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第四話 邪竜の記憶と愛しい想い①
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元々、過去の聖女に抱いていた気持ちは憐憫と感謝、そして少しの友情だった。
命と引き換えに邪竜へと堕ちた自分を浄化するために遣わされた、身寄りのない、憐れな少女。
生きている彼女と話した時間はそう多くはなかったけれど、ともに火山の溶岩の中で眠りについたことで、自分は聖女と運命共同体なのだという意識が芽生えていた。
ずっと聖女とともにいられるなら、このまま眠っていてもいいかと思い始めていた。当の聖女がどう思っていたのかはわからないけれど。
……いいや、生まれ変わりたかったのだろう。聖女は次の生へと歩を進めようとしていたから。
人間は生まれ変わるものだ。この世界にも、それこそ異世界にでも転生しようとする。
死んだ魂のまま漂っていようという人間はいない。
自分は聖女といたくて、彼女を必死に引き留めた。
だが、彼女の魂は次の生を願った。
さんざん悩んだ後、自分は折れて、それを許した。
自分のために命をなげうった聖女の、唯一の願いを叶えてやりたかったからだ。
「しかたないなあ」
彼女の魂はそう笑っている気がした。
だから、代わりに約束をした。言い出したのがどちらだったのかは忘れた。
覚えているのは、聖女の魂はそれを了承した、ということだ。
「わたしは、この世界でだけに生まれ変われるように、そういう輪廻の輪に入るよ」
そう言って、聖女の魂はまた笑った。
けれど、それは聖女とはいえ難しいことだったのだろう。
元々あった運命を捻じ曲げて、長い時間をかけて、ようやっと元と同じ国に生まれ落ちた聖女は、異世界からやって来た高慢な魂のせいで苦しめられていた。
自分が、聖女が生まれるために国に与えた加護すら利用して、聖女の生まれ変わりは虐げられていた。
──かわいそうに。
それが、その光景を見て、自分の抱いた感情だった。
人間の姿をとって彼女のもとに降り立ったのは、彼女がもうこれ以上今世で苦しむことがないよう、再び輪廻の輪に戻してやろうという憐みのためだった。
教会の隅、粗末な花壇のそばは、虐げられていた少女が愛する場所だ。
今世では花が好きなのか、そこまで考えて、自分は「聖女」がかつて何を好んでいたか知らなかったことに気付いた。あんなにずっと一緒にいたのに。
それを考えると、喉元に何かがつかえているような気がした。
そんな時、当代の聖女という名ばかりの称号を持つ娘に突き飛ばされ、自分は雨上がりの濡れた泥の中に転び落ちた。
ぬかるんでどろどろになった地面で汚らしくなった自分を見て、当代の聖女「セレナ」は意地の悪い顔で笑っていた。
お前のようなものが聖女を名乗るな。そう言ってやろうとしたが、それを止めたのはこの娘に虐げられているはずの聖女の生まれ変わりの少女だった。
「あなた、大丈夫? セレナ、謝りなさい!」
「あら、お姉様。あたしの歩く道をふさいでいたんだもの。突き飛ばされても文句は言えないわ」
「この人はただ立っていただけよ。わざわざ近寄って突飛ばしたのはあなたじゃない」
きっ、と強いまなざしを向けた少女に、名ばかりの聖女もどきはあざけるように笑って見せた。
「そうだとしても──『はきだめ』の話なんか、誰も信じないわよ。それとも、ここで大声を出されたい? そいつを暴漢として突き出しましょうか」
「……」
お姉様、と呼ばれていたからには、彼女は「聖女もどき」の姉なのだろう。
たしかに、銀の髪と青い目という色彩は、姉妹らしくよく似ていた。
……もっとも、表情に滲み出る性格は、まったく違うようだが。
口ごもった聖女の生まれ変わりを尻目に、高笑いしながら去って行く「聖女もどき」はとても聖女の器ではない。
聖女というのが役職名であり、称号でしかない、とはいえ、よくもここまで汚されたものだと思った。
命と引き換えに邪竜へと堕ちた自分を浄化するために遣わされた、身寄りのない、憐れな少女。
生きている彼女と話した時間はそう多くはなかったけれど、ともに火山の溶岩の中で眠りについたことで、自分は聖女と運命共同体なのだという意識が芽生えていた。
ずっと聖女とともにいられるなら、このまま眠っていてもいいかと思い始めていた。当の聖女がどう思っていたのかはわからないけれど。
……いいや、生まれ変わりたかったのだろう。聖女は次の生へと歩を進めようとしていたから。
人間は生まれ変わるものだ。この世界にも、それこそ異世界にでも転生しようとする。
死んだ魂のまま漂っていようという人間はいない。
自分は聖女といたくて、彼女を必死に引き留めた。
だが、彼女の魂は次の生を願った。
さんざん悩んだ後、自分は折れて、それを許した。
自分のために命をなげうった聖女の、唯一の願いを叶えてやりたかったからだ。
「しかたないなあ」
彼女の魂はそう笑っている気がした。
だから、代わりに約束をした。言い出したのがどちらだったのかは忘れた。
覚えているのは、聖女の魂はそれを了承した、ということだ。
「わたしは、この世界でだけに生まれ変われるように、そういう輪廻の輪に入るよ」
そう言って、聖女の魂はまた笑った。
けれど、それは聖女とはいえ難しいことだったのだろう。
元々あった運命を捻じ曲げて、長い時間をかけて、ようやっと元と同じ国に生まれ落ちた聖女は、異世界からやって来た高慢な魂のせいで苦しめられていた。
自分が、聖女が生まれるために国に与えた加護すら利用して、聖女の生まれ変わりは虐げられていた。
──かわいそうに。
それが、その光景を見て、自分の抱いた感情だった。
人間の姿をとって彼女のもとに降り立ったのは、彼女がもうこれ以上今世で苦しむことがないよう、再び輪廻の輪に戻してやろうという憐みのためだった。
教会の隅、粗末な花壇のそばは、虐げられていた少女が愛する場所だ。
今世では花が好きなのか、そこまで考えて、自分は「聖女」がかつて何を好んでいたか知らなかったことに気付いた。あんなにずっと一緒にいたのに。
それを考えると、喉元に何かがつかえているような気がした。
そんな時、当代の聖女という名ばかりの称号を持つ娘に突き飛ばされ、自分は雨上がりの濡れた泥の中に転び落ちた。
ぬかるんでどろどろになった地面で汚らしくなった自分を見て、当代の聖女「セレナ」は意地の悪い顔で笑っていた。
お前のようなものが聖女を名乗るな。そう言ってやろうとしたが、それを止めたのはこの娘に虐げられているはずの聖女の生まれ変わりの少女だった。
「あなた、大丈夫? セレナ、謝りなさい!」
「あら、お姉様。あたしの歩く道をふさいでいたんだもの。突き飛ばされても文句は言えないわ」
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お姉様、と呼ばれていたからには、彼女は「聖女もどき」の姉なのだろう。
たしかに、銀の髪と青い目という色彩は、姉妹らしくよく似ていた。
……もっとも、表情に滲み出る性格は、まったく違うようだが。
口ごもった聖女の生まれ変わりを尻目に、高笑いしながら去って行く「聖女もどき」はとても聖女の器ではない。
聖女というのが役職名であり、称号でしかない、とはいえ、よくもここまで汚されたものだと思った。
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