君に春を届けたい。

ノウミ

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episode 17

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それから、僕の日常が新しくなった。


毎日流川さんに、桜のメッセージを届けている。


夏の陽射しが照りつけようが、雨が降ろうが。

松葉杖をつきながらでも、毎日。


良い口実が出来たとは、口が裂けても言えない。


そんなメッセージに添えるのは、一言だけだけど。

不思議と途切れることはなかった。

こんな事を伝えたい、こんな言葉を聞いた。

流川さんの事を考えていると、湧き出てくる。


頑張れ、とかは言わない。


それは僕が言われても、嫌な言葉だから。


それから体調が良い日には、散歩をするようにもなった。


もうあの公園までは行けてないが。

それでも、気分転換にと一緒に歩く。


「ふふっ、ねぇ、前から思ってたんだけど」

「え、急にどうしたの」

「外から見たら、私が水雲くんの補助をしてるみたいに見えるだろうなーって」

「ははっ確かにそうだね、僕の方が怪我人だからね」

「もう治るの?」

「ううん、あと2ヶ月はこのままだろうって」

「そっか…長いね」

「次の大会には間に合うと思うから、大丈夫」

「次は大きな大会なんだっけ?」

「うん、ウィンターカップ…これには間に合わせたい」



ね、応援してるから」



何故だろう。


流川さんの“頑張って”は嫌じゃなかった。

僕の気持ちを理解してくれているからだろうか。

それとも、流川さんだからだろうか。


咲き始めた蕾には薄々気づいていた。

それでもこの蕾を咲かせるわけにはいかない。

咲かせてはいけない花だから。
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