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第三話 断罪
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ユアンが羽ばたき、王太子達の頭上へ至る。
ミリエルを抱き上げたまま、威圧的に王太子達を見下ろすユアンに、王太子達は顔を真っ青にしてうろたえるばかりだ。
「神竜様、どうか、どうかこの国に罰は……」
「別に害する気はない。勝手にすればいい。だが、この国にもう聖女は生まれない。したがって守護する気もない」
害する気はない、と言って一瞬顔に喜色を浮かべた王太子ルキウスだったが、次に続いた言葉に目を丸くした。
宰相が「どういう、ことですか」と震える声を出す。
その言葉に、ユアンが悠然と笑みを浮かべて、そしてなぜか、ミリエルの頬にほおずりをして口を開いた。
「聖女は……聖女の生まれ変わりは僕が攫っていくから」
その言葉に、その場の視線がミリエルに集中する。
その意味がわからないほど、ミリエルは鈍感ではない。
「行こう、ミリー。僕の、最愛の聖女」
「わたし、なの、ユアン」
愛している、と言われた。その愛を疑わなかった。けれど、ミリエルが聖女の生まれ変わり、だなんて知らなかった。でも、それなら、ユアンがミリエルを愛してくれたのは、ミリエルが聖女の生まれ変わりだから、だというのだろうか。
狼狽するミリエルに気付いたのだろう。ユアンは「ごめん、誤解させたね」と眉を下げた。
「僕がミリーを愛しているのは、ミリーだからだ。君が聖女の生まれ変わりでなくたって、ミリー、君に恋をしたよ」
ユアンがちゅ、と泣きそうな目元に口づける。くすぐったい。
ミリエルは震える声で返した。
「わたし、でいいの」
「君じゃないとだめだ」
その、まっすぐなまなざしが、どうしようもなく嬉しい。胸がとくん、と高鳴る。
一瞬、残していくものが頭を過る。
セレナ、両親、国の人々……。
……過って、目を伏せた。
そこに、ミリエルのことを愛した者はいなかった。魅了されていたのだとしても、その行為は同じだ。
ユアンへ向けるものほどやさしい感情を抱けるものはいない。
きっと、本当に聖人なら、残りたいと思うのだろう。憐れむのだろう。けれど、ミリエルはどこまで行ってもユアンの恋人でいたかったから、そうしたくないと思った。
セレナが聖女ではなかったように、ミリエルも、生まれ変わりというだけで、きっと本当に聖女にはなりえない。
「攫っていい? ミリー。君がついてきてくれないと、僕はこの国を滅ぼすかも」
その想いの深さも苛烈さも、もう愛しいとしか思えない。ミリエルの選択肢を潰してくれる優しさが、やわらかくミリエルの胸を突く。だから、ミリエルは想いを込めてユアンの胸に抱き着いた。
「攫って──ユアン」
──私の、大好きなひと。
「ああ……」
ユアンが、胸の内の空気をすべて吐き出すように、深い息を吐きだした。
安心したように、ミリエルが応えたことが嬉しい、というように。
「ありがとう……、ミリー」
ユアンが竜に姿を変え、空高く舞い上がる。ミリエルをあたたかな胸に抱きしめたまま。
ぐんぐん小さくなるアトルリエ聖竜国の人々、王太子たちが、絶望的な顔をしている。
けれど、それにもう何も思うことはなかった。赤子のように、不思議そうな顔でミリエルを見上げる、セレナにも。
さよなら、わたしの生まれた場所。
……さよなら、ここにいた、悲しかったわたし。
突き抜けるような青空が広がっている。ユアンと一緒に飛ぶ空は、どこまでも、どこまでも美しかった。
ミリエルを抱き上げたまま、威圧的に王太子達を見下ろすユアンに、王太子達は顔を真っ青にしてうろたえるばかりだ。
「神竜様、どうか、どうかこの国に罰は……」
「別に害する気はない。勝手にすればいい。だが、この国にもう聖女は生まれない。したがって守護する気もない」
害する気はない、と言って一瞬顔に喜色を浮かべた王太子ルキウスだったが、次に続いた言葉に目を丸くした。
宰相が「どういう、ことですか」と震える声を出す。
その言葉に、ユアンが悠然と笑みを浮かべて、そしてなぜか、ミリエルの頬にほおずりをして口を開いた。
「聖女は……聖女の生まれ変わりは僕が攫っていくから」
その言葉に、その場の視線がミリエルに集中する。
その意味がわからないほど、ミリエルは鈍感ではない。
「行こう、ミリー。僕の、最愛の聖女」
「わたし、なの、ユアン」
愛している、と言われた。その愛を疑わなかった。けれど、ミリエルが聖女の生まれ変わり、だなんて知らなかった。でも、それなら、ユアンがミリエルを愛してくれたのは、ミリエルが聖女の生まれ変わりだから、だというのだろうか。
狼狽するミリエルに気付いたのだろう。ユアンは「ごめん、誤解させたね」と眉を下げた。
「僕がミリーを愛しているのは、ミリーだからだ。君が聖女の生まれ変わりでなくたって、ミリー、君に恋をしたよ」
ユアンがちゅ、と泣きそうな目元に口づける。くすぐったい。
ミリエルは震える声で返した。
「わたし、でいいの」
「君じゃないとだめだ」
その、まっすぐなまなざしが、どうしようもなく嬉しい。胸がとくん、と高鳴る。
一瞬、残していくものが頭を過る。
セレナ、両親、国の人々……。
……過って、目を伏せた。
そこに、ミリエルのことを愛した者はいなかった。魅了されていたのだとしても、その行為は同じだ。
ユアンへ向けるものほどやさしい感情を抱けるものはいない。
きっと、本当に聖人なら、残りたいと思うのだろう。憐れむのだろう。けれど、ミリエルはどこまで行ってもユアンの恋人でいたかったから、そうしたくないと思った。
セレナが聖女ではなかったように、ミリエルも、生まれ変わりというだけで、きっと本当に聖女にはなりえない。
「攫っていい? ミリー。君がついてきてくれないと、僕はこの国を滅ぼすかも」
その想いの深さも苛烈さも、もう愛しいとしか思えない。ミリエルの選択肢を潰してくれる優しさが、やわらかくミリエルの胸を突く。だから、ミリエルは想いを込めてユアンの胸に抱き着いた。
「攫って──ユアン」
──私の、大好きなひと。
「ああ……」
ユアンが、胸の内の空気をすべて吐き出すように、深い息を吐きだした。
安心したように、ミリエルが応えたことが嬉しい、というように。
「ありがとう……、ミリー」
ユアンが竜に姿を変え、空高く舞い上がる。ミリエルをあたたかな胸に抱きしめたまま。
ぐんぐん小さくなるアトルリエ聖竜国の人々、王太子たちが、絶望的な顔をしている。
けれど、それにもう何も思うことはなかった。赤子のように、不思議そうな顔でミリエルを見上げる、セレナにも。
さよなら、わたしの生まれた場所。
……さよなら、ここにいた、悲しかったわたし。
突き抜けるような青空が広がっている。ユアンと一緒に飛ぶ空は、どこまでも、どこまでも美しかった。
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