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4.先輩をときめかせたくて(前編)
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リコ先輩とハルカ先輩と飲んだ日、僕はリコ先輩と休日に会う約束をしていた。リコ先輩からは「彼女とデートするつもりで来て」と言われていた。
デートに着て行くようなオシャレな服なんて持ってなかったから、とりあえず清潔感だけは大事にしようと思い、いつもより少し柔軟剤を多めに入れて洗濯してみた。爪も切ったし、当日はワックスで髪の毛も少しまとめてみた。
前に少しだけ付き合った子とのデートに、いわゆるアニメキャラがプリントされたTシャツを着て行ったら「なにその服」と言われて絶句されてしまったから、今日は無難に紺色のTシャツにした(ちなみにそのTシャツは今は部屋着にしている)。荷物は財布だけあればいいからズボンのポケットに忘れずに入れる。最近はスマホやスマートウオッチで電子決済を済ませることも多いので、充電も忘れずにしておいた。靴も汚れたものじゃなく、キレイ目の靴だし大丈夫だろうか。でも今回の目的は、僕のダメなところを指摘してもらって、次の恋に活かすこと。ダメなところがあればリコ先輩ならきっと怒らずに指摘してくれるだろう。
なんとなく女性より先に待ち合わせ場所にいなくてはと思い、調べた電車よりも1本早い電車に乗ったおかげで、どうやらリコ先輩より先に待ち合わせ場所に着いたらしい。待ち合わせ場所はJR有楽町駅前。僕は日陰になっている宝くじ売り場の前でリコ先輩を待っていた。
少し待ったところでリコ先輩からメッセージが届いたので自分のいる場所を返信した。あれ、こういうときは男の僕が行くべきだったのかな?
「ごめんごめん、あっち行っちゃって!」
「・・・・・・あ、いえ、全然」
休日昼間のリコ先輩は、僕の目から見たら可愛い。
好きな食べ物の話をしつつ、リコ先輩と韓国料理屋さんに入る。
「・・・・・・付き合ってるように、ですか」
「そう。私を彼女だと思って接してみて欲しいの」
リコ先輩は純粋にキラキラした目で僕を見ながら言った。
リコ先輩の作戦によれば、先輩後輩として接しているだけでは女の子の前にいる僕がどんなものか分からない、だからこれからは自分を彼女だと思って、彼女の前でのいつも通りの僕で接して欲しい、ということだった。
リコ先輩と、付き合う・・・・・・。
そうか、そうすれば僕が女性の前でどうしているのか分かる。そして僕の悪い所を指摘してもらって、僕の婚活がうまくいくように応援してくれる、というわけか。
ここで僕たちが注文した食事が運ばれて来た。リコ先輩はサラダ冷麺だ。
なるほどなと思っていたら、リコ先輩も自分の悪いところを指摘して欲しいと言い出した。
「・・・・・・先輩も結婚したいんですか?」
「うーん、まあ、そのうち?いい人がいたら?」
そのうち、いい人が現れたら、先輩が結婚する・・・・・・。
学生の頃、会ったことはないけど先輩に彼氏がいることは分かっていた。先輩可愛いし、面倒見もいいし、彼氏がいて当然だ。
あの頃は付き合うってだけで満足で、その先のことなんて考えてなかった。
でも今は違う。
食事を黙々と咀嚼しながら考える。
そうだ、もう僕たちは大人で、結婚しててもおかしくない年齢で、子どもだっていてもおかしくない年齢で、だからリコ先輩も、次付き合った人と結婚するかもしれないんだ。
そう考えたら急に不思議な感覚になった。リコ先輩とこうしてずっと会っていたい。休みの日のリコ先輩に会いたい。美味しいご飯を一緒に食べたい。
今まで連絡を取らずにいても平気だったのに、急にこんなふうに考える自分に内心戸惑う。
あれ、これ、僕・・・・・・リコ先輩のこと、好き、なのかな・・・・・・?
ものすごく心臓がドキドキするわけではないんだけど、なんだろうこれ、独占欲ってこういうもの・・・・・・?おかしい、好きでもないのに独占欲って沸くのかな・・・・・・?分からないけどとにかく先輩と会いたい。先輩が結婚したらきっと会えなくなる。そう思ったら僕の気持ちは固まった。
「・・・・・・先輩、さっきの話、それでいきましょう」
「あ、あれでいい感じ?」
「・・・・・・はい。じゃあ僕たち、今日から付き合い始めたってことでいいですよね?」
「うんうん、そうしよう。とりあえず今日1日よろしくね!」
「・・・・・・はい」
リコ先輩がにっこり笑って僕を見る。ああ、可愛い。今から先輩は俺の彼女なんだと自分に言い聞かせる。大丈夫、変なことさえしなければ女性とのお付き合いに慣れていないせいにして誤魔化せる。
うまくいけば、先輩と一緒にいられるかもしれない・・・・・・と考えたところでハっと気が付いた。もしかして、やっぱり僕って先輩のこと、好き・・・・・・?
いやいや、プレお付き合いみたいになったから意識してるだけだ。とにかく今は付き合い始めた彼女との初めてのデートをしてるということに集中しよう。
「よし、そろそろ行こうか!」
リコ先輩が手でご馳走様のポーズを取る。
「・・・・・・うん」
僕はテーブルの上にあった伝票を持ってレジに向かおうとした。
「相良、私も払うよ!」
リコ先輩が少し戸惑ったように声をかけて来る。
「・・・・・・いいよ、ここはおごらせて」
勇気を出して今まで年上に対する口調にしていたものを友だち口調にしてみる。たったこれだけのことで僕の心臓はかなり速く動き始めた。ドキドキが本当にすごい。僕の心音、リコ先輩に聞かれていないか?
「・・・・・・ランチくらいご馳走できるよ」
本当はこの後、「初めてのデートなんだし」とか「素直にご馳走されて」とか言ってみたかったけど、さすがに言えなかった。
そのまま僕は伝票を持ったままレジに進み、支払いを済ませた。
デートに着て行くようなオシャレな服なんて持ってなかったから、とりあえず清潔感だけは大事にしようと思い、いつもより少し柔軟剤を多めに入れて洗濯してみた。爪も切ったし、当日はワックスで髪の毛も少しまとめてみた。
前に少しだけ付き合った子とのデートに、いわゆるアニメキャラがプリントされたTシャツを着て行ったら「なにその服」と言われて絶句されてしまったから、今日は無難に紺色のTシャツにした(ちなみにそのTシャツは今は部屋着にしている)。荷物は財布だけあればいいからズボンのポケットに忘れずに入れる。最近はスマホやスマートウオッチで電子決済を済ませることも多いので、充電も忘れずにしておいた。靴も汚れたものじゃなく、キレイ目の靴だし大丈夫だろうか。でも今回の目的は、僕のダメなところを指摘してもらって、次の恋に活かすこと。ダメなところがあればリコ先輩ならきっと怒らずに指摘してくれるだろう。
なんとなく女性より先に待ち合わせ場所にいなくてはと思い、調べた電車よりも1本早い電車に乗ったおかげで、どうやらリコ先輩より先に待ち合わせ場所に着いたらしい。待ち合わせ場所はJR有楽町駅前。僕は日陰になっている宝くじ売り場の前でリコ先輩を待っていた。
少し待ったところでリコ先輩からメッセージが届いたので自分のいる場所を返信した。あれ、こういうときは男の僕が行くべきだったのかな?
「ごめんごめん、あっち行っちゃって!」
「・・・・・・あ、いえ、全然」
休日昼間のリコ先輩は、僕の目から見たら可愛い。
好きな食べ物の話をしつつ、リコ先輩と韓国料理屋さんに入る。
「・・・・・・付き合ってるように、ですか」
「そう。私を彼女だと思って接してみて欲しいの」
リコ先輩は純粋にキラキラした目で僕を見ながら言った。
リコ先輩の作戦によれば、先輩後輩として接しているだけでは女の子の前にいる僕がどんなものか分からない、だからこれからは自分を彼女だと思って、彼女の前でのいつも通りの僕で接して欲しい、ということだった。
リコ先輩と、付き合う・・・・・・。
そうか、そうすれば僕が女性の前でどうしているのか分かる。そして僕の悪い所を指摘してもらって、僕の婚活がうまくいくように応援してくれる、というわけか。
ここで僕たちが注文した食事が運ばれて来た。リコ先輩はサラダ冷麺だ。
なるほどなと思っていたら、リコ先輩も自分の悪いところを指摘して欲しいと言い出した。
「・・・・・・先輩も結婚したいんですか?」
「うーん、まあ、そのうち?いい人がいたら?」
そのうち、いい人が現れたら、先輩が結婚する・・・・・・。
学生の頃、会ったことはないけど先輩に彼氏がいることは分かっていた。先輩可愛いし、面倒見もいいし、彼氏がいて当然だ。
あの頃は付き合うってだけで満足で、その先のことなんて考えてなかった。
でも今は違う。
食事を黙々と咀嚼しながら考える。
そうだ、もう僕たちは大人で、結婚しててもおかしくない年齢で、子どもだっていてもおかしくない年齢で、だからリコ先輩も、次付き合った人と結婚するかもしれないんだ。
そう考えたら急に不思議な感覚になった。リコ先輩とこうしてずっと会っていたい。休みの日のリコ先輩に会いたい。美味しいご飯を一緒に食べたい。
今まで連絡を取らずにいても平気だったのに、急にこんなふうに考える自分に内心戸惑う。
あれ、これ、僕・・・・・・リコ先輩のこと、好き、なのかな・・・・・・?
ものすごく心臓がドキドキするわけではないんだけど、なんだろうこれ、独占欲ってこういうもの・・・・・・?おかしい、好きでもないのに独占欲って沸くのかな・・・・・・?分からないけどとにかく先輩と会いたい。先輩が結婚したらきっと会えなくなる。そう思ったら僕の気持ちは固まった。
「・・・・・・先輩、さっきの話、それでいきましょう」
「あ、あれでいい感じ?」
「・・・・・・はい。じゃあ僕たち、今日から付き合い始めたってことでいいですよね?」
「うんうん、そうしよう。とりあえず今日1日よろしくね!」
「・・・・・・はい」
リコ先輩がにっこり笑って僕を見る。ああ、可愛い。今から先輩は俺の彼女なんだと自分に言い聞かせる。大丈夫、変なことさえしなければ女性とのお付き合いに慣れていないせいにして誤魔化せる。
うまくいけば、先輩と一緒にいられるかもしれない・・・・・・と考えたところでハっと気が付いた。もしかして、やっぱり僕って先輩のこと、好き・・・・・・?
いやいや、プレお付き合いみたいになったから意識してるだけだ。とにかく今は付き合い始めた彼女との初めてのデートをしてるということに集中しよう。
「よし、そろそろ行こうか!」
リコ先輩が手でご馳走様のポーズを取る。
「・・・・・・うん」
僕はテーブルの上にあった伝票を持ってレジに向かおうとした。
「相良、私も払うよ!」
リコ先輩が少し戸惑ったように声をかけて来る。
「・・・・・・いいよ、ここはおごらせて」
勇気を出して今まで年上に対する口調にしていたものを友だち口調にしてみる。たったこれだけのことで僕の心臓はかなり速く動き始めた。ドキドキが本当にすごい。僕の心音、リコ先輩に聞かれていないか?
「・・・・・・ランチくらいご馳走できるよ」
本当はこの後、「初めてのデートなんだし」とか「素直にご馳走されて」とか言ってみたかったけど、さすがに言えなかった。
そのまま僕は伝票を持ったままレジに進み、支払いを済ませた。
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