フロイント

ねこうさぎしゃ

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ラングリンド

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 アデライデはフロイントの沈痛を見ると、優美な眉を憐憫に曇らせた。
「少しお座りになりませんか……? お茶を淹れますから──」
 ミロンもフロイントのただならぬ気配に気遣わしい目を当てながら、娘の言葉に頷いた。
「それがいいね。さぁどうぞ、こちらにお掛けください」
 フロイントはミロンに勧められるまま、ぎこちなく体を引きずるようにしてテーブルの前の椅子に腰を下ろした。
 うつむいて座るフロイントの前にミロンが腰を落ち着けるのを見届けると、アデライデは黙りこくるフロイントを気に掛けながらも、再び生まれ育った家でお茶を淹れられるなつかしさを感じ、思わずそっと密やかな息を吐いた。
 手早く湯を沸かし、棚からヒソップの葉を取り出す間にも、体に馴染んだかつての日々が甦る喜びを、父とはもちろん、フロイントとも分かち合いたいと強く思った。
 アデライデはフロイントが罪の意識から解放されることを願わずにはいられなかった。
 準備が整うと、アデライデはフロイントの隣に座ってカップに熱い茶を満たし、そっとフロイントの前に置いた。
「ヒソップのお茶をどうぞ……。きっと気分も落ち着くでしょう」
 微笑むアデライデに促され、フロイントは長年大切に使われてきたらしいことがわかるカップの取っ手に指をかけた。ところどころに残る細かなひび割れを修繕した跡を見て、思わず直してやりたいと思う気持ちが無意識に魔術をかけようという意思を起こさせたが、もう魔術は使えないのだということを思い出し、一瞬後ろめたい気分が湧くのを感じた。
 誰にともなく抱いた恥の感情に、フロイントは皮肉めいた自嘲の気分がカップから立ち昇る湯気と共に周囲に広がる感覚を覚え、やり場のない悲しみに胸が塞がれるのを感じた。
 だがふと鼻先をくすぐった爽やかな香気に一抹の慰めを見出すと、カップに注がれたあたたかい液体を口に含んだ。
 ほんのり感じる苦みとすっきりした味わいは張り詰めていた思いを体の底にたまった息と共に吐き出してくれるようで、心がゆっくりと解れていく心地良さにフロイントは再びカップを傾けた。
 わずかだが緊張の解けてきた様子のフロイントに、アデライデとミロンは控えめな微笑を浮かべると、同じようにカップに口をつけた。
「……わしはなんだかずっと夢の中にいたような気分だよ。アデライデ、できることなら、いったいおまえの身に何が起こったのか、そしてわしがどうしておまえのことを忘れてしまっていたのか、話せることを全部聞かせてはくれないかね?」
 アデライデは傍らのフロイントをそっと仰ぎ見た。フロイントの目顔めがおの頷きを見て取ると、アデライデは父に向き直って静かに口を開いた。


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