フロイント

ねこうさぎしゃ

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ラングリンド

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 ミロンはまじまじと娘を見た。愛おしいその顔や仕草の中に、以前には見られなかった年頃の娘らしいはにかみと、今まさに咲く時期を迎えた花のような得も言われぬ美しい幸福が匂っているのに気がつくと、思わず感慨深い喜びのため息を吐いた。
 アデライデは乾ききらない涙のきらめく瞳でフロイントを見上げた。
「フロイント、改めて紹介させてください、わたしの父を──」
 フロイントは幸福の花束を抱いたような笑みを浮かべるアデライデから、再びゆっくりとミロンに赤い目を向けた。ミロンは夜空に何か特別な印を持つ星を見つけたときのように瞳を輝かせ、フロイントを見つめていた。フロイントは咄嗟に目を伏せて頭を下げたが、それは初めて面と向かったアデライデの父に挨拶をしたというよりは、希望に満ちた目を向けるミロンのその視線から身を隠すためとも言えた。
「──そしてお父さん、こちらがフロイントよ。わたしを命を懸けて守り、愛してくださった、この世界にたった一人の大切な方……」
 フロイントは思わずアデライデを見た。アデライデの美しく澄んだ瞳が、この世のありとあらゆるやさしさを湛えてフロイントを見つめていた。その目のあまりの美しさに、フロイントの胸は喜びよりも寧ろ激しい痛みを感じ、押し黙ったまま視線を床に落とした。
 ミロンはアデライデが愛と信頼に満ちた眼差しでフロイントを見上げる姿を見ると、嬉しさのあふれるままに破顔した。
「……おぉ、そうなのかアデライデ、この方が……。そうか、そうなのか……あぁ、よかった……ほんとうによかった……。今日はなんという素晴らしい日なのだろうか……」
 ミロンは目に涙を浮かべ、フロイントに歩み寄った。
 しかしフロイントは先ほどから苦しい思いに沈黙し、差し出されたミロンの手を取ることもできずに立ち尽くしたままでいた。何も知らずに純粋な感謝だけを顕した眼差しで自分の手を取ろうとするミロンへの後ろめたさが心に重くのしかかり、息苦しさがフロイントからあらゆる言葉を奪うようだった。
「フロイント……?」
 気遣わしい声で名を呼ぶアデライデにフロイントは返事もできずに目を向けた。
 フロイントの罪の意識の色濃くにじんだ瞳を目の当たりにしたアデライデは、鋭いナイフが胸に刺さる痛みに思わず息を詰まらせた。深い罪悪感に苛まれて立ち尽くしているフロイントの腕にそっと手を置いて、アデライデは慰めるとも諭すとも取れる包み込むような声で静かに言った。
「フロイント……もういいのです。ご覧になったでしょう、この奇跡を──。わたし達は確かに祝福されているのです。だからどうか、もうそんなに苦しまないで……」
「……」
 アデライデのやさしい声が涙のたまった胸の底に落ちて緩やかな波を立てたが、そのさざ波はかえってフロイントを罪の鎖で繋ぎとめるようだった。
 ミロンは美しいおもてに苦悩の色を濃く浮かべ体を固く強張らせて立ち尽くすフロイントと、そのフロイントに寄り添って胸を痛めている様子のアデライデとを見ると、静かな声でフロイントに声を掛けた。
「……何か事情がおありですか……?」
 控えめだが思いやるようなミロンの声の響きに、フロイントはミロンの顔を見た。その青灰色の瞳はアデライデの父のそれにふさわしく、憐れみ深いやさしさに満ちていた。
 その瞳に触れた途端、フロイントの胸には唐突に、悲しみとも苦しみともつかない激しい感情があふれ出し、思わず目を閉じて嗚咽の漏れそうになる口元を覆った。


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