上 下
12 / 28

萌愛緒薔とバレーノ

しおりを挟む
「にしても真央、お前萌愛緒薔の総長と幼馴染なんてすげぇな」

夕食後、オレの部屋で何気ないことを話している時のこと。
俊介が何気なく放った言葉。

「ちょ、稲妻!」

ちかが慌てているがもう遅い。

「…………そうちょう?」

オレはばっちりと聞いてしまったのだから。


「は、お前言ってなかったのかよ」

俊介は呆れた様子で、ちかは泣きそうな表情で此方を見る。

「…………総長、なんだちか」
「う、うん………………」

ちかが不良になっていることくらい、家族から鈍感、若干天然、などと言われ放題な俺でも察していた。
総長だとは思いもしなかったけど。


(なんでいってくれなかったの……?)


オレに言ってくれなかってからといって、責めようなんて思っていない。
ただ、とても仲の良い幼馴染に、告げてくれなかったことが悲しいのだ。

「真央ちゃん真央ちゃん!内緒にしててごめんね!!」
「うん」
「本当にごめんね…………。怒ってる?」

窺うように覗き込まれ、オレは首を横に振る。
言わなかっただけで怒るような狭量ではない。


「ううん。ただ、言ってくれなかったことが、他の人の口から聞いたことが、悲しいなって思っただけ」
「一番ダメなヤツだろ」
「稲妻は黙ってて!?」

俊介がぼそりと吐いた言葉にちかは大きいリアクションを返した。
そしてお互いに噛みつき合う。

「はっ!」
「うわムカつく!」
「自業自得だろ」
「でもムカつく!!」
「言ってろ」
「うっわぁ~、何その余裕」

こんな時でも変わらず仲の悪い二人のやり取りに思わず笑う。

「あ、笑った!」
「うん、ごめん」

ちかは頬を膨らませかけ、そこでさっきまで何を話していたのか思い出したのだろう、バツの悪そうな顔をしてオレの視線から顔を背ける。

俊介はそんなちかを面白そうに眺めているだけ。
オレ達に流れる空気を変えてくれただけでなく、見守る姿勢でいてくれることがありがたい。


そんな俊介に背を押され、オレは決める。

「ちか、なんで言ってくれなかったのか聞いてもいい?」

相変わらず目を合わせようとしないちか。

「…………真央ちゃんの中で僕ってイイコでしょ?だから、不良の総長なんて言ったら嫌われるんじゃないかって思ったら言えなかったんだ」

ちかの言葉にオレはきょとんとする。
そんなふうに思っているとは、ちかはオレのことを見くびっている。


だから、オレはまた笑う。

「オレはちかのこと、いい子だって思ってるけど、それだけじゃないって知ってるよ?」
「え!?」

本気で驚き慌てるちかを、珍しいとさらに笑う。

「ちかって腹黒でしょ」
「ああ」
「なんで稲妻が答えるの!?」
「だってお前答えるつもりなかっただろ」
「………………」

ちかはぶすっと納得いかなさそうに口を閉ざす。
言い当てられて不満なのだろう。



ちかがいつも、わざと大袈裟に表情を作っているのだということも勿論察している。

「…………じゃあ、なんで真央ちゃんは僕のことイイコって、可愛いって言ってくれるの?」

それは当たり前なのに。

「だって、ちかってオレのことを大好きだろう?そんでオレと一緒に沢山笑ってくれる。オレのために一生懸命。そんなの、可愛いと思うに決まってる」


理解が追いつかなかったのか一拍間を置いて、ちかが満面の笑みでオレに抱きつく。

「真央ちゃんだぁいすき!!」

(うん、やっぱり可愛い)

一人頷く。
これを見て、腹黒だから可愛くないなんていうのはおかしいと思う。

「うん、オレも大好き」

締め付けが強かった腕の力がさらに増す。
ちかはオレより小さいのに力がとても強いのだ。
だから当時、不良になったんだなぁと思っても、納得が強かった。


「真央、俺は?」
「ん、勿論俊介も大好き」
「ああ、俺も大好きだ」

皆で笑い合う。
若干俊介とちかは睨み合ってもいるが。

悲しい気持ちなんてとうにどこかへぽいっと投げ捨てられ、今は嬉しさで胸がいっぱいだ。
しみじみ思う。

(あぁ、なんて幸せなんだろう)







そして笑顔がひと段落した頃合いを見計らって二人に問う。

「俊介とちかって仲いいの?」
「「はぁ!?」」

とても嫌そうに驚愕された。

二人とも同じような苦虫を噛み潰した表情を浮かべている。
オレは、二人は似てると思う。

(うーん、同族嫌悪?)

二人の容姿や喋り方は全くの正反対だけど言動が似ているのだ。

「……うん、やっぱり仲良いね」
「「ありえない」」
「ほら」
「「………………」」

二人の顔がさらに険しくなるのを見てオレは笑う。
そのシンクロを仲良しと言わずになんと言うのだ。
まぁ、そのシンクロがお互いの不満で同族嫌悪の元なんだろうけど。


「じゃあ萌愛緒薔とバレーノも仲良くないの?」

二人は意外なことを質問されたとばかりに考え込む。

「抗争をしたことはないよ。バカは勝手にヤって勝手に気取ってるけど」
「そうだな。つーか構成員は知らねぇが、俺らは互いの族に無関心だったから全面抗争を起こそうとすら思ったことねぇよな」
「あ~、確かに?」

ちかがきゃらきゃらと笑い声を上げる。

真面目に答えてもらっているところで悪いが、互いに嫌悪し合っているのに、何故連携が取れるのかという疑問で頭が占められる。
嫌悪していても実力を認めてはいるからなのか。

(あ、そんな気がしてきた)


実力をお互い知り合っていて信頼はなくても任せ合えるのなら、今後も大丈夫だろう。

「なら三人で一緒に行動できるね」
「そんなこと気にしてたのか」
「気にする必要なんてないのに」

いや気にするだろう。
思わず真顔になる。

「ああ。文句垂れるヤツはシメるからな」
「だよね。僕もシメる!僕の行動に文句を言うなんて何様なんだって話だよねぇ」

ちかがだいぶオレの前での言葉に遠慮をしなくなった。
いいことなんだが、オレはちかの腹黒加減を見誤っていた気がする。
オレが感じ取っていた鱗片以上の黒さがちらちら覗く。


(そういえば、ちかの拳に傷殆どつかないよな)

喧嘩をするなら普通は拳なのに、ちかの拳に傷が見当たらないのは何故か。
そう不思議に思ったオレは徐にちかの手を取り観察する。

「真央ちゃん?」
「いや、総長なわりには喧嘩で節が太くなった、とかないし、怪我も見たことないなって思って」
「えへへ、まぁね。なんでだと思う?」

オレは喧嘩に詳しくないからさっぱりだから俊介に助けを求めて振り返る。

「蹴りばっかなんだよ、コイツ」
「ん、蹴り」

オレはわかったと得意気にちかに言う。

「んんんっ」

ちかは顔を背けて無意味にごほんと咳払いをする。
なんでだ。


「そー!ほら、僕体柔らかいでしょ?それ生かして蹴りを重くしてるんだぁ」
「すごいね」

オレは素直に感心する。
体格で諦めずに、己の体を最大限利用しているのだ。
中々できることではない。

「ふへへ」

褒められて嬉しそうなちかからオレにも嬉しさが伝染する。





しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ショタっ娘のいる生活

BL / 連載中 24h.ポイント:242pt お気に入り:89

映画感想 四月

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:0

夢幻世界

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

処理中です...