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第106話 従魔との絆
しおりを挟む「ムツコさん……」
ムツコの悲しげな表情を目にし、なんと声を掛ければよいのか分からずにいた。
そんな俺を察したのか、ムツコは無理に笑って明るく振る舞う。
「へっ、平気です! 今は自由に生きられて幸せです!」
「……」
事情は不明だが、昔は不自由な生活を強いられていたということなのだろう……あまり昔の話は聞かない方が良さそうだ。ならば、何か別の話をしよう……
「……そっ、そう言えば! どうやって呪縛を解呪したんですか!?」
咄嗟に口から出たのは呪縛の咆哮から脱した方法を聞くことであった……が、流石に不自然だったか……?
「あぁ、アレですか! 実はギンの能力なのです! アレはーー」
かなり不自然な流れではあったが、それを感じさせず嬉しそうに語り出すムツコ。
そしてムツコの言う「アレ」と呼ばれるギンの能力とは、従魔契約者のダメージや状態異常を肩代わりする『テイクオーバー』というスキルであった。
更にギンは準神獣なだけあって様々な状態異常に強い耐性を持っており、特に呪いや精神異常に至っては種族特性で無効化してしまうらしい。
つまり、呪縛の咆哮によって呪縛と恐慌状態に陥ったムツコをギンが肩代わりしたうえで無効化していたということだ。
「そ、それは凄いですね……ダメージはともかく、状態異常に関しては怖いものなしだ……」
「はいです! ギンのお陰で毒や麻痺も全然怖くないです! ギン、ありがとです!」
「ウォン!」
ギンの頭を優しく撫でるムツコ。
一時暗い雰囲気になったが、今はそれを感じさせないほど明るい雰囲気で何よりだ。
それにムツコとギンの間には従魔契約以上の絆があることも先程のやり取りで理解できた。互いに信頼し合っているのがよく伝わってくる。
微笑ましくムツコ達を眺めていると、ムツコが俺の方を振り向いて一言。
「そう言えば、キュロス様はモモちゃんさんと従魔契約はしないです?」
「あ……」
言われてみれば俺とモモは従魔契約をしていない……というか、そもそもテイマーですらない俺は従魔契約を行使できるかも不明だ。
従魔契約をしていないと従魔が討伐されてもただの魔物討伐として処理されてしまう。これはかなりマズい話である。
現状モモはシャカとエリザに任せてあるが、万が一モモに何かあっても相手の罪を問えない。悲しいことに俺を疎む輩は大勢いるので、スタンピードという危機的状況であっても何事も起こらないとは言い切れないのだ。
「モモ……うっ、急に不安になってきた……」
「だっ、大丈夫です! 従魔関係の知識がない人では従魔契約をしているかなんて見ただけじゃ分からないです!」
焦りながらもムツコは俺を安心させようとしてくれている。自分から従魔契約の話をしたので罪悪感があるのだろう。寧ろ、気づかせてくれて有難いほどなのだが……
「うぅ~……あっ! 西門が見えてきたです! あと、誰かいるです!」
突然ムツコは指を差しながら声を上げた。確かに西門が見え、誰かがいる。空が夜に向かっているため顔の判別まではできないが。
因みに西門に着いたということは、同時に南門まで残り半分の地点であることを意味する。
「……ふぅ、従魔契約の件はスタンピードを乗り切ってからにしましょう」
「はいです!」
心を落ち着かせ、気持ちを切り替えて西門へと向かう俺達であった……
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