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王女と騎士

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 5つの技能全てを操れるようになったクリストファーはエリザベスの期待以上だった。
 エリザベスもバンパと鍛え続けてきたとは言え、長い伝統を誇る王国一の騎士団の訓練とはわけが違ったのだ。
 ましてやクリストファーは、その中でも最も優秀な騎士団長に抜擢された男なのだ。そのクリストファーにエリザベスが勝っていたのは、特別な力のためだった。それでも負けることはあったほどなのだ。

 その特別な力を手にしたクリストファーは名実ともに王国一、いやどの国を合わせたとしても敵わぬほどの強さになっていた。

 エリザベスとクリストファーは、敵がこれまで一度も見たことがない技能の合せ技を繰り出した。
 誰もそのスピードを見切れる者はいない。
 劣勢だと思っていたのも束の間、二人だけで多くの強大な敵をあっという間に打ち倒してしまった。

 二人は倒し終えても休むことなく街へと駆け出した。国の民を、王と王妃を助けなければならない。


「クリストファー」
 エリザベスは並んで走っているクリストファーに声をかけた。

「はい」
 クリストファーは応える。

「あなた、言ってくれたわよね。私の価値は技能だけではないと」

「申し上げました」

「あなたにもその力が分け与えられたとなると、私を特別たらしめていたものはもうなくなってしまった。王女であるという以外に、私にある価値とは何?」

 エリザベスの問いにすぐには答えられず、クリストファーは躊躇った。

 その様子を見ていたエリザベスは、やはりその場しのぎの出まかせであったのかと落胆し、会話をやめることにした。

「とにかく、早く戻りましょう」

 エリザベスの諦念に気がついたクリストファーは、意を決して話し始めた。
「エリザベス様、あなたの価値は、あなたの存在そのものです。気高く、力強く、民を導く器のある方です。技能とは、おまけのようなものです。そのお人柄そのものがあなたの素晴らしいところです。その技能が目覚める前から、あなたをお慕いしてお守りしていた山賊共を思い出してください。技能のことを知っていたのはバンパだけだったのでしょう? 他の者はそんなこと考えてもいなかったはずです」

 クリストファーが間を溜め、言葉を選びながらも必死にエリザベスに伝えようとした。
 エリザベスは、クリストファーの言葉以上に、その想いにも心を打たれた。

「あなたは自分を見誤っております。技能なんて、必要ないくらいです。あなたは戦わなくてもいい。ただ生きてくださっているだけで十分です」

 クリストファーの言葉に、愛していると言われた以上に愛情を感じたが、エリザベスはそう感じたことが相手に見つからないように言葉を選んで返した。

「私は山賊でしたが、これからは王女であり、戦士としてこの国を守ります。あなたと共にね」

 クリストファーは、エリザベスの目元に光るものを見たが、それを見なかったこととして前へ向き直り、街へ向かうスピードを上げた。
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