一番でなくとも

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エドワードの不安

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「お帰りなさいませ」

 隣国との交渉が無事に済み、ようやくエドワードが家に戻ってこられたのは、サラとキャシーとの噂について話をしてから一ヶ月以上たっていた。

 出迎えを受けたエドワードは、サラの姿がないことにすぐ気付いた。

「サラの調子はどうだ?」

 執事がエドワードに一通の手紙を差し出す。

「奥様は今日ご実家に向かわれ、無事に到着されました。
 旦那様が戻られるという先触れがありましたので、奥様より伝言を王宮に届けずに手渡しするよう指示がありました」

 サラの侍女が代筆した手紙には、悪阻がひどくサラの実家で静養する。見舞いを受け入れるのも難しいため、エドワードがわざわざ見舞いに来る必要はない、といったことが書かれていた。

「サラの悪阻は静養が必要なほどひどいのか?」

 見舞いにも来るなと書かれていることに、エドワードはショックを受けていた。

「はい。匂いに敏感になられ、少しでも不快な匂いを嗅がれると嘔吐され、食べ物や飲み物も体がほとんど受け付けないようです。吐くことなく食べられるものが少なく、食べられた後に何かの拍子でもどされてました。

 奥様のお母上であるライナー夫人も、奥様同様の悪阻を経験されていることから、ご実家に戻って静養されることになりました」

 エドワードはサラの妊娠を知ったのが一週間ほど前で、まさか体が何も受け付けないほどの悪阻にサラが悩まされているなど考えもしなかった。

「サラの状態について、なぜ私に報告をしなかったのだ」

 執事に出来るだけ穏やかに質問したつもりだが、怒りで声が震えているのを自覚した。

「奥様が旦那様に心配をおかけするわけにはいかないと、報告しないようおっしゃられました。

 奥様に何度も旦那様に報告させて欲しいとお願いしましたが、国の一大事に妻の悪阻ごときでわずらわせてはいけないとおっしゃり、最後までご意見を変えていただけませんでした」

 疲れが一気に足にきて、エドワードは玄関ホールのソファーに、倒れるように腰かけた。息苦しく感じ、首の部分をゆるめようとしたら、すでにボタンは、はずれていた。

 エドワードはどのぐらいそのようにしていたか分からないが、いつにない主人の姿に動揺をみせている使用人達に気付き、立ち上がるのも億劫なほど疲れていたが、体に残っているすべての力を使って立ち上がり、自分の部屋へと向かった。

 湯を浴びてさっぱりしたいが、そこまでの体力も気力もない。部屋着に着替えたあと、ベッドに寝転がる。

 ようやく家に帰れる。
 サラに会える。

 浮き立った気持ちで帰ってきたが、待っていたのは身重の妻が悪阻で弱っているにもかかわらず、何一つ自分には知らされていないという現実だった。そして妻は家におらず、実家へ戻ったあとだ。

 妊娠の知らせをエドワードの顔をみて言いたかったというサラの気持ちは分かるが、結局サラからではなく執事によって知らされ、サラが静養するために実家に帰ることも知らされなかったことに腹が立った。

 筆まめなサラが、侍女に代筆を頼まなければならないほど弱っているというのに、見舞いにもくるなというメッセージを残す。

 サラにとってエドワードは、苦しんでいる妻を放っておいても大丈夫な人間と思われているのかと愕然とした。大変な時に頼る相手ではないと思われていたことが、胸に刺さった。

 自分が見舞いにいっても、実際に役に立つわけではないのは分かっている。サラの隣りについていることぐらいしか出来ないだろう。

 しかしエドワードが側にいることで、サラに一人ではないと安心してもらいたい。子を産むのはサラにしか出来ないが、サラの苦しみが少しでも和らぐようにしたい。自分がサラに出来ることを全てやりたい。

 そのように思うが、実際には側にいることさえも拒まれるような存在でしかないようだ。

 政略結婚ではあるが、良い関係を築き、穏やかな結婚生活を送ってきたと思っている。お互いの間に家族として信頼関係があると思っていた。

 これまでサラに嫌われていると思ったことはないが、もしかしたらとエドワードは不安にかられる。

 自分に対し家族としての愛情を持ってくれているのではないか、気心がしれ何でも話せるような親愛があるのではないかと思ってきたが、それは勘違いだったのだろうか。

 サラに会いたい。いますぐサラの実家へ向かうべきだろうが、体が重すぎて動かない。

 エドワードはサラのことを考えながら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
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