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万年長袖高校生
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日中の気温が上がり、外にいると汗ばむこの頃、世の中はそろそろ衣替えのだ。
しかし。
高校生、特に男子には衣替えがない。
年中長袖で、暑ければ学ランを脱げばいいだけ。
女子は冬服合服を持ってはいるけど、夏服は殆どの人が持ってないと思う。
制服を買いに行った時、今時高校生達は夏服は買わずに合服の袖を折るんだと言われた。
確かに夏服の高校生って見ないなって納得したけど、やっぱり長袖だと夏は暑い。
でも夏服は本当に0人レベルで一人だけ着ようとも思えない。
衣替えがなくて楽な分とても忍耐力が試される。
「…………暑い」
心なしかぐったりとしている俊介がとても珍しい。
「俊介って暑さに弱かったんだねぇ」
「ね、そうは見えない」
呆れたようにちかが俊介をつんつんと突いている。
明らかに面白がっているとわかるにやにやとした笑顔。
でもそれはオレもかもしれない。
こんなに俊介が弱るなんてこと中々ないだろうから、余計に。
「ミニ扇風機は?」
「持ってねぇ」
「え、そうなの!?」
そんなに暑さに弱いのに持っていないのか。
思わず呆れる。
「え~、何で俊介持ってないの?」
ちかの問いに、若干歪み気味だった顔が歪んでいると断言できる顔になる。
「似合わねぇだろ、俺は」
「「…………」」
(び、微妙……!!)
ちかとオレは顔を見合わせる。
絶望的に似合わないということもないだろうけど、似合うとも言えない絶妙な感じの絵柄が思い浮かぶ。
色が落ち着いていたら似合わない、とは言わないけど、小型なものを持っているという図自体があまり俊介にピンと来ないのだ。
でもはっきりと似合うわけではないねって言っていいものだろうか。
「あっ」
オレはピンときた。
「じゃあ三人でオソロとかイロチで買って使わない?三人一緒にだったら一人だけでよりも浮かなくない?」
そうだろうかと疑問そうな顔をしつつも二人は頷いてくれた。
しかしオレは首を傾げる。
いいアイディアだと思ったんだけどそれはオレの見当違いだったようで、二人の反応は鈍い。
「……やっぱりやめとく?」
「えっ?何で?」
「え、反応悪かったから」
「そんなことないよ!?めっちゃ楽しみ!ねえ」
必死の形相でオレに畳み掛けてくるちか。
「ああ、楽しみだ」
「ほら、俊介もああ言ってるし行こ?」
ちかが言わせた感がすごい。
何でそんなに必死なのかとオレはさらに首を傾げる。
「うん」
オレは二人が乗り気でないから止めるか聞いただけなのにオレが悪いみたいな雰囲気になっていたことが解せなくて、オレは少しだけ眉を顰めながら頷く。
ちかと俊介があからさまに安堵した。
解せない。
何処で買うかは決めていないけど、とりあえず近くの大きいショッピングモールへ行くことにした。
そこには沢山の店が詰まっていて、本から靴、眼鏡まで何でも揃うから。
「何処で買う?」
「三百均とかでいいんじゃない?僕前そこで買ったよ」
そうなのか。
今まで使っていたものはオレが暑過ぎる時に衝動買いしてきたもので、ちかとお揃いにしようだとかそんなことまで気が回っていなかったのだ。
オレは今、確実に目がキラキラと輝いている。
「これ!これにしよ!」
手に取って詳しくパッケージの内容を読み取る。
(……うん、多分問題なし!)
読み取りはするが、内容は理解しようと試みてもできない部分があるものだ。
どんな商品でもたまに知らないワードって出てくるよね。
オレが一目惚れしたミニ扇風機は、シュッとしたボディーをしていて、ミニだけど可愛さは漂っていない。
それに、どの色もボディーの良さを引き立てている。
オレは鉄紺、鉛白、ボトルグリーン、ぽい色のものを選び、どうかと提案する。
オレが選んだものに決まった。
ただ、二人が選んだ色がオレの想定とは違った。
オレは俊介が鉄紺を、ちかが鉛白を選ぶと思っていたのにかすりもしていない。
実際は俊介がボトルグリーン、ちかが鉄紺だった。
これは別に、オレのただの予想だったのだからいい。
しかし、オレが鉛白なのはなんだか違う気がする。
「この色、オレに似合わなくない?」
「「似合う」」
納得いかないが数で押し切られた。
オレは口を尖らすしか抗議できない。
そしてそれを可愛いと言われるのだから、二人は目が腐っているのかと呆れる。
早く決めてしまったから、まだまだ遊ぶ時間がある。
「どこいく?」
「俺はどこでも」
「はい!」
ちかが勢いよく手を上げて注目を集めさせる。
「ゲームセンターいこ!」
特に何処がいい、とかはなかったからちか提案のゲームセンターに決まった。
オレは衝撃の出会いに目を見開く。
「でかわんこ……!」
そう、とても愛らしく、大きい犬のデフォルメ化されたクッションがあったのだ。
オレは犬とカワウソとハムスターが大好きだ。
でかわんこは、オレに取ってもらいたいと言うかのように顔がこちらを向いている。
これはもう、狙うしかないだろう。
オレは誰かに取られないうちにと早歩きで両替機の前に移動して千円を投入する。
十枚の百円玉をジャラジャラと小銭入れへと入れ早々と可愛いでかわんこの元へと向かう。
そして早速五百円投入して始める。
オレはクレーンゲームが苦手というわけではないが、得意でもない。
だから五回でオレの力だけで取れる確率なんて三分の一あったらいい方だ。
それでも楽しいから挑戦する。
「……取れるのか?」
これまで黙ってオレを眺めていた俊介が不思議そうに近寄ってくる。
「んー、多分ムリ」
「なのにやるのか」
「だって取れなくても楽しいじゃん。それに…………」
「それに?」
「まだ秘密」
「なんだそれ」
俊介が知りたそうにしてもオレは答えない。
なんてったってオレの秘密兵器なのだから。
結果。
オレの力では五回ででかわんこを迎えることはできなかった。
しかしでかわんこは迎え入れたい。
そこで秘密兵器にバトンを渡す。
「ちかお願いします」
「うん、まかせて!」
オレは勢いよく頭を下げて残りの五百円をちかに投資する。
ちかが百円玉を入れるのを横目に指を差しながら俊介に言う。
「オレの秘密兵器」
「千景がかよ」
そう話している間に、ちかがたったの二回ででかわんこをぽすりと落とす。
「やった!ありがとう!」
オレはちかに差し出されたでかわんこを即座に抱きしめる。
ちかと俊介は片手で顔を覆うという全く同じポーズを取っている。
いつものことなのに、何故か胸をチリリと焦がすナニカがあった。
「最初から千景にやってもらった方が安上がりなんじゃねぇのか」
「それだと景品が嬉しくはあるけど、オレが楽しくないからやんない。千円以内に収まってるから多分元取れてるし、いいんだ」
「そういうもんか?」
「真央ちゃんにとってはね」
俊介は興味なさそうに相槌を打ちながらも、その足は両替機へと向かっていた。
(やっぱり気になるんだなぁ)
ずっとどうでもよさそうな雰囲気を醸し出してはいたが、視線はずっとクレーンゲームに注がれていたのだ。
その行動をオレは微笑ましく見守る。
「千景、教えろ」
「めっちゃ偉そー」
「あ?」
「さらに偉そーじゃん!」
わいわいと盛り上がりながら一つのクレーンゲーム機内を覗き込む二人。
そんな姿に心がモヤモヤするのだ。
二人が仲良くなるのはオレにとって嬉しいことなはずなのに。
こんな思いを抱いているオレ自身に嫌気が差す。
(オレいらないよね)
そう思えてしまうのだ。
オレにはない美を持つ二人。
その二人だけで絵は完成する。
周囲の目がそこに集中する。
そんな二人の間にでんと挟まるオレは異物なのだと思えてきて。
オレはいてはいけないのかと。
三人で一緒にいるのはとても楽しいのに。
なんだかそれが許されていないみたいで。
そんなふうに僻んでしまうオレが本当にムカつく。
オレはそっとこの場から立ち去る。
オレは卑怯にも逃げ出したのだ。
自販機でミルクティーのボタンを押す。
ガコンと落ちてきたミルクティーを手に取り近くのベンチへ座る。
(冷たい)
はあぁと深いため息を吐く。
何も言わずに離れてしまった。
今更罪悪感が湧いてきて、より一層深いため息を吐き出す。
「あれ、真央じゃん。一人?」
しかし。
高校生、特に男子には衣替えがない。
年中長袖で、暑ければ学ランを脱げばいいだけ。
女子は冬服合服を持ってはいるけど、夏服は殆どの人が持ってないと思う。
制服を買いに行った時、今時高校生達は夏服は買わずに合服の袖を折るんだと言われた。
確かに夏服の高校生って見ないなって納得したけど、やっぱり長袖だと夏は暑い。
でも夏服は本当に0人レベルで一人だけ着ようとも思えない。
衣替えがなくて楽な分とても忍耐力が試される。
「…………暑い」
心なしかぐったりとしている俊介がとても珍しい。
「俊介って暑さに弱かったんだねぇ」
「ね、そうは見えない」
呆れたようにちかが俊介をつんつんと突いている。
明らかに面白がっているとわかるにやにやとした笑顔。
でもそれはオレもかもしれない。
こんなに俊介が弱るなんてこと中々ないだろうから、余計に。
「ミニ扇風機は?」
「持ってねぇ」
「え、そうなの!?」
そんなに暑さに弱いのに持っていないのか。
思わず呆れる。
「え~、何で俊介持ってないの?」
ちかの問いに、若干歪み気味だった顔が歪んでいると断言できる顔になる。
「似合わねぇだろ、俺は」
「「…………」」
(び、微妙……!!)
ちかとオレは顔を見合わせる。
絶望的に似合わないということもないだろうけど、似合うとも言えない絶妙な感じの絵柄が思い浮かぶ。
色が落ち着いていたら似合わない、とは言わないけど、小型なものを持っているという図自体があまり俊介にピンと来ないのだ。
でもはっきりと似合うわけではないねって言っていいものだろうか。
「あっ」
オレはピンときた。
「じゃあ三人でオソロとかイロチで買って使わない?三人一緒にだったら一人だけでよりも浮かなくない?」
そうだろうかと疑問そうな顔をしつつも二人は頷いてくれた。
しかしオレは首を傾げる。
いいアイディアだと思ったんだけどそれはオレの見当違いだったようで、二人の反応は鈍い。
「……やっぱりやめとく?」
「えっ?何で?」
「え、反応悪かったから」
「そんなことないよ!?めっちゃ楽しみ!ねえ」
必死の形相でオレに畳み掛けてくるちか。
「ああ、楽しみだ」
「ほら、俊介もああ言ってるし行こ?」
ちかが言わせた感がすごい。
何でそんなに必死なのかとオレはさらに首を傾げる。
「うん」
オレは二人が乗り気でないから止めるか聞いただけなのにオレが悪いみたいな雰囲気になっていたことが解せなくて、オレは少しだけ眉を顰めながら頷く。
ちかと俊介があからさまに安堵した。
解せない。
何処で買うかは決めていないけど、とりあえず近くの大きいショッピングモールへ行くことにした。
そこには沢山の店が詰まっていて、本から靴、眼鏡まで何でも揃うから。
「何処で買う?」
「三百均とかでいいんじゃない?僕前そこで買ったよ」
そうなのか。
今まで使っていたものはオレが暑過ぎる時に衝動買いしてきたもので、ちかとお揃いにしようだとかそんなことまで気が回っていなかったのだ。
オレは今、確実に目がキラキラと輝いている。
「これ!これにしよ!」
手に取って詳しくパッケージの内容を読み取る。
(……うん、多分問題なし!)
読み取りはするが、内容は理解しようと試みてもできない部分があるものだ。
どんな商品でもたまに知らないワードって出てくるよね。
オレが一目惚れしたミニ扇風機は、シュッとしたボディーをしていて、ミニだけど可愛さは漂っていない。
それに、どの色もボディーの良さを引き立てている。
オレは鉄紺、鉛白、ボトルグリーン、ぽい色のものを選び、どうかと提案する。
オレが選んだものに決まった。
ただ、二人が選んだ色がオレの想定とは違った。
オレは俊介が鉄紺を、ちかが鉛白を選ぶと思っていたのにかすりもしていない。
実際は俊介がボトルグリーン、ちかが鉄紺だった。
これは別に、オレのただの予想だったのだからいい。
しかし、オレが鉛白なのはなんだか違う気がする。
「この色、オレに似合わなくない?」
「「似合う」」
納得いかないが数で押し切られた。
オレは口を尖らすしか抗議できない。
そしてそれを可愛いと言われるのだから、二人は目が腐っているのかと呆れる。
早く決めてしまったから、まだまだ遊ぶ時間がある。
「どこいく?」
「俺はどこでも」
「はい!」
ちかが勢いよく手を上げて注目を集めさせる。
「ゲームセンターいこ!」
特に何処がいい、とかはなかったからちか提案のゲームセンターに決まった。
オレは衝撃の出会いに目を見開く。
「でかわんこ……!」
そう、とても愛らしく、大きい犬のデフォルメ化されたクッションがあったのだ。
オレは犬とカワウソとハムスターが大好きだ。
でかわんこは、オレに取ってもらいたいと言うかのように顔がこちらを向いている。
これはもう、狙うしかないだろう。
オレは誰かに取られないうちにと早歩きで両替機の前に移動して千円を投入する。
十枚の百円玉をジャラジャラと小銭入れへと入れ早々と可愛いでかわんこの元へと向かう。
そして早速五百円投入して始める。
オレはクレーンゲームが苦手というわけではないが、得意でもない。
だから五回でオレの力だけで取れる確率なんて三分の一あったらいい方だ。
それでも楽しいから挑戦する。
「……取れるのか?」
これまで黙ってオレを眺めていた俊介が不思議そうに近寄ってくる。
「んー、多分ムリ」
「なのにやるのか」
「だって取れなくても楽しいじゃん。それに…………」
「それに?」
「まだ秘密」
「なんだそれ」
俊介が知りたそうにしてもオレは答えない。
なんてったってオレの秘密兵器なのだから。
結果。
オレの力では五回ででかわんこを迎えることはできなかった。
しかしでかわんこは迎え入れたい。
そこで秘密兵器にバトンを渡す。
「ちかお願いします」
「うん、まかせて!」
オレは勢いよく頭を下げて残りの五百円をちかに投資する。
ちかが百円玉を入れるのを横目に指を差しながら俊介に言う。
「オレの秘密兵器」
「千景がかよ」
そう話している間に、ちかがたったの二回ででかわんこをぽすりと落とす。
「やった!ありがとう!」
オレはちかに差し出されたでかわんこを即座に抱きしめる。
ちかと俊介は片手で顔を覆うという全く同じポーズを取っている。
いつものことなのに、何故か胸をチリリと焦がすナニカがあった。
「最初から千景にやってもらった方が安上がりなんじゃねぇのか」
「それだと景品が嬉しくはあるけど、オレが楽しくないからやんない。千円以内に収まってるから多分元取れてるし、いいんだ」
「そういうもんか?」
「真央ちゃんにとってはね」
俊介は興味なさそうに相槌を打ちながらも、その足は両替機へと向かっていた。
(やっぱり気になるんだなぁ)
ずっとどうでもよさそうな雰囲気を醸し出してはいたが、視線はずっとクレーンゲームに注がれていたのだ。
その行動をオレは微笑ましく見守る。
「千景、教えろ」
「めっちゃ偉そー」
「あ?」
「さらに偉そーじゃん!」
わいわいと盛り上がりながら一つのクレーンゲーム機内を覗き込む二人。
そんな姿に心がモヤモヤするのだ。
二人が仲良くなるのはオレにとって嬉しいことなはずなのに。
こんな思いを抱いているオレ自身に嫌気が差す。
(オレいらないよね)
そう思えてしまうのだ。
オレにはない美を持つ二人。
その二人だけで絵は完成する。
周囲の目がそこに集中する。
そんな二人の間にでんと挟まるオレは異物なのだと思えてきて。
オレはいてはいけないのかと。
三人で一緒にいるのはとても楽しいのに。
なんだかそれが許されていないみたいで。
そんなふうに僻んでしまうオレが本当にムカつく。
オレはそっとこの場から立ち去る。
オレは卑怯にも逃げ出したのだ。
自販機でミルクティーのボタンを押す。
ガコンと落ちてきたミルクティーを手に取り近くのベンチへ座る。
(冷たい)
はあぁと深いため息を吐く。
何も言わずに離れてしまった。
今更罪悪感が湧いてきて、より一層深いため息を吐き出す。
「あれ、真央じゃん。一人?」
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