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今更タピオカ
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「タピオカ飲んでみたい。飲みに行かない?」
「…………今更?」
「別に今更でもよくない!?」
流行遅れがなんだとオレは地団駄を踏む。
「いや別にいいが、どうした急に」
二人が不思議そうにオレを見つめる。
そりゃそうだ、唐突に切り出したし。
しかも今は昼。
お弁当を食べた後だからお腹が空いて食べ物の話に、なんて流れでもない。
でもずっと飲んでみたいと憧れていたのだ。
最近はずっとこの話題を出すきっかけを探していたけど、オレには全く掴めなかった。
もういいやときっかけはぽいっと彼方へと放って、オレは己の欲求に従って話しす。
「ずっとタピオカが気になってたから」
二人の表情がいっそう怪訝になる。
「真央ちゃん一人ではいけないとして、僕がいるよね?」
「…………だからだよ」
「えっ」
ちかが傷ついたように声を漏らす。
そこでようやく、オレは言い方を間違えたのだと慌てる。
違うのだとわかってもらえるよう首を激しく横に振る。
「ちかは可愛いじゃん。タピオカ似合うけど、オレは似合わないだろ?だから似合う人と二人ではちょっとなぁ、って思ってたんだ」
「「絶対似合う」」
「お、おぉ。…………ど、どうも?」
食い気味に言われてもいまいちピンとこない。
いや、わかってないなぁと肩をすくめて首を振られても。
二人の感覚がおかしい。
(つーかタピオカが似合うと言われても微妙だなぁ)
すんと真顔になったオレは悪くない。
「んん、そこで、だ!俊介が現れた!!俊介はオレ以上にタピオカが似合わなそうだろ?ならいけるかなって」
ちかは想像したのか咄嗟に吹き出す。
俊介は想像したのか眉を顰める。
「あはははっ!!いいね、行こ行こ」
「………………」
盛大に顔を顰めたまま、仕方なさげに頷いてくれる俊介。
そんなに嫌そうにしながら何故行ってくれるのか。
(いや、俊介がいてくれなきゃいけないしありがたいけども。その顔どうにかしてほしい。めっちゃ怖いんですけど)
その後、オレは楽しみすぎて午後に二時間がとても長く感じた。
しかも今日は授業後の掃除がある日でさらに十五分の時間がプラス。
(長かった……!)
帰りのSTの挨拶が終わり、オレがぐっと拳を握る。
勿論こっそりと。
盛大には恥ずかしくて、やってみようかなとも思えない。
いつの間に来たのか俊介がオレの隣で片手で顔を覆っているが、その発作が終わるのを待ちきれないオレは腕を引いて昇降口へと向かう。
一年生と二年生は教室の階も昇降口の階も違うため、待ち合わせはいつも下の昇降口前なのだ。
スリッパを靴に履き替え外に出ると既にちかがいた。
「早く行こ!」
オレは追加でちかの腕も引っ張り、両手が塞がった状態で早足にタピオカ店へと進む。
学校の周囲にはタピオカ店なんて洒落た物は存在しない。
駅の近くには必ずと言ってもいいほどあるコンビニも、正陽から徒歩十分もない駅の近くにはないのだ。
オレ達が住む南側に行くとコンビニは勿論、大きな公園や百均、巨大なショッピングモールがある。
お気に入りの書店もある。
しかも徒歩十五分くらいの距離で休みの日は運動がてら歩いていくのだが、途中に公園の散歩コースがあり目も楽しめるという一石二鳥。
着いたタピオカ店は未だそこそこ人気のある所で行列こそこの時間にはないが賑わっている。
オレはいちごミルクティー。
ちかはバナナミルクティー。
俊介は抹茶ミルクティー。
念願のタピオカミルクティーに期待を寄せてオレはストローに齧り付く。
もちゃもちゃ、もちゃ……もちゃ。
そして次第に口が固まる。
いちごミルクティーは美味しい。
タピオカも、噛み始めた最初の方はいい。
でも口の中のいちごミルクティーが消えタピオカだけが残り、味がなくなろうが噛んで飲み込まなくてはいけないのだ。
(不味い。美味しくないいぃ!!)
ようやく一口目を飲み込み終わる。
「二人はタピオカ好き?」
「意外とうまいな」
俊介の眉間の皺が完全に取れているのを確認して本当のようだと頷く。
「うん、好き!おいしいね」
ちかからは眩しい笑顔をもらう。
「そう、よかった。オレ好きじゃなかったから俊介にあげるわ」
「ん?ありがと」
「えー!?なんで僕じゃないの?」
「ちかはこれ嫌いでもないけど好きでもないだろ」
「え、なんで!?」
「なんとなく」
なんとなくかぁと嬉しげに呟かれても、オレとしては嘘つくなよとしか思えない。
たまにちかは変な所で嘘を吐く。
タイミングはよくわからないが、ちかの中ではなんらかの基準があるのだろう。
いつもはその嘘を軽く流す。
そのためちかはオレが嘘に気がついていたのだとは知らなかったらしい。
本気で驚いて本気で喜んでいる。
ちかが俊介の耳に顔を近づけて恨めしげに何かを囁く。
「ごふっ」
そして俊介は咽せた。
ちかは満足したようで俊介を心配することもなくオレの隣でタピオカを飲んでいる。
「大丈夫?」
未だ咳が止まらない俊介とその姿をにたにたと眺めるちかを見比べる。
(何言ったんだ?)
とても気になるが、俊介の咽せようを見ると聞きたくないよな気もする。
聞こうかどうか悩んでいると、唐突にちかが言う。
「キスだよ。間接キスだねって言ったの」
下唇に人差し指を当て流し目でオレを見るちかは大人っぽくて色気が出ている。
不意にもオレはドキッとした。
まあ、俊介に拳を落とされ痛いと喚く姿にそんなものスッと何処かへ消えていったが。
「…………今更?」
「別に今更でもよくない!?」
流行遅れがなんだとオレは地団駄を踏む。
「いや別にいいが、どうした急に」
二人が不思議そうにオレを見つめる。
そりゃそうだ、唐突に切り出したし。
しかも今は昼。
お弁当を食べた後だからお腹が空いて食べ物の話に、なんて流れでもない。
でもずっと飲んでみたいと憧れていたのだ。
最近はずっとこの話題を出すきっかけを探していたけど、オレには全く掴めなかった。
もういいやときっかけはぽいっと彼方へと放って、オレは己の欲求に従って話しす。
「ずっとタピオカが気になってたから」
二人の表情がいっそう怪訝になる。
「真央ちゃん一人ではいけないとして、僕がいるよね?」
「…………だからだよ」
「えっ」
ちかが傷ついたように声を漏らす。
そこでようやく、オレは言い方を間違えたのだと慌てる。
違うのだとわかってもらえるよう首を激しく横に振る。
「ちかは可愛いじゃん。タピオカ似合うけど、オレは似合わないだろ?だから似合う人と二人ではちょっとなぁ、って思ってたんだ」
「「絶対似合う」」
「お、おぉ。…………ど、どうも?」
食い気味に言われてもいまいちピンとこない。
いや、わかってないなぁと肩をすくめて首を振られても。
二人の感覚がおかしい。
(つーかタピオカが似合うと言われても微妙だなぁ)
すんと真顔になったオレは悪くない。
「んん、そこで、だ!俊介が現れた!!俊介はオレ以上にタピオカが似合わなそうだろ?ならいけるかなって」
ちかは想像したのか咄嗟に吹き出す。
俊介は想像したのか眉を顰める。
「あはははっ!!いいね、行こ行こ」
「………………」
盛大に顔を顰めたまま、仕方なさげに頷いてくれる俊介。
そんなに嫌そうにしながら何故行ってくれるのか。
(いや、俊介がいてくれなきゃいけないしありがたいけども。その顔どうにかしてほしい。めっちゃ怖いんですけど)
その後、オレは楽しみすぎて午後に二時間がとても長く感じた。
しかも今日は授業後の掃除がある日でさらに十五分の時間がプラス。
(長かった……!)
帰りのSTの挨拶が終わり、オレがぐっと拳を握る。
勿論こっそりと。
盛大には恥ずかしくて、やってみようかなとも思えない。
いつの間に来たのか俊介がオレの隣で片手で顔を覆っているが、その発作が終わるのを待ちきれないオレは腕を引いて昇降口へと向かう。
一年生と二年生は教室の階も昇降口の階も違うため、待ち合わせはいつも下の昇降口前なのだ。
スリッパを靴に履き替え外に出ると既にちかがいた。
「早く行こ!」
オレは追加でちかの腕も引っ張り、両手が塞がった状態で早足にタピオカ店へと進む。
学校の周囲にはタピオカ店なんて洒落た物は存在しない。
駅の近くには必ずと言ってもいいほどあるコンビニも、正陽から徒歩十分もない駅の近くにはないのだ。
オレ達が住む南側に行くとコンビニは勿論、大きな公園や百均、巨大なショッピングモールがある。
お気に入りの書店もある。
しかも徒歩十五分くらいの距離で休みの日は運動がてら歩いていくのだが、途中に公園の散歩コースがあり目も楽しめるという一石二鳥。
着いたタピオカ店は未だそこそこ人気のある所で行列こそこの時間にはないが賑わっている。
オレはいちごミルクティー。
ちかはバナナミルクティー。
俊介は抹茶ミルクティー。
念願のタピオカミルクティーに期待を寄せてオレはストローに齧り付く。
もちゃもちゃ、もちゃ……もちゃ。
そして次第に口が固まる。
いちごミルクティーは美味しい。
タピオカも、噛み始めた最初の方はいい。
でも口の中のいちごミルクティーが消えタピオカだけが残り、味がなくなろうが噛んで飲み込まなくてはいけないのだ。
(不味い。美味しくないいぃ!!)
ようやく一口目を飲み込み終わる。
「二人はタピオカ好き?」
「意外とうまいな」
俊介の眉間の皺が完全に取れているのを確認して本当のようだと頷く。
「うん、好き!おいしいね」
ちかからは眩しい笑顔をもらう。
「そう、よかった。オレ好きじゃなかったから俊介にあげるわ」
「ん?ありがと」
「えー!?なんで僕じゃないの?」
「ちかはこれ嫌いでもないけど好きでもないだろ」
「え、なんで!?」
「なんとなく」
なんとなくかぁと嬉しげに呟かれても、オレとしては嘘つくなよとしか思えない。
たまにちかは変な所で嘘を吐く。
タイミングはよくわからないが、ちかの中ではなんらかの基準があるのだろう。
いつもはその嘘を軽く流す。
そのためちかはオレが嘘に気がついていたのだとは知らなかったらしい。
本気で驚いて本気で喜んでいる。
ちかが俊介の耳に顔を近づけて恨めしげに何かを囁く。
「ごふっ」
そして俊介は咽せた。
ちかは満足したようで俊介を心配することもなくオレの隣でタピオカを飲んでいる。
「大丈夫?」
未だ咳が止まらない俊介とその姿をにたにたと眺めるちかを見比べる。
(何言ったんだ?)
とても気になるが、俊介の咽せようを見ると聞きたくないよな気もする。
聞こうかどうか悩んでいると、唐突にちかが言う。
「キスだよ。間接キスだねって言ったの」
下唇に人差し指を当て流し目でオレを見るちかは大人っぽくて色気が出ている。
不意にもオレはドキッとした。
まあ、俊介に拳を落とされ痛いと喚く姿にそんなものスッと何処かへ消えていったが。
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