バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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 それからはすごく大変だった。
 簡単に合作とは言うけど、ちぐはぐな絵を描くわけにはいかない。
 二人で一緒に美術部に入部しなおすと、これでもかってぐらいラフスケッチを描きあった。

「この間ケンカしてたみたいだけど、仲直りしたんだ?」

 自分の絵を描き終わった辻先輩が近づいてきて、興味しんしんって感じで訊いてくる。

「そのことはもういいんです」
「先輩もあんまり油断してると、あたしたちが賞を取っちゃいますよ」
「まさか、今からコンクールの絵を描き直すつもりか? さすがにそれは……」

 私たちは、同時に辻先輩を振り返る。

「「先輩、絵のジャマです」」 
「はい……」

 あと十日でコンクールの絵を仕上げるなんて、無謀なのはわかってる。
 美術部のみんなも、絶対ムリって言いたげだ。

 でも、あきらめたくない。何がなんでも、出品させてもらうんだ!

 私たちは、しぶる日向先生へたくさんラフを描いて提出した。
 締め切りまであと七日ってところで、ようやくOKをもらうことができた。
 キャンバスに向かう私と凛ちゃんの手首は、シップだらけ。
 消しゴムで下描きを消すのさえ、ズキズキ痛む。お母さんにも心配されちゃった。
 でも、日向先生に交渉して、朝早くから美術室の鍵を開けてもらうことができた。
 おかげで、私はバスの時間を三本も早めて学校に登校することになったけど。
 せっかく学校に通い出した神山くんとは、あの朝以来、顔を合わせていない。
 でも、今はコンクールの締め切りに間に合わせる。それだけしか考えられないんだ。

 × × ×

 しーんと静まりかえる早朝の美術室で、私と凛ちゃんは夢中で絵筆を動かす。
 締め切りまで、あと四日。
 ぴったりと椅子をくっつけあって、二人で同じキャンバスに色をぬる。

「痛っ!」

 となりで凛ちゃんが手首をおさえながら、パレットを落としてしまった。

「わ、大丈夫? 休憩する?」
「これくらい平気。菜月さんには負けられないし」

 不敵に笑う凛ちゃんに、私もふつふつとライバル心が芽生えていく。

「私だって、負けないから」

 合作のはずなのに、どっちが上手に描けるか。
 いつの間にか、そんな勝負になっていた。

 × × ×

 締め切りまで、あと二日。

「菜月さん、その制服の色は奇抜すぎるわ。合作だから、統一性がないのも困るんだけど」

 凛ちゃんが、キャンバスをとんとんと指で叩く。

「凛ちゃんも塗りが雑すぎるよ。ここ、絵の具の色が混ざっちゃってる」
「うっ。これはあたしの個性なのよ」
「そう言って、直すのが面倒くさいだけでしょ」
「……言うようになったわね、菜月さん」
「思ったことは、ちゃんと言うって決めたから」

 ふふっと、二人で笑い合う。
 絵を完成させたいけど――ずっとこのまま描いていたい。
 絶対に負けたくないものに全力を出すって、こんなに楽しいことだったんだ!
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