42 / 43
番外編
番外編 サモン16歳 アーモンとの出会い③
しおりを挟む
寮の部屋は同室申請を出したら、問題が起きない限り、変更はない。
フランと同室になって、何年経ったが──
「あっ、おかえり!」
「……」
寮の部屋に戻ったら、フランが素っ裸で着替えている最中だった。
「おっと、こんな格好で失礼!」
何年経っても、フランの裸に慣れない。
不意打ちに動悸が走り、思わず眉間のシワが深まる。
俺がどれほど我慢しているのか、この男はさっぱり分かっていないのだろう。
思わず鳥肌が立ってしまった腕を撫でていると、着替え終わったフランがこちらに近づいてくる。
「着替え終わったよ。君ってやっぱり紳士だね」
「……なんのことだ?」
「ほら。風呂だって何度でも裸見せ合いっこしているでしょ? でも、こうして着替えの時とか僕に気を使って距離を置いてくれる。そういう気遣い、僕はとても嬉しいよ」
今だって部屋壁に背を付けて、立ち止まってくれているでしょう?
そう、フランが照れた顔をして、俺に微笑みかけた。──はぁ⁉
──それは、貴様の裸をむやみに目にいれないためだ。
俺のことを信用しすぎだろう。この男、能天気過ぎる!
俺がそう仕向けているにしても、フランは一度信用したものに対して、警戒心がなさすぎる。
八つ当たりだと思いながら、「貴様が嫌がることを何故、俺がしなければならん」と睨んだ。
「あ……、うん……うんっ!」
キラキラした碧眼が俺を見る。
次に来る言葉もなんとなく分かったので、俺はもう一度部屋の外へ出た。
そして、その夜のこと。
机に向かって本を読んでいたら、隣の席に座るフランの頭がかく、かく、と落ち始めた。
いつまでも俺が灯りを付けているから、彼は俺が眠るまで共に起きていようとする。
時折、諦めて眠っているが、大抵はこうして眠いのを我慢して勉強に付き合ってくれていた。
「おい、フラン。ベッドへ……」
声をかけた時、その頭がくたぁと完全に落ちた。
机にうつ伏せになった彼から寝息が聞こえてくる。
「……」
ベッドに移してやるか。
俺は立ち上がり、フランを抱き上げた。
「ん」
ベッドに寝かせると、彼が金色のまつ毛を震わせて、薄目を開ける。薄紅色の唇に、高揚した頬、普段ころころと表情を変える彼とは違う色気を纏っていた。
「……」
その表情のあまりの艶やかさに、ぞくっと背筋にしびれが走る。
いや、フランがどんな風な表情をしていても、きっと俺は手遅れだ。
笑っても泣いても、怒っても……心を奪われてしまっているのだから。
──欲情する。
その唇に口付けてみたい。
唾液が口の中に勝手に溜まっていく。欲しい。
同時に、まずいと警戒音が自分の脳に鳴り響く。
視線をそらさなければ──そう思って、フランから離れようとしたとき、俺のシャツを彼が掴んでいることに気付く。
ぎくり。
「サモン、くん……」
「……」
甘えた声で呼ぶな。
だが、次の言葉はやはりフランだった。
「勉強、ばっか……り、健康に、わる、いよぉ」
むにゃむにゃ、と言って、そして瞼を閉じた。
「おい」
ふぅと息を吐いたあと、声を掛けたが、寝息の返答しかこない。
くそ。シャツは掴んだままじゃないか──
溜め息を連発しながら、腹を括る。灯りを消して彼のベッドに入った。
すると、傍にある体温がぴったりと俺の身体にくっつく。ざわ……と胸が騒いだ。
絶対眠れない。
だがここからがフランの不思議なところだった。
彼の体温が横にあると、不思議と睡魔が襲ってくる。あれこれ考えてしまう前に、俺は瞼と閉じた──
心地いい体温を感じながら、目が覚める。
朝……
腕の中にはあどけない寝顔がある。
寝ても覚めても、フランが傍にいる。
俺はその頬を指でなぞりながら、ベッドから降り立った。
それから、何も感じていないように努めながら、フランの準備を始める。
「ふぁ……?」
「おはよう」
「お、はよ……」
フランが寝ぼけまなこで俺をみつめる。
それがどんなに興奮することか。だが、同時に隠すことも上手くなっていくようだ。
はぁ、はぁ、はぁ──
だからこそ、こんな風に欲望を向ける奴らが許せない。
洗面所で顔を洗っているフランを廊下の陰から見つけるちんちくりんな男の背。茶色の髪の毛。
男ばかりの寮だから、油断も隙もあったものではない。
「貴様、何をしている」
俺が茶髪の男に声をかけた瞬間、男は大袈裟にビクゥッと飛び跳ねた。
フランと同室になって、何年経ったが──
「あっ、おかえり!」
「……」
寮の部屋に戻ったら、フランが素っ裸で着替えている最中だった。
「おっと、こんな格好で失礼!」
何年経っても、フランの裸に慣れない。
不意打ちに動悸が走り、思わず眉間のシワが深まる。
俺がどれほど我慢しているのか、この男はさっぱり分かっていないのだろう。
思わず鳥肌が立ってしまった腕を撫でていると、着替え終わったフランがこちらに近づいてくる。
「着替え終わったよ。君ってやっぱり紳士だね」
「……なんのことだ?」
「ほら。風呂だって何度でも裸見せ合いっこしているでしょ? でも、こうして着替えの時とか僕に気を使って距離を置いてくれる。そういう気遣い、僕はとても嬉しいよ」
今だって部屋壁に背を付けて、立ち止まってくれているでしょう?
そう、フランが照れた顔をして、俺に微笑みかけた。──はぁ⁉
──それは、貴様の裸をむやみに目にいれないためだ。
俺のことを信用しすぎだろう。この男、能天気過ぎる!
俺がそう仕向けているにしても、フランは一度信用したものに対して、警戒心がなさすぎる。
八つ当たりだと思いながら、「貴様が嫌がることを何故、俺がしなければならん」と睨んだ。
「あ……、うん……うんっ!」
キラキラした碧眼が俺を見る。
次に来る言葉もなんとなく分かったので、俺はもう一度部屋の外へ出た。
そして、その夜のこと。
机に向かって本を読んでいたら、隣の席に座るフランの頭がかく、かく、と落ち始めた。
いつまでも俺が灯りを付けているから、彼は俺が眠るまで共に起きていようとする。
時折、諦めて眠っているが、大抵はこうして眠いのを我慢して勉強に付き合ってくれていた。
「おい、フラン。ベッドへ……」
声をかけた時、その頭がくたぁと完全に落ちた。
机にうつ伏せになった彼から寝息が聞こえてくる。
「……」
ベッドに移してやるか。
俺は立ち上がり、フランを抱き上げた。
「ん」
ベッドに寝かせると、彼が金色のまつ毛を震わせて、薄目を開ける。薄紅色の唇に、高揚した頬、普段ころころと表情を変える彼とは違う色気を纏っていた。
「……」
その表情のあまりの艶やかさに、ぞくっと背筋にしびれが走る。
いや、フランがどんな風な表情をしていても、きっと俺は手遅れだ。
笑っても泣いても、怒っても……心を奪われてしまっているのだから。
──欲情する。
その唇に口付けてみたい。
唾液が口の中に勝手に溜まっていく。欲しい。
同時に、まずいと警戒音が自分の脳に鳴り響く。
視線をそらさなければ──そう思って、フランから離れようとしたとき、俺のシャツを彼が掴んでいることに気付く。
ぎくり。
「サモン、くん……」
「……」
甘えた声で呼ぶな。
だが、次の言葉はやはりフランだった。
「勉強、ばっか……り、健康に、わる、いよぉ」
むにゃむにゃ、と言って、そして瞼を閉じた。
「おい」
ふぅと息を吐いたあと、声を掛けたが、寝息の返答しかこない。
くそ。シャツは掴んだままじゃないか──
溜め息を連発しながら、腹を括る。灯りを消して彼のベッドに入った。
すると、傍にある体温がぴったりと俺の身体にくっつく。ざわ……と胸が騒いだ。
絶対眠れない。
だがここからがフランの不思議なところだった。
彼の体温が横にあると、不思議と睡魔が襲ってくる。あれこれ考えてしまう前に、俺は瞼と閉じた──
心地いい体温を感じながら、目が覚める。
朝……
腕の中にはあどけない寝顔がある。
寝ても覚めても、フランが傍にいる。
俺はその頬を指でなぞりながら、ベッドから降り立った。
それから、何も感じていないように努めながら、フランの準備を始める。
「ふぁ……?」
「おはよう」
「お、はよ……」
フランが寝ぼけまなこで俺をみつめる。
それがどんなに興奮することか。だが、同時に隠すことも上手くなっていくようだ。
はぁ、はぁ、はぁ──
だからこそ、こんな風に欲望を向ける奴らが許せない。
洗面所で顔を洗っているフランを廊下の陰から見つけるちんちくりんな男の背。茶色の髪の毛。
男ばかりの寮だから、油断も隙もあったものではない。
「貴様、何をしている」
俺が茶髪の男に声をかけた瞬間、男は大袈裟にビクゥッと飛び跳ねた。
639
お気に入りに追加
5,204
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。