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王女の護衛
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「悔しいならそうと口にしても構わないわよ」
息も切らさぬエリザベスは、クリストファーを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべていた。
「そんなことは口が裂けても言えません」
対するクリストファーは肩で呼吸をしている有り様だ。
「この一週間、毎日お稽古してあげたけど、私の訓練にはなりはしない」
エリザベスのそれは嘘であった。バンパに相手をしてもらえず、両親や使用人たちに王女として振る舞わねばならぬ機会が増えてきて、山賊としての自分から遠ざかってきているストレスをぶつけているのだ。
エリザベスの挑発を本気で受け止めてしまう素直なクリストファーは、王女相手にキレるわけにはいかないと抑え続けていたが、そろそろ我慢も限界に近づいている。
天才騎士として順風満帆に出世し、能力を磨いてきたクリストファーにとっては、年下の、それもこんなにも美しい女性に力で負けてしまうのは初めてのことだった。
「もう一度いきます」
クリストファーは力を溜めるとそう言って、エリザベスの方へ立ち向かった。
エリザベスは華麗にその攻撃を受け止め、いつものように攻撃を返す。
二人は5分ほど組み合っていた。
「クリストファー、あなたは訓練された兵士たちばかりを相手にしているから、予想外の攻撃に出遅れるのよ」
エリザベスは余裕があるため、軽妙にアドバイスをしながら戦っている。
出遅れると言ったって1秒もないはずだ。エリザベス様が凄すぎるだけだ、とクリストファーは心の中で反論する。
「ほら、そういう反応は良くないわ」
エリザベスからの何度目かの挑発に、とうとうクリストファーはキレた。
クリストファーはパワーも圧倒的だが、スピードならば誰にも負けない自信があった。そのため、戦闘の際には一瞬で相手の次の手を読み切り、それに対する対応も瞬時に計算することができる。0コンマ数秒のタイムラグはあるが、その微量の差を気にする必要に迫られたことはこれまでに一度もなかった。
しかし、目の前の相手には通用しない。
クリストファーは思考を止め、自分の本能的な判断に身を委ねた。
それは一瞬だった。
エリザベスの背後に回ると、彼女の頸椎にめがけて手刀を振り下ろした。
エリザベスは反応したが、すんでのところで間に合わなかった。
エリザベスは前に伏した。
クリストファーは息を荒げながら、倒れ伏したエリザベスを見下ろしている。
勝てた。
そう余韻に浸ったのは一瞬で、護衛のくせにその庇護の対象を失神させてしまったこと、しかも相手は王女様だということを思い出し、クリストファーは青ざめた。
必死ではあったが殺意はなかったためか、エリザベスも反応できていたからか、倒れていたのは5秒にも満たず、エリザベスはすぐに起き上がった。
「ふん。これくらいやってもらわなきゃ護衛として困るわ」
そう捨て台詞を吐くと、クリストファーを一瞥し、身を翻して歩き去った。
息も切らさぬエリザベスは、クリストファーを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべていた。
「そんなことは口が裂けても言えません」
対するクリストファーは肩で呼吸をしている有り様だ。
「この一週間、毎日お稽古してあげたけど、私の訓練にはなりはしない」
エリザベスのそれは嘘であった。バンパに相手をしてもらえず、両親や使用人たちに王女として振る舞わねばならぬ機会が増えてきて、山賊としての自分から遠ざかってきているストレスをぶつけているのだ。
エリザベスの挑発を本気で受け止めてしまう素直なクリストファーは、王女相手にキレるわけにはいかないと抑え続けていたが、そろそろ我慢も限界に近づいている。
天才騎士として順風満帆に出世し、能力を磨いてきたクリストファーにとっては、年下の、それもこんなにも美しい女性に力で負けてしまうのは初めてのことだった。
「もう一度いきます」
クリストファーは力を溜めるとそう言って、エリザベスの方へ立ち向かった。
エリザベスは華麗にその攻撃を受け止め、いつものように攻撃を返す。
二人は5分ほど組み合っていた。
「クリストファー、あなたは訓練された兵士たちばかりを相手にしているから、予想外の攻撃に出遅れるのよ」
エリザベスは余裕があるため、軽妙にアドバイスをしながら戦っている。
出遅れると言ったって1秒もないはずだ。エリザベス様が凄すぎるだけだ、とクリストファーは心の中で反論する。
「ほら、そういう反応は良くないわ」
エリザベスからの何度目かの挑発に、とうとうクリストファーはキレた。
クリストファーはパワーも圧倒的だが、スピードならば誰にも負けない自信があった。そのため、戦闘の際には一瞬で相手の次の手を読み切り、それに対する対応も瞬時に計算することができる。0コンマ数秒のタイムラグはあるが、その微量の差を気にする必要に迫られたことはこれまでに一度もなかった。
しかし、目の前の相手には通用しない。
クリストファーは思考を止め、自分の本能的な判断に身を委ねた。
それは一瞬だった。
エリザベスの背後に回ると、彼女の頸椎にめがけて手刀を振り下ろした。
エリザベスは反応したが、すんでのところで間に合わなかった。
エリザベスは前に伏した。
クリストファーは息を荒げながら、倒れ伏したエリザベスを見下ろしている。
勝てた。
そう余韻に浸ったのは一瞬で、護衛のくせにその庇護の対象を失神させてしまったこと、しかも相手は王女様だということを思い出し、クリストファーは青ざめた。
必死ではあったが殺意はなかったためか、エリザベスも反応できていたからか、倒れていたのは5秒にも満たず、エリザベスはすぐに起き上がった。
「ふん。これくらいやってもらわなきゃ護衛として困るわ」
そう捨て台詞を吐くと、クリストファーを一瞥し、身を翻して歩き去った。
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