君に春を届けたい。

ノウミ

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episode 6

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あれから一週間程経った。


毎日、流川さんと顔を合わせる日々が続いていた。


部活終わりのこの公園で。

平日は、暗い中でも足を運んでいた。

小説を読めなくても気分転換になる、との事だった。


短い時間だけど会話をするようにもなった。

小説が好きで、特にミステリーが好きだと。

自分で考察して、裏切られた時がたまらないと語る。


そんな会話を交わすことがいつの間にか、僕の日常になりつつあった。


「明日はレギュラーの発表でしたよね?」

「はい、そうなんです…心配で心配で…」

「水雲さんなら大丈夫です、毎日努力しましたから」

「ありがとうございます」


流川さんにそう言われると、根拠はないが本当に大丈夫な気がしてくる。

元気を与えるその言葉は、咲き始めた桜のように、明日を楽しみにさせてくれる。


「明日も会えたら、いい報告をします」

「はい、ぜひ楽しみにしております」


そう言って挨拶を交わす。


いつも通り、流川さんが先に帰る。


僕は暗くなるまで練習を続けた。


明日への不安が少しでも消えるように。

流川さんに良い報告が出来るように。


そう思いながら打ち続けたボールは、今までで一番綺麗な放物線を描き、音もなくネットに入る。


人のいなくなった公園で、ボールが地面に弾む音だけが響き渡る。


枝に実り始めた蕾に、気づくことはない。

まだ、何の花が咲くかは分からないから。

すぐそばに、明日への希望の花は咲いていた。

その花に紛れるように、そっと蕾を隠しながら。
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