君に春を届けたい。

ノウミ

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epilogue

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あれから二度目の春を迎える。


僕は大学の入学を控えていた。


一昨年はウィンターカップに間に合い、無事にレギュラーとして活躍できた。

優勝することは出来なかったが。


それでも、昨年の引退大会には優勝した。


流川さんの魔法の言葉が、力をくれたから。


あれから一度も会えていないが、桜は枯れてない。

今でも、僕の部屋で咲き続けている。


この桜を見るたびに思い出す。


いつ会えるのかな、と思うがまだ会えていない。

連絡先を交換していなかったのが悔やまれる。

どこかで元気に生きていたくれるなら、いい。

幸せでいてくれてるならそれでいい。


流川さんもどこかで、満開の桜を見ているだろうか。

どんな事を想いながら、見上げるのだろうか。


いつもの日常、桜の鉢に水をやる。

そうして、僕は思い立った事があり家を出る。


いつもの公園に立ち寄ってみた。

バスケットボールを持って、コートへと。

あの日からずっと通い続けていた。


ここで練習をして、大会で優勝する事もできた。


僕は荷物を下ろして、ボールを手にする。


沢山の時間をつぎ込んだシュートは、綺麗な放物線を描き、音を立てる事なくネットに吸い込まれる。


すると、後ろから手を叩く音が聞こえる。


聞こえたのはベンチの方からだ。

僕は思わず振り返る。

いなかったはずのベンチに誰かが座っていた。


その人と目が合うと、手に持っていた本で顔を隠される。

僕はその人に近づき、声をかける。

「あ、あの…」

「はい、なんでしょう?」

桜が咲き誇る公園の中で、一際美しく咲く桜が、そこにはあった。

元気に咲くその桜を、ずっと見たかった。

ちょっとだけ待っててと伝え、急いで家に帰る。


公園に戻ると、ベンチで待っていてくれた。

汗だくになりながらも、手に持つ桜の鉢を差し出す。

ようやく、君に春を届けられた。


迎えることがないと言われていた春を。

ずっと、枯らす事なく咲かせ続けたこの桜で。


二人の笑い声と涙がとめどなく溢れる。

公園の中で二人だけ、奇跡的な再会を想い。


“会いにきてくれてありがとう”

“待っていてくれてありがとう”


お互いにそう言い合う。

しばらくその時間が続く。

大丈夫、これから時間は沢山あるから。
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