卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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大食い競争

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「ピンポーン」

 玄関チャイムが鳴ったのは、夜9時を過ぎた頃だった。

「誰だろ……こんな時間に?」

「宅配じゃないっぽいね。ママりん出た?」

「いまお風呂。パパry……は寝落ち中……」

 ふたりで顔を見合わせ、私が仕方なく玄関へ向かう。

 ドアを開けると、そこに立っていたのは――

「やあ、久しぶり!」

「……タカシ!?」

 そこには、どこか懐かしい顔があった。いとこ――タカシだ。

 小さい頃は一緒によく遊んだけど、ここ数年は会ってなかった。なんか身長がめっちゃ伸びてて、髪もちょっとだけサラっとしてて……なんか、少年Aから青年Bくらいには進化してる。たしか今年から高校2年生だっけ。

「こっちに来てたから、ちょっと顔出してみた! 突然だけど、お邪魔してもいい?」

「え、あ……うん。まあ、いいけど……」

 軽く戸惑いながらも家に招き入れると、居間でお菓子の空き皿を囲んでいたかおりんが、ぱっと顔を上げた。

「あ、タカちゃん!」

 ――あ、笑った。

 ――しかも、可愛く笑った。

「久しぶりだな、かおり。相変わらずだな~!」

「うふふ~」

 ……な、なんだそのやり取りは。
 なんか男子の前で可愛いモードになってるんですけど!?!

「……それで? 突然なにしに来たの?」

 少しだけトゲを含んだ声で聞くと、タカシはにやっと笑った。

「んー、今日はおばさんがご馳走してくるっていうからさ。それに、しおりが最近食べるの早いって聞いて……で、挑戦しに来た!」

「挑戦?」

「そう、大食い勝負! 俺の高校、食堂の大食い大会で優勝したばっかなんだ。」

「なにその自称チャンピオンみたいな理由……」

「ってことで、勝負だ! 大食い対決、今から開催!」

「ま、まじで!? 夜だよ!?」

「お腹空いてるし、むしろちょうどいいよ~」

 ちゃっかりかおりんも乗ってきてる……。



 そして、台所にはママりん。冷蔵庫を開け、次々とストック食材を取り出す。

「オムライス、からあげ、焼きそば、冷凍パスタ、冷凍チャーハン、全部使っちゃおうかしら」

「ちょ、ママりん!? 夜食のテンションじゃない!」

「いいじゃない、楽しそうだし。女子と男子で勝負なんて、青春って感じでしょ♪」

「色気ないなーー」



 30分後。

 リビングのテーブルの上には、夜とは思えない豪華な炭水化物フェスティバルが展開されていた。

 ルールは簡単。3人で同時にスタートして、10分間で食べた量を競う。
 ママりんがストップウォッチ係で、優勝者には「ママりん特製パフェ」が贈られるとのこと。

「準備はいい~?」

「オッケー!」

「バッチリ!」

「……一応、頑張る」

 ママりんの「よーい、スタート!」の声とともに、一斉に食べ始める。

 タカシくんは勢いで押すタイプ。まるで掃除機のように焼きそばを吸い込んでいる。

 私は速度よりもペース重視。戦略的に、食べやすいものから崩していく。

 ……が、一番驚いたのは。

「……んぐっ、もぐもぐ、ん~これ美味しい♪」

 かおりんだった。

「……え、かおりん、そんなに食べれる子だったっけ?」

「ふふふ、最近、お腹すぐ減っちゃうの!」

「にしても、そのスピードおかしいだろ!」

「私ね、たぶん“ふわもち食感”系の食べ物は無限にいけるの!」

「なにその限定スキル!」

 残り3分、私は焼きそばに苦しみながら、タカシを見る。

 顔が若干青くなってる。チャーハンの米粒をつまんで止まってる。

 ――これは勝ったか……!

 しかし、その横でかおりんは。

「パスタ、ゲットー♪ しおりん、がんばれ~」

 ニコニコしながら励ましつつ、自分はどんどん食べ進めている。
 いや、絶対手加減してない。

 そして、時間切れ。

「ストーップ!」

 ママりんが拍手とともに終了を宣言。みんな、ぜえぜえと肩で息をする。

「では……結果発表!」

 パパりんが持ってきた体重計(なぜ)と皿の重さを駆使して、ママりんが計測する。

 ――1位、かおりん(明らかに1.2キロ以上消費)

 ――2位、しおりん(1キロくらい)

 ――3位、タカシ(850gくらいでギブ)

「か、かおりん……おそろしい子……!」

「ふふふ、だてにスイーツバイキング行ってないもん♪」

「くそっ……こんな……しおりの前でこんな……」

 ……ん?何か聞いちゃいけないことを聞いたような……
 
 タカシは、完敗という顔でクッションに倒れ込んだ。

 その様子を見ながら、私は静かにほほ笑む。

 ――やっぱり、うちのかおりんが最強だ。

「しおりん、あとでパフェ半分こしよ?」

「うん、もちろん」

 かおりんが一番可愛い。それだけは、絶対に揺るがない事実だ。
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