お礼に半分食べてあげる

羽衣野 由布

文字の大きさ
20 / 22

20話

しおりを挟む
 すると、柔らかいものが頬をふわりと撫でた。

 顔を上げると、動揺し心を痛めた瞳が見えた。

 「ごめん…………泣かせるつもりじゃなかったんだ…」

 倉井はハンカチで優しく涙を拭った。

 「斉川さんは何も悪くないよ。嫌なことだってされてない。大丈夫だよ。だから泣かないで」
 「でもっ……でも!…」
 「斉川さんのこと、嫌いになんかなってないよ?…なるわけないよ」
 「…っ……じゃっ、じゃあ……なんで…?」
 「そ、それは……なんていうか、その…………………ぼ、僕じゃ……だめだったんだなって…思って…」
 「…え?」
 「神崎君と付き合うってことは……僕といるの…本当は楽しくなかったんだ、って…。そうしたら、何だか…一緒にいるのが辛くなっちゃって……だから──」
 「ちがうっ!」

 陽乃は顔をくしゃりと歪め、全力で首を振った。
 目からは再び涙が溢れる。

 「…ちがう…っ…違うよ!楽しくないなんて、思ったことないっ!」

 強くまっすぐに倉井を見つめ、想いの全てをぶつける。

「いつもすっごくすっごく楽しくて、次はどこに行こうかって考えるだけで幸せな気持ちになれてっ。でもそれは、倉井くんだったからなの!」
 「え?……」
 「神崎と付き合って分かったの。神崎と一緒にいる時も、『倉井くんだったら分かってくれるのに』『倉井くんだったらこうなのに』って、ずっと倉井くんの事ばっかり考えてた。倉井くんとだったら楽しかったことも、神崎とじゃ全然楽しくなかったの。倉井くんじゃなきゃだめだったの!」
 「っ!」

 その言葉に、倉井は目を見開いた。

 「ごめんなさい…っ。軽い気持ちで、神崎と付き合うなんて馬鹿なことして、辛い思いさせてごめんなさい!許してなんて、言わないからっ……お願い…嫌いにならないで…!」

 とめどなく流れる涙に視界がボヤけ、彼の表情を見ることができない。

 倉井くん…。倉井くんっ。



 「…っく……、ひっく………っ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...