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16.トモキに助けられて
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ヤマトからの電話を一方的に切った後、電話はぱたりとなくなった。やっぱりプライドが高いヤマトのことだから、私にあんな態度を取られて怒り心頭なんだろう。
こちらとしてももう電話をかけてきてもらいたくないのだ。最初から電話に出てガチャ切りしていればよかった。
そう思って安心していたのに、ヤマトの電話を切った翌週の土曜の夜。再びヤマトからの着信があった。
この日はスーパーでつまめるおつまみと、簡単なおつまみを作って、私とトモキは家飲みをしていたところだった。
10秒スマホが震えては切れ、また少しすると10秒ほどスマホが鳴る。私は気持ちが一気に重たくなったのを感じた。
「電話、いいのか?」
ヤマトからだと知らないトモキが、着信に出ない私に問いかける。
「あ~、うん、元カレなんだよね」
「は?」
トモキは口にしていたビールを口から離した。
「いや、実はさ。荷物出した日あったじゃん? あの日の翌日から電話がかかってきて。で、先週出たのよ。ロクに話もしないで切ってやったんだけど。なんなんだろ」
その間もヤマトからの着信が続く。
「これだけ電話してくるってことは、何かあったのかな・・・」
もしかしたら何か緊急事態でもあったのかもしれない。そう思って、電話に出てみることにした。
トモキがじっとこちらの様子を伺っている。
何回目か分からない着信で、私はヤマトからの電話に出た。
「もしもし?」
「何回鳴らせば出るんだよ」
開口一番、ヤマトの不機嫌そうな声が耳に響く。
『出なければよかった』と思ったけどもう遅い。
「・・・何の用?」
「ああほら、お前に10万やるって話、してたじゃん」
そういえば、部屋を出ていけと言われたときにそんなことを言われた気がする。手切れ金か何かのつもりなんだろうか。それにしては額も小さいし、そうでなくとも気分が悪くて受け取る気になれない。
「そんなの受け取れない。いらない」
「遠慮すんなよ。今どこにいるのか知らないけど、突然出ていけなんて言われてお前も困ってるんだろ?」
困ると分かっているならあんなに突然出ていけなんて言わないで欲しかった。もっとちゃんと話合いがしたかった。でもそれも、今となってはもうどうでもよくて、ヤマトと関わりたくないという気持ちだけが私の考えている唯一のことだった。
「10万、振りこんでやるから。口座番号教えろよ」
「いらないってば」
「お前の稼ぎだけじゃ、いいとこにも住めないだろうし、一応何年間かは付き合ったんだから、善意で言ってやってんのに」
段々ヤマトの口調がいらだっているなと感じたけれど、銀行口座なんて誰が教えるものか。
「ああ、じゃあ会って現金で渡そうか? そうだ、お前、部屋に忘れ物してたし」
「忘れ物? なに?」
「会ったら渡すよ」
確かに急いで作業をしたから忘れ物があるかもしれない。すぐに引っ越すつもりだから、ヤマトの部屋から引き揚げてきた荷物のうちのほとんどは段ボールに入れたままにしてある。忘れ物があっても気が付いてないものがある可能性は確かにあった。
「いらないものなら処分してもらってかまわないんだけど」
「だから、とりあえず会ったときに渡すって」
段々こちらもイライラしてきた。
忘れ物なんて本当にあるんだろうか? なんだか会おうとしている口実にしか感じない。それに、何故捨てた女に会いたがるのかもよく分からない。
このまま引き延ばしていたら、電話攻撃がずっと続くのだろうか、会わないままの方が面倒だな、時間作って会った方が早いかなと考えていたら、突然スマホをすっと取られた。
トモキは私のスマホを耳に充てると、「もしもし?」と言ってヤマトに話しかける。
「・・・」
「もしもし? あれ、電話切った?」
トモキはそう言って一度耳からスマホを離し、画面を見る。しかし、確かに電話は繋がったままのようだった。
「もしもーし。切りますけどー?」
「誰だよ」
スマホから低いトーンのヤマトの声が聞こえてきた。こんなに声が漏れていたなら、さっきまでの私とヤマトの会話もトモキには筒抜けだったろう。
「名乗る必要はないんで。っていうか、いつまでもしつこくないですか?」
「は?」
「しつこいっつってんだよ」
トモキはヤマトの返事も聞かずに通話を切った。
「登録ごと消しちゃうと着信するから、番号だけは残しておいて、これで着信拒否設定すればもう着信しないはずだから」
トモキはそういって私のスマホをいじり、ヤマトを着信拒否設定したようだった。
「メッセージアプリももう受け取らないように拒否設定にしちゃえよ」
私はトモキに言われるがまま、ヤマトからのメッセージも受け取れないように設定した。
最初からこうすればよかったんだ
私はほっと息を吐いた。
「トモキ、なんかごめんね。ありがと」
「会社の周りとかうろうろされたら警察だな」
「そこまでしないと思うけど・・・」
「されたら、だよ」
せっかくの家飲みが重い空気になってしまった。
「なんかあったらすぐ言えよ」
トモキはそういって、アルコールに口を付け始めた。
こちらとしてももう電話をかけてきてもらいたくないのだ。最初から電話に出てガチャ切りしていればよかった。
そう思って安心していたのに、ヤマトの電話を切った翌週の土曜の夜。再びヤマトからの着信があった。
この日はスーパーでつまめるおつまみと、簡単なおつまみを作って、私とトモキは家飲みをしていたところだった。
10秒スマホが震えては切れ、また少しすると10秒ほどスマホが鳴る。私は気持ちが一気に重たくなったのを感じた。
「電話、いいのか?」
ヤマトからだと知らないトモキが、着信に出ない私に問いかける。
「あ~、うん、元カレなんだよね」
「は?」
トモキは口にしていたビールを口から離した。
「いや、実はさ。荷物出した日あったじゃん? あの日の翌日から電話がかかってきて。で、先週出たのよ。ロクに話もしないで切ってやったんだけど。なんなんだろ」
その間もヤマトからの着信が続く。
「これだけ電話してくるってことは、何かあったのかな・・・」
もしかしたら何か緊急事態でもあったのかもしれない。そう思って、電話に出てみることにした。
トモキがじっとこちらの様子を伺っている。
何回目か分からない着信で、私はヤマトからの電話に出た。
「もしもし?」
「何回鳴らせば出るんだよ」
開口一番、ヤマトの不機嫌そうな声が耳に響く。
『出なければよかった』と思ったけどもう遅い。
「・・・何の用?」
「ああほら、お前に10万やるって話、してたじゃん」
そういえば、部屋を出ていけと言われたときにそんなことを言われた気がする。手切れ金か何かのつもりなんだろうか。それにしては額も小さいし、そうでなくとも気分が悪くて受け取る気になれない。
「そんなの受け取れない。いらない」
「遠慮すんなよ。今どこにいるのか知らないけど、突然出ていけなんて言われてお前も困ってるんだろ?」
困ると分かっているならあんなに突然出ていけなんて言わないで欲しかった。もっとちゃんと話合いがしたかった。でもそれも、今となってはもうどうでもよくて、ヤマトと関わりたくないという気持ちだけが私の考えている唯一のことだった。
「10万、振りこんでやるから。口座番号教えろよ」
「いらないってば」
「お前の稼ぎだけじゃ、いいとこにも住めないだろうし、一応何年間かは付き合ったんだから、善意で言ってやってんのに」
段々ヤマトの口調がいらだっているなと感じたけれど、銀行口座なんて誰が教えるものか。
「ああ、じゃあ会って現金で渡そうか? そうだ、お前、部屋に忘れ物してたし」
「忘れ物? なに?」
「会ったら渡すよ」
確かに急いで作業をしたから忘れ物があるかもしれない。すぐに引っ越すつもりだから、ヤマトの部屋から引き揚げてきた荷物のうちのほとんどは段ボールに入れたままにしてある。忘れ物があっても気が付いてないものがある可能性は確かにあった。
「いらないものなら処分してもらってかまわないんだけど」
「だから、とりあえず会ったときに渡すって」
段々こちらもイライラしてきた。
忘れ物なんて本当にあるんだろうか? なんだか会おうとしている口実にしか感じない。それに、何故捨てた女に会いたがるのかもよく分からない。
このまま引き延ばしていたら、電話攻撃がずっと続くのだろうか、会わないままの方が面倒だな、時間作って会った方が早いかなと考えていたら、突然スマホをすっと取られた。
トモキは私のスマホを耳に充てると、「もしもし?」と言ってヤマトに話しかける。
「・・・」
「もしもし? あれ、電話切った?」
トモキはそう言って一度耳からスマホを離し、画面を見る。しかし、確かに電話は繋がったままのようだった。
「もしもーし。切りますけどー?」
「誰だよ」
スマホから低いトーンのヤマトの声が聞こえてきた。こんなに声が漏れていたなら、さっきまでの私とヤマトの会話もトモキには筒抜けだったろう。
「名乗る必要はないんで。っていうか、いつまでもしつこくないですか?」
「は?」
「しつこいっつってんだよ」
トモキはヤマトの返事も聞かずに通話を切った。
「登録ごと消しちゃうと着信するから、番号だけは残しておいて、これで着信拒否設定すればもう着信しないはずだから」
トモキはそういって私のスマホをいじり、ヤマトを着信拒否設定したようだった。
「メッセージアプリももう受け取らないように拒否設定にしちゃえよ」
私はトモキに言われるがまま、ヤマトからのメッセージも受け取れないように設定した。
最初からこうすればよかったんだ
私はほっと息を吐いた。
「トモキ、なんかごめんね。ありがと」
「会社の周りとかうろうろされたら警察だな」
「そこまでしないと思うけど・・・」
「されたら、だよ」
せっかくの家飲みが重い空気になってしまった。
「なんかあったらすぐ言えよ」
トモキはそういって、アルコールに口を付け始めた。
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