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11章

622.噂のあの子

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「アルフノーヴァ様よりも魔力が上?」

ユリウスが信じられずに聞き返すと

「はい」

アルフノーヴァが頷く。

「師匠よりも魔力が上の者など見た事ないが?」

レオンハルトが唖然としていると

「俺は一人知ってる…」

シリウスが呟くと

「なに!一体誰だ!」

レオンハルトがシリウスに詰め寄ると

「あっ…いや…」

シリウスがしまったと言い淀む。

「レオンハルト様駄目ですよ。魔力が高い方ほどそういう情報が漏れることを嫌います。無理に詮索するのはよくありません」

「師匠は知っているのかそいつの事を!」

「ええ…知り合いですので…ですがその方がかけたのでは無いことだけはわかります」

「そうですね」

シリウスとユリウスも頷くと

「なんだ…俺以外みんな知ってる奴なのか…」

レオンハルトは一人除け者にされてムッとして腕を組むと椅子に座り込む。

「ならそいつに頼んでバイオレッドの洗脳を解いて貰うことは出来ないのか?」

ちょっとやけ気味に聞いてきた。

「それは…」

アルフノーヴァの顔が曇った。

「すぐに呼べる相手でもありませんし…とりあえずこの魔法に手を少し加えてみましょう…」

アルフノーヴァはそのままバイオレッドの頭に手を置いた…しばらくの間待っていると…

「うっ…」

待ちくたびれ、椅子に座っていたらバイオレッドから声がした!

レオンハルト達はアルフノーヴァのそばにいくと

「どうだ?出来たのか」

「ふぅ…完全に書き換えるのは無理でした…しかし本人の抗う力が凄いのでこのままやればどうにか…」

トントン!

するとバイオレッドを迎えにメイドが来てしまった。

「くっそ…続きはまた明日か…」

「いえ…もしかしたらまたかけ直されるかも知れません…」

「なら今この部屋から出るのは得策ではありませんね」

ユリウスがどうしようかと考えると

「俺がどうにかしよう」

レオンハルトが立ち上がると扉に向かった。

ユリウスが扉を開くとメイドが頭を下げて入ってきた。

「バイオレッド様をお迎えにあがりました…」

そう言ってバイオレッドが来るのを待っていると…

「それなんだが…彼女眠ってしまって、疲れているのかな、あまりに気持ち良さそうだから起こすのが忍びなくてね…」

レオンハルトはさわやかに笑ってメイドに近づくとそっと屈んでメイドの顔を覗き見る。

「どうかな?今夜はここで休ませてあげては…もちろん手を出すような卑劣な真似はしないと誓うよ…君の為にも」

そう言ってメイドさんの手を掴むとそっと誓うように手の甲に触れる。

「あ、は、はい!わかりました!」

「君の仕事が少しでも楽になるといいな…だからこの事は二人の秘密にしておこうか?」

レオンハルトがメイドに笑いかけると

「はい…そうですね…」

メイドはポーっとしながら頬を染めて頷いた。

レオンハルトはフラフラとするとメイドをそっと部屋の外に出すと

「どうだ!?」

扉が閉まると同時にドヤ顔をする!

「あまり感心はしませんが彼女を引き止められたので良しとしましょう」

「レオンハルト様の魅了にかかっていましたね」

「レオンハルト様…ああいうのはミヅキは嫌いだと思いますよ」

三人が真顔で答える。

「なんだよ!まともに褒められないのか!」

「いえ、相変わらずレオンハルト様はおモテになりますね」

ユリウスが笑顔で手を叩いている。

「俺って……モテるよな?」

レオンハルトが自信なさげに聞くと

「ええ、そう思います。城のパーティーなどいつも女の子達に囲まれていますからね」

「だよな…ならなんでミヅキは駄目なんだ…」

レオンハルトがため息をつく。

そういう所だろうな…

ユリウスとシリウスが苦笑する。

「あの子は変わっているからね、普通の女の子の枠にはめない方がいいよ」

アルフノーヴァがバイオレッドに魔法をかけながら話に入ってきた。

「ならどうすればいいんだ!」

レオンハルトがアルフノーヴァに詰め寄ると

「そうですね…シリウスとユリウスの真似でもしてみればいいのでは?」

「二人の?どういう事だ、この二人のようにでかくなれって言うならあと少しだと思う」

「身長ではなくて内面と外見ですよ」

アルフノーヴァが苦笑すると

「内面…そんなに変わらんと思うが…」

アルフノーヴァが二人を見ると

「「えっ!!」」

レオンハルトの言葉に二人が驚く。

「優しいくて気が利いて強くて頭がいい…同じだろ?」

「レオンハルト様…」

ユリウスは褒められ嬉しくなりながらも…それを自分も同じだと断言するレオンハルトになんと声をかけてやればよいのかわからなかった…

「後は謙虚って言葉を覚えなさい」

アルフノーヴァが苦笑する。

「謙虚…ってなんだ?習ったか?」

レオンハルトはユリウスを見つめた。

「うっ…うう…お、とうさま…」

魔法を解除されていたバイオレッドの意識がうっすらと戻って来た。

みんなはベッドに集まり囲むと

「どうだ!?洗脳は解けたのか!」

「いえ…やはり完全に解除は難しいそうです。少し弱める事は出来ましたが…」

アルフノーヴァが額にうっすらと汗を流してバイオレッドから手を離した。

「おい、大丈夫か?」

レオンハルトはバイオレッドに話しかけると

「ここ…どこ…あれ…お父様?お母様…」

バイオレッドは目をキョロキョロと動かしていると

「大丈夫ですか?自分が誰か分かりますか?」

「あなた達…誰?」

バイオレッドはポーっとしながらレオンハルト達を見つめる。

「あっ…レオンハルト様…どうぞよろしくお願いします」

そう言ってモゾモゾと動き出すと

「しっかりしろ!君は王族の娘だろ!」

レオンハルトが肩を揺らす!

「王族…そうだ…私…グッ!」

バイオレッドはぐっと歯を食いしばると…口から血が流れる…

「大変だ!」

ユリウスが慌てて布を当てようとすると

「大丈夫だ!それよりも聞いてくれ、私の正気がいつまで持つか分からない。お父様が!お母様が!弟が大変なんだ!」

バイオレッドがレオンハルトを見つめる。

「話せ!」

「ありがとう…お父様はあなたが来るのを心待ちにしていた、やっと人と獣人が歩み寄れると、だがそれを快く思っていなかった大臣達が一度みんなで話し合うと…お父様もみんなの意見を聞きたいと了承して話し合いをしていたら大臣が連れてきた子供が…グッ…」

バイオレッドが辛そうな顔をする。

「大丈夫か!」

「大丈夫…その子供は黒い魔石を取り出して大臣に渡した…するとあの男…今までまともに魔法も使えなかったのに…急に高度な魔法を使いだして…私はすぐにその子供が怪しいと飛び出したが…頭を掴まれてから記憶が…」

一気に話してはぁはぁと荒く息をすると

「お父様は?みんなは無事か?」

バイオレッドが心配そうに聞くと

「無事…とは言えないが何とかしよう。このままにしておけない!じゃないとお前と俺は結婚させられるしな…」

レオンハルトがバイオレッドを見ると

「けっ、結婚…」

バイオレッドは驚くと…そのまま意識を失ってしまった。

「お、おい!」

レオンハルトが慌てるが

「洗脳に抗っていたのが今の言葉で気が緩んでしまったのでしょう。何度も魔法をかけるのは危険です。彼女の体力も持たないし…しばらく眠って貰いましょう」

アルフノーヴァはそっとバイオレッドの瞼の上に優しく手を置くと苦しそうだった顔がスっと穏やかになる。

バイオレッドに布団をかけてやり寝かせてやると…

「それにしても…またあの子供ですか…」

アルフノーヴァが顔を顰めた。

「誰だ?そいつも知っているやつなのか!」

「前にプルシアさんがウエスト国を襲いましたよね…あの時にプルシアさんを操っていた者と同一人物だと思われます」

「何者なんだ」

「私もまだ直接お会いしたことはありません…」

アルフノーヴァが言葉を止めると…

しかもまた黒い魔石…あれを浄化できるのはミヅキさんだけ…やはり呼ぶべきか…

アルフノーヴァが葛藤するかのように何か考えていると

ユリウスとシリウスがビクッと何かに反応した。

「どうしました?」

二人はむず痒そうに耳と尻尾が微かに動いている。

「なんだ?なんか嬉しそうだな…」

レオンハルトが怪しむように二人を睨むと

「い、いえ…今…ミヅキの匂いを感じて…」

シリウスが答えると

「やはりお前もか」

ユリウスが頷く。

「えっ…ミヅキここに来てるのか?」

レオンハルトが聞くと

「あー…」

アルフノーヴァがプルシア達が飛び立った方向を思い出す…

確か…町に戻るより少し方向が違ったか…すると迂回して…もしやあの途中の魔物の逃げるような群れ…

心当たりに苦笑する…

「その可能性ありそうですね」

「しかしほんの一瞬だった…勘違いかもしれない…ミヅキの話ばかりしていたから」

シリウスが自信なさげに言うと

「いえ…黒い魔石があってトラブル…きっと彼女はここに来ています」

アルフノーヴァが自信満々に頷いた。
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