上 下
41 / 43
番外編

番外編 サモン16歳 アーモンとの出会い②

しおりを挟む

だ」

 ロッカー前で顔を歪ませたフランに近づくと、はっきりと分かる異臭。

 俺が学園教師に呼び出されている間、フランのローブがまた盗まれた。
 そして、今、精液まみれとなって、フランの元に戻ってきた。
 
「僕に性欲向ける奴ら、みんな滅べばいいのに」
「……」

 フランは、以前から多数の男に欲情を向けられているからか、精そのものに嫌悪しているようでもある。
 だがまあ、こんな汚物を見たあとでは当然の反応だ。

 俺は、ローブに手を翳した。
 瞬時に赤い炎が点火し、燃えカスとなった。
 フランには俺のローブを貸し、それから次の日、新しいローブを渡した。

「えぇ、なんで⁉ いいよ! 失くしたのは僕のせいなんだから」
「貴様の管理は、俺が行っている。俺のミスだ」

 そう言うと、碧眼の目がまんまるに見開かれ、また「ええぇ⁉」と手を左右に振る。

「いやいやいや! おかしいよ。それを君のミスだというのは、あまりに僕が横暴すぎないかい⁉」
「なければ不便だろう。使え」
「……う。君ってば、僕に優しくしすぎやしないかい」

 問答無用でローブを彼の胸に押し付けると、彼はしぶしぶ受け取った。

「分かった。有難く頂戴する。だけど、僕だってされっぱなしじゃないんだから」

 気にするなとは言ったが、フランは俺に何かをお礼をすると言って聞かなかった。





「サモン君、ほら、ほら!」
 休日のこと。夕食後に本を読んでいたら、俺はフランに強引に外に連れていかれた。

 どこに行くのかと聞けば、フランはニマニマと微笑み、人差し指を立てて「な・い・しょ」と言う。
 何か企んでいることは見て取れたが、黙ってあとを付いていく。

 そして、フランが連れてきた先は、休日の誰もいない学校だった。
 何をするつもりだと思えば、フランは木のうしろにしゃがんだ。

「こっちこっち。サモン君も」
 と、彼はいたずらっ子のような顔をして手招きする。言われたとおりフランの隣にしゃがみ込んだとき、フランが樹に息を吹きかけた。
 すると、ふわっと綿毛のような光が飛ぶ。

「虫……?」
「この時期、魔法樹の蜜を求めて虫が集まるんだって。こうやって息を優しく吹きかけると、ほら、光がね? 綺麗でしょう?」

 ふわふわ、とフランの周りに小さい光が包んでいる。

「僕は漫画で読んで知っていたんだ」
「漫画?」
「あ、ううん。なんでもない!」
「君は物知りだけど、直接見るのははじめてでしょう?」
「……あぁ」
「でしょう! 本で見るより絶対綺麗だから、君に見せたかったんだ!」

 フランは、そう言って自慢げにふふんと鼻を鳴らした。
 さっきから抑えきれないほど、ニマニマしていたのは、これを俺に見せるため……

「綺麗だね!」
「……」

 ふわふわと光に包まれるフランが、俺の目にはより一層綺麗に映った。
 造り物のように美しいかんばせが、眉を下げて満面の笑みになる。
 
 こんなの綺麗すぎて、誰だってフランを見てしまう。
 俺も……
 俺は一番汚い。
 男どもの汚い気持ちを誰より分かりながら、違うふりをして居続けるのだから。欲望も何も感じていない態度で彼に触れる。
 

「サモン君、また一緒に見にこようね!」
「あぁ」
「やった!」

 喉奥に飲み込めない何かがつっかえるようだった。
 フランが俺を求めるのなら、我が物顔で居続けてやる。




──*──*──*──
お読みくださりありがとうございます。
続きの番外編は週末アップいたします

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト
BL
魔法が使えない主人公リュリュ。 ある日、幼馴染で庭師の息子のセスが自分をハメようと企てていることを知る。 自分の身の危険を回避する為に、魔法が使えなくても出来る術、催眠術をセスにかけた。 異常に効果が効きすぎてしまって、おぉお!? 俺のことをキレイだと褒めて褒めて好き好き言いまくって溺愛してくる。無口で無表情はどうした!? セスはそんな人間じゃないだろう!? と人格まで催眠術にかかって変わる話だけど、本当のところは……。 2023に『幼馴染に催眠術をかけたら溺愛されまくちゃった⁉』で掲載しておりましたが、全体を改稿し、あまりに内容変更が多いのでアップし直しました。 改稿前とストーリーがやや異なっています。ムーンライトノベルズでも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。