっと大きな手で包まれる。そのまま親指が胸の先端に掛かり、掠めていく。胸元は湯に浸かっておらず、外気の風で少しピンと立っていた。

「んんッ!」
「温めないとな。」

そう言うとガイアスはお湯を掬って胸に優しく掛ける。お湯が伝う感触くらい普段であればどうということはないが、今日は意識を集中させているからか、冷えた箇所が急に温められたからか、ミアは胸の奥がジンと疼く感覚がした。

「あぁ、…んちゅ、」

胸に掛かる湯が気になってキスに集中できない。何度か掛けられたところで腰がもじもじと動き、それに気付いたガイアスがミアから顔を離す。

「ミア?」
「…ガイアスッ、お湯はもういいから。違うの…して。」
「分かった。」

ジンとする胸をどうにかしてほしくてそう言うと、ガイアスはミアを抱き直して上に上げる。そして顔面に露わになった胸の先端をペロッと舐めた。

「ッあう…」
「いつもより赤いな。」

ミアの先はお湯でじんわりと赤くなっており、ツンと立って「食べてください。」と主張しているようだった。

「可愛い。」
「んぁあッ…!」

吐息が胸に掛かり期待していると、すぐに赤い先端を食べられた。熱い口内でちゅう…と吸われ、ミアの腰が無意識に揺れる。
ぢゅ…ッぢゅ…ッと音が鳴り、吸われながら時折中で舌を這わせられると、反応せずにはいられない。

「あ、吸っちゃ、気持ちぃから…だめぇ…!」
「良いのに駄目なのか?」

舌でべろっと下から上へ舐め上げた後、ガイアスが楽しそうに聞いてくる。片方の乳首が唇に当たる位置で喋られ、熱い吐息が胸にかかる。

「あ、もしお湯の中で出ちゃったら駄目だから…。」
「まだ胸だけだが…。」
「…もしかしたら出るかもしれないから。」

(分かんないけど、これ以上続けられたら危ないんだってば。)

最近は、お互いに5日間も休暇を取るということで夜遅くに屋敷に帰ることが多かった。ミアとしてはそういう行為をしたい気持ちもあったが、気付けば先に寝てしまい、なかなかタイミングが合わなかったのだ。

「お湯の中で粗相したら困る。なんか、今日は胸だけでもイッちゃいそうで…」

「だからお湯から出てからに、」とミアが言いかけたところで、ガイアスが胸元に顔を寄せた。

「あ、…んゃあああッ!」
「ミア、」

先程の愛撫は、あくまでセックスの前戯だったと分かる程に、今胸に舌を這わせている男は本気でミアをイかせようとしている。吸った状態で先端をちろちろと刺激され、反対の胸は指でぎゅっと強めに摘ままれる。

「あ、あう、ガイア、ス…!」

顎を上げて喉を見せるミアを見て、快感を得ていることが視覚で分かり、より強く先端を吸う。吸って弾くように口を外すと、開いたままのミアの口から「や、出る…」と小さい声がした。その声を聞いた瞬間、ブワッと背中から熱いものが駆けあがり、ガイアスは目の前で揺れる赤い胸を再度口に含む。そして、舌で先程より強く押しつぶした後、軽く歯を立てた。

「やぁぁああッ!でちゃ、本当にイッちゃう…ッ、」

ミアが焦って湯を蹴る為、水面はバシャバシャと音を立てている。それを無視して胸を食むように軽く噛むと、目の前の小さな身体がビクビクッと揺れ、頭上から嬌声が聞こえた。
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