卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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にらめっこ

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 春の風がふわっとカーテンを揺らした。

 かおりん――いや、これからは「しおりん」と呼ばれる私の隣で、妹は何か考え込むように口を尖らせている。

「……ねえ、しおry……しおりん」

 また嚙んだ。そんないいい辛くないよね。

「ん? なに、かおりん(仮)」

「(仮)ってつけるのやめて」

「えー、それ外したら私ほんとにしおりん(正)になっちゃうじゃん」

「もうなってるんだよ、しおりん」

 にやっと笑う妹の顔を見て、私はちょっとだけ照れた。けど、それを見せるのもしゃくだから、すかさず話題を変える。

「そういえばさ、かおりんの制服ってもう届いた?」

「うん、さっき部屋で広げてたんだ。ちょっとブカブカだけど、袖を通したら急に実感わいちゃった」

「いよいよ高校生かあ……。いいなあ、青春って感じ」

「え、しおりんはまだ高校生じゃん」

「もう卒業式追わったら、高校生じゃないでしょ?」

「3月中は高校生でいいんじゃない?」

「うーーん」

 高校生のままでもいっか。でも……

「いやいや、入学したての頃が一番キラキラしてるんだよ。知らなかった?」

「なにそれ、先輩風吹かせちゃって」

 くすくす笑い合うこの空気が、私は好きだ。

 昔はもっと喧嘩ばっかりしてた気がするのに、不思議と今は、こうして何でもない会話が心地いい。

「……でもさ」

「ん?」

「高校って、楽しいだけじゃないよね?」

 急に真面目な顔になった妹の横顔に、私は少し驚く。

「友達100人できるかな?」

「小学校か!」

「中学の時、ちょっと怖かったの。友だちのことで悩んだり、なんか浮いてる気がしたり」

 ポツリとこぼれる言葉に、私は少し胸がぎゅっとなった。

「そっか。……じゃあさ」

 私は立ち上がり、妹の前に座った。

「にらめっこしよっか」

「は?」

「負けた方が悩みを聞く。どう?」

「なにそれ、しおりんルールすぎる……」

「いいからいいから。せーの、にーらめっこ、しましょ……」

 二人して顔を寄せ合う。うわ……まつげ長い……。

………………………………

 変な顔の妹って可愛い。こんなの笑えないって。

………………………………

 どうしよう、なかなか勝負つかないな……

………………………………

 よし、とっておきの鼻の穴を膨らませる技で……

 私が思いきり変な顔をした瞬間、かおりん(仮)は――笑った。

「ぶっ……!」

「はい、勝ちー!」

「ずるい、今のはずるすぎる!」

「ということで、悩みはもう全部聞いた。高校生活、怖くなっても大丈夫。何かあったら、しおりんがまたにらめっこで笑わせてやるよ」

 妹はちょっと涙ぐんだ目で笑った。

「……しおりん、ほんとにお姉ちゃん?」

「しおりんはしおりん。もう、お姉ちゃんなんて呼ばせてあげないもんねー」

「もう、調子乗ってる!」

 二人でソファの上でごろごろと転がりながら、私は思う。

 こうして、私たち姉妹の新しい関係が、少しずつ育っていくんだろう。

 春は、もうすぐそこだ。
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