上 下
40 / 179
少年編 3章

第40話 コカトリス

しおりを挟む
コカトリスと相対した僕は、一度周囲を確認する。

後ろで気を失っているレーナ、目の前に大きな鶏の尾に蛇がくっついたコカトリス。コカトリスの後方の茂みには八人の子供たち。

僕一人でこの鶏を相手取るのは少し難しい。

負けることは無いが、戦闘できない九人を抱えては難しい。

 コケーーーー!!

コカトリスの方が先に動き出した。

大きな体を俊敏に動かしこちらに走ってくる。

僕は嫌がらせ程度の下級氷魔法を連射して時間を稼ぐ。

「我が元で、大河と成れ、【ウォール・ホリー・グラン】!」

聖級魔法を詠唱して、コカトリスへと放つが避けられる。

 クカァァァ!!

避けたコカトリスはチャンスとばかりに距離を詰めてくる。僕が魔法をもう一度詠唱しようとした瞬間、鶏の口から毒を吐き出した。
毒々しい色をした液が僕の方に放たれ、咄嗟に右に避ける。

毒は真っ直ぐ飛び、後方の木へと当たる。すると、木に大きな穴を開けて蒸発する。

「やべ、レーナが後ろにいるの忘れてた」

毒が飛んでいった木のすぐ前に気を失っているレーナがいた。
まあ、結果何も起きていない。

気を取り直してコカトリスを見る。

魔法を警戒するように距離を少しずつ詰め、詠唱させないような動きをする。

先に僕が動く。

地面に手を付けて詠唱をし始める。

「土よ、盛り上がり、」

し始めたと同時にコカトリスは地面からの急襲を警戒して飛び上がり、僕へ向けてまた毒を飛ばす。詠唱しているので防御できない。そう思っているだろうが、

「壁となれ、【ソイル・ホリー・シールド】!騙されたな!」

詠唱し終えると同時に周囲の土が盛り上がって僕を覆うように土の盾を創り出す。毒はその盾に当たって溶かし、穴を開けて蒸発する。その穴から僕はコカトリスに向けてさらに魔法を放つ。

「死を超え、光となり、駆逐しろ、【デス・ホリー・ライト】」

黒いモヤが目にも止まらぬ速さでコカトリスの右羽を切り落とす。

グアァッ、ゴゲーーー!!!

何が起こったか最初は分からなかったコカトリス。地面に降りて自分の右羽を失ったことを視覚と痛みで理解した瞬間、コカトリスは耳を塞ぎたくなるような雄叫びをあげる。
キリッとした鋭い目で憎むようにこちらを睨む。

「怒らせちゃったか。まあ、それでも僕が勝つがな」

バランスが取れないものの憎しみだけでスピードを上げてこちらに向かってくるコカトリス。
ただ、一直線に向かってきたため簡単に避けられた。

「甘い――!」

避けた瞬間、横から何やら長いものがこちらに向かって襲ってくる。横目でチラリと見えたのは大きな大蛇の顔。

まずい、と理解したときには既に避けきれる体勢では無かった。
死を覚悟した瞬間、横から木が飛んできた。

「子分!」

僕に噛みつこうとした大蛇の目に、あのクソガキが投げた木が当たる。
草むらから出てきていたクソガキは足を震わせ涙目になりながらも勇猛にまた一本、近くの木を拾って大蛇に投げた。

そのおかげで大蛇の注意はそちらに行き、すぐに僕は距離を取る。

 シャァァァ

「ヒッ!」

威嚇をするように口を開けると、クソガキを腰を抜かす。

動けなくなったクソガキはコカトリスを挟んで僕の向かい側。

いつクソガキが攻撃されるかもわからないから守りに行きたいが・・僕の近くには気絶しているレーナもいる。

糞、どうすれば・・・

「アルス、様」

レーナの声が聞こえたため周囲を見渡すと、近くの木にもたれかかって自分を治癒している姿を見つけた。

「おい、大丈夫か?」
「はい、何とか」

まだ傷は治っておらず、苦しそうに答える。

「私のことは良いので、彼らを」

痛みを堪えながら言う。

「・・・分かった。お前を信じよう」
「はい、すいません」

レーナは謝ってくる。

ボロボロになりながらも人助けをする。流石元ヒロインだ。

「ああそうだ、これをお前にやる」

僕は徐ろにポケットからペンダントを取り出してレーナに渡す。

「これは?」
「そのペンダントをしていると魔法を強化してくれる。威力は大体1.2倍だ」

レーナはシルバーに光り輝くそれを珍しそうに眺める。

「どうして、私に?」
「そ、それは、僕の趣味に合わない地味なやつだったからだ!偶には労いも兼ねて配下に物を与えるのは貴族の役目だし。それに・・・お前の誕生日が近いし」

最後の方は小さく呟く。

「と、とりあえず褒美だ!」

誤魔化すように言うと嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます!」

不覚にも僕はそう言われて嬉しく感じてしまった。

「じゃあ、僕は行く」
「ご武運を」

クソガキの方へと向かっていくコカトリスに追いつくようにリミット・ブーストを唱えた。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...