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留学編 1章

第149話 裏会議 (三人称視点)

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どんな世界にも、ものにも、事にも、裏というものが存在する。

ここスタンフォルス中高等学校でもそれは存在していた。

一学年ごとに分かれて各クラスに裏委員のようなものがあり、それぞれが協定を結ぶことで学校生活の秩序が成り立っている。


その裏委員会の月に一回の定例会議にて。


「で、あの新入生にやられたと?」
「ちっ、うるせえな!やられてねえーよ!」
「まあ、正確には逃げてきたってことだな?」
「・・・そうだ」

ルイに喧嘩を売った不良は不貞腐れたように頷いた。

「はあ、情けない。これだから普通コースの奴らは」
「チッ」

最初から会議は最悪の空気となっていた。

「で、そのルイとかいう留学生は何者なんだ?」

学年代表で進学コースA組の生徒が質問する。

「はい、わたくしから説明させてもらいます」

そう挙手したのは情報コースの委員だった。

「彼の本名はルイ・デ・ブルボン。フランシーダ帝国の大貴族、、ブルボン公爵家嫡男です。留学した経緯は、どうやら同学年の生徒を平民という理由で学校に許可なく呼び出して決闘し、痛めつけたから、とのことです」
「それで学園側も醜聞を恐れて実質追放、表向きは海外留学、というわけか」
「ええ、おそらく」
「とんだ問題児だな。いかにも貴族らしく腹立たしい行動だ。続きを頼む」

代表は促す。

「はい。どうやら数年前に不正をした元アルマー領の領主を任されているとのこと」
「領主?あの歳で?」
「ええ、ただここにはいくつかの噂があります。ルイ自身が不正を暴いたとも、濡れ衣を着せたとも」
「・・・後者っぽいな。貴族はいくらでも不正をするからな。まあ、この国にも裏口入学という不正を働く奴もいるが…」

そう言って、ルイに負けた不良や普通コースクラスの他の生徒たちに目を向ける。

「まあ、いい。まだ何かあるか?」
「ええ。領主になった途端、増税を行ったそうです」
「増税だと!馬鹿じゃないか。新しい土地に入ったら、減税をする。商会経営においても大事なことだ。まずは民の心を掴む。それがなければうまく行かない」

顔をしかめる代表。

「これだから、無能な貴族は!」
「あと、もう一つ領地経営のことで、」
「何だ?」
「はい、どうやらルイ自身のお金で孤児院を買っているようでして」
「なに、孤児院を。理由は?」
「全く明かされておりません。一つ噂になっているのは、幼児趣味なのではないかと」
「僕らと同い年で、か?!なんて浅ましいゲス野郎だ!貴族特有の悪趣味でしか無い」

ちなみに彼らは知らない。

アルマー領改め、ルイ領で生産された小麦粉がブルボン家経由でアメルダ民主国に輸出されているという事実を。

さらにその割合は、約四分の一にも上るということを。

まあ、実際はルイ領の小麦粉をブルボン家で買い取ってそれを輸出しているため注意深く調べないとこの事は分からない(商品の産地表示という制度は存在しないのだ)。

要するに彼らの生活は実のところ、ルイの増税のお陰で部分的に成り立っている。この国では優秀と評判の生徒たちではあるが、所詮はガキ。流石にそこまでは調べ切れていなかった。

「そうだ、取り巻きの情報はあるのか?」
「はい、まず異母弟にアルス・デ・ブルボンがおります。妾の子だったようで、最近になって名字を貰ったとのこと」
「貴族の子は大変だな」
「アルスはルイの護衛兼従者をしているそうです」
「弟にやらせているのか?」
「そのようです」

全員の心にルイに対する嫌悪の情が積もっていった。

「もう一人が、レーナです」
「・・・ん?名字はないのか?」
「ええ、奴隷だそうです」

「「「!!!」」」

全員の顔が憤怒へと変わる。

人を奴隷にしてその人間の人生を奪う、という外道極まりない卑劣な行為。 

幼い頃から、奴隷禁止!人権尊重!差別は駄目!と教えられてきた彼らにしてみれば、それは許しがたいことだった。

もちろん、彼らの親である上級国民たちが実は似たようなことを裏でやっているという事実は、いまだ知らずにいた。

「そのレーナちゃんは、ど、どんな人生を送っていたの?」

涙目になりながらも恐る恐る聞く一人の女子委員。

「はい。彼女は元々は善良な伯爵家の生まれだったそうです。ですがある日、邪悪な貴族たちの陰謀に巻き込まれて、あらぬ疑いを掛けられて没落。両親に奴隷として売られ一年過ごした後、ルイに買われたそうです」

まるで悲劇の物語のように語られ、女子たちはウルウルと涙をこぼす。

一方男子たちはレーナの顔写真と体つきを見て、悔しそうな、羨ましそうな表情をする。

「とんだ、クソ野郎だな!」

全員の考えを代弁するかのように言う代表。

この意見に関しては、アルスもレーナも同意するかもしれない。

「ねえ、こいつがここにいる間に、コテンパンにやっつけない?」

一人の生徒が言う。

良さげな意見が一つでも出たらそれに便乗する、というのが民主主義の話し合いだ。

「それいいアイデアかもな!ボコボコにしてやっつけてやろうぜ!そしてあの二人を救おう!」
「そうだな!ちゃんと根回しもしておかないとな!あいつの武器、全てを奪い取ってからだ!」
「おい、情報コース!ルイは魔法とか使えるのか?」
「それが、情報が全く入ってこないんだ。学園での成績も、評判も。微かな噂では無詠唱を使えるとかっていう、でたらめな噂もあるし・・・」

その発言を聞いて更に調子づく生徒たち。

「どうせ自分の情けない実力を隠そうとしてるだけだよ!」
「きっとそうだな!あんなゲスいクソ貴族、懲らしめてやる!」
「ああ、そうだな!」

全員が一致団結しだす。

それをやれやれといった感じで眺めていた代表だが、彼もまたガキだ。

胸の高まりは抑えれなかった。

「よし、じゃあお前は逐一情報を流すようにしてくれ」
「え?お、俺がか?」
「当たり前だ。奴の取り巻きになってしっかりと行動を監視して情報を把握するんだ!」
「・・・・分かったよ」

不良は同意するしかなかった。

彼自身は裏口入学であり、親は金持ちではある。

ただ、上には上がいてその一人が代表だった。

つまり、この国にも上下格差はあるのだ。


当の本人は知らぬ間に、転入早々に、学年全員を敵に回してしまったルイ。

だが、生徒たちは知らなかった。

ルイが孤児院を買った理由、留学した理由、アルスとレーナがルイのことをどう思っているのか…

もちろん、魔法協会が何とか隠そうと裏で動いたからこそ、彼らはルイの本当の実力も今はまだ知らないでいたのだった…
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