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1巻

1-2

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 背中をゴワゴワでながら凄い凄いとめると、シルバは嬉しそうに尻尾を振る。

【他の魔法も使えるぞ……見るか?】
【見たい! 見たい!】

 嬉しそうに照れながら聞いてくるシルバに、私は声を弾ませて答える。しばらくして、シルバは小高いがけの上で止まった。

【じゃ、行くぞ! 風牙斬ふうがざん

 シルバが前脚を振り下ろしながら叫ぶと、突風が鎌鼬かまいたちのように前にそびえていた森をえぐった。

【えっ……え……ええええええええー! なにあれ! 大分先まで森がえぐられてるよ! シルバ、なにしたの!】
【なにってミヅキが見たがった魔法だぞ。今のは風魔法の風牙斬ふうがざんだ。そんなに強くやったつもりはなかったが、ミヅキに見せるのに少し張り切ってしまったな! それとも、もっと派手なほうがよかったか?】

 私はぶんぶんと首を振る。もっと凄い魔法もあるんだ……ちょっと怖いな。
 とりあえず見せてもらったし、シルバがめて欲しそうな顔を向けているので思いっきりで回す。次はもっと抑えてやってねと忘れずに言っておいた。
 少し移動して開けた場所で下ろされる。
 少しここで待っていろと言われたので、そこら辺の石に腰掛け待っていると、シルバが果物をくわえて戻ってきた。

【ミヅキ、この実は美味うまいぞ。食べてみろ】

 シルバが持ってきた果実は、見た目が桃みたいだった。

【桃だぁ~】

 私は喜んで受け取り、その匂いをぐ。するとフワッと桃のいい香りがした。
 小さい手で皮をきカブっと頬張った瞬間、ジュワッと桃の果汁が溢れた。
 あまりの美味おいしさに夢中になり、口いっぱいに桃を頬張ってしまう。小さい口の周りは果汁でびちゃびちゃだ。
 そんな私を見て、シルバがペロペロとめて拭き取ってくれた。

【ありがとう! シルバも一緒に食べよ】

 残りの桃を差し出したが、全部食べろと言われる。しかし、小さい体では一つだけでお腹がいっぱいなのだ。

【お腹いっぱいだからシルバが食べて】

 ニコッと笑って、もう一度桃を差し出す。シルバは【そうか?】と言って、尻尾をパタパタさせながら、一口で食べてしまった。腹も膨れたので、今後のことを考える。

【ふー、お腹いっぱい。さてこれからどうすればいいかな? どっか市とか町とかあるのかな?】
【し……はよく分からんが町や村、都もあるぞ。俺はあまり近づかんが……】
【そっか……都とかは面倒そうだから町とか小さいところがいいかな? ギルドみたいなのもあるのかな? 従魔がいるなら冒険者や勇者もいそうだけど……そうすれば私と契約してるし、シルバも一緒に行けるよね?】
【ミヅキは本当に大人なのだな……ギルドは確かにある。人族のことはあまり詳しくないが、俺は討伐対象になったから間違いないな】
【討伐! なんで⁉】

 こんなに優しくてふわふわで可愛いイケメンフェンリルを討伐なんて許せん! プンプンッと怒っていると、シルバが気まずげに顔を逸らした。
 なんか銀が悪いことをした時に誤魔化ごまか仕草しぐさに似てる。
 じっとシルバの顔を見ていると、ペロペロと顔をめてきて誤魔化ごまかしだした。
 またいつかきっちり聞いてみるか……
 可愛い仕草しぐさに問い詰めるのを諦める。それから、ここに居てもらちが明かないので、とりあえず安全そうな町を目指すことにした。
 シルバには軽く前世について話してみたが、あまり気にしていなそうだ。ただそれを他の人に話すのはやめておけと言われたので、二人だけの秘密にすることになった。
 シルバの案内でよさそうな町を見つけたが、問題はどうやって町に入るかだ。
 町には門番が立っていて身元を確認されるらしい……見た目は子供、頭脳は大人? 身分証なし! フェンリル連れ! 怪しさ満点!
 ……絶対入れる気がしない。
 シルバはそのまま行けばいいと言うが絶対めるよー。フラグ立ちまくりだよ!
 めたらどうにかするとか言うけど、絶対力技だよね?
 さっき見せてもらった魔法を使ったら、町がなくなっちゃいそうだよ……
 ふーと思わずため息が出る。町から少し離れた場所で作戦会議を開くが、いい案は一向に出ない。今日はとりあえず野宿かなぁ、なんて考えていると、シルバがすっくと立ち上がり私を隠すように前足の間に挟んだ。
 次の瞬間ガサッと音がして、武装した人達が数人、私達の周りを取り囲んだ。

「おい! そこの子、無事か?」

 武装したうちの一人が、こちらに向かって叫ぶ。
 ……私のことだよね?
 キョロキョロ周りを見るが、皆の視線が私に集中している。これはなんか勘違いされているような気が……。シルバはシルバで威嚇いかくするようなうなり声をあげる。

【シルバ、大丈夫だからうなるのやめて】

 とりあえず落ち着かせようと思い、立ち上がってシルバの隣に立つ。

「だいじょうぶです。このこはわたしのじゅうまです」

 一人前に出ている大きいお兄さんに向かって、警戒されないようににっこりと営業スマイルで笑って見せた。



   三 幼子おさなご


 私がシルバに手をかけながら話している様子を見て、お兄さんは手をすっと上げ合図をする。それに合わせて、周りの人達が武器を下ろした。
 まだ警戒気味だが、皆お兄さんの後ろに集まり、じっとこちらをうかがっている。

「そちらに少し近づいてもいいか?」

 お兄さんが聞いてくるので、私はシルバに大人しくおすわりをさせる。
 途端に「おおっ!」と、武装した人達がどよめいた。

【ミヅキに危険があれば構わずるぞ】

 シルバがサラッと怖いことを言う。

「わたしにきがいをくわえなければ、だいじょうぶでしゅっ」
【あ、噛んだ……】

 すると、先程より皆のヒソヒソ声が大きくなった。数人はプルプル震えている。
 恥ずかしい。そんなに笑わなくてもいいのに……
 恥ずかしさのあまりちょっと目がうるうるしてしまう。
 シルバが小さくうなるとピタッとざわめきが止まった。
 お礼の気持ちを込めてでながら笑いかけると、またざわつきだすが、シルバがキッと睨みをきかせる。

「うおっほん。じゃ少し話を聞かせて欲しいが大丈夫かな?」

 前にいたお兄さんが少し近づき話しかけてきた。よく見るとすっごくいい体格で、まあまあイケメン。三十前位かな、と失礼ながらじっくり観察させてもらう。
 じっとお兄さんのことを見つめていると、切れ長の目元が緩み、へらっと相好そうごうが崩れた。
 あれ? なんかちょっと残念な見た目になっちゃった。
 まぁとりあえず話をして町に入りたい。
 こくんと頷くとお兄さんはなぜか頬を染めて、口元を押さえている。後ろでは機嫌が悪くなったのか、シルバがまた小さくグルッと鳴いていた。

「おにいしゃん、おはなしだいじょうぶですよ」
「あぁ、すまなかった。そちらの獣はお前と契約している従魔で間違いないか?」

 構わずこちらから話しかけると、彼はチラッと後ろのシルバを見遣る。

「こちらの言ってることを理解できてるようだが……お前、年はいくつだ?」

 私は答えに困って、シルバに【助けて~】と視線を送った。

【シルバどうしよう。何才って言えばいいかな?】
【本当の年齢は分からないんだ、素直に分からないと言っておけ。相手に都合よく解釈してもらおう】
「わかりゃない……」

 だましてることが申し訳なく、うつむき気味に答える。
 すると、お兄さんは慌てた様子で返事をした。

「い、いや別に責めているわけではない。受け答えもできるし四、五才くらいだろうが……実は俺達はフェンリルの目撃情報を受けて、ここを調査しに来たんだ。おまえがフェンリルに捕らえられているのかと思い、救出しようとしたんだが……」
「だいじょぶです。シルバなかよし! わたしをまもってくれる!」

 やっぱり勘違いして私を助けてくれようとしてたんだ。危険はないよって気持ちを込めて、警戒させないように笑ってみせる。

「お、おお、そうか。それで親はどこにいる?」

 親? あぁ、幼子おさなごだから親といると思ったのか……
 とりあえず分からないとプルプルと横に首を振る。

「きがついたらもりにいたの。シルバがたすけてくれて、ここまでつれてきてくれたの」
「そうか……こんな可愛い幼子おさなごを捨てたのか……」

 お兄さんがなにか言ったがよく聞こえなかった。見ると、なにやら神妙な顔をしている。
 やっぱりこんな怪しい子供は町には入れたくないよね……このまま誤魔化ごまかして立ち去ったほうがいいかな。

「お前さえよければ町に来るか? 独り立ちできるまで面倒を見てやるぞ」

 落ち込んでいたら、唐突にお兄さんがそんなことを提案してきた。他の人達が血相を変えて彼に詰め寄っている。
 勝手なことを言い出したお兄さんを責めているのだろう。
 不安になってシルバを見上げる。
 なぜかシルバは満足げにふふんっと鼻で笑っていた。

【やっぱりミヅキは可愛いからな】

 なんなんだ? と首を傾げていると、お兄さん達の話し合いも終わったようだ。

「話し合った結果、俺が責任をもってお前の面倒を見てやることになった! 俺はベイカーだ。よろしくな」

 お兄さんの名前はベイカーさんというらしい。

「わ、わたしはミヅキです。ほんとにいってもいいですか?」

 ペコッと頭を下げて、迷惑じゃないかなぁと、眉尻を下げてベイカーさんを見上げた。
 ベイカーさんはそんな私を見て、また口元を押さえて横を向いてしまった。ああ、やっぱり迷惑だったんだ……
 悲しくなり、目の奥がツンとして泣きそうになる。

「あ、ああすまんっ。違うんだ! ミヅキはまだ子供なんだから大人を頼っていいんだぞ」

 あわあわと言うベイカーさんの後ろで、他の人達もうんうんと頷いている。

「ありがとうごじゃいます……」

 優しい人達に会えてよかった……ほっとして目に涙を溜めながらお礼を言った。ベイカーさんがそっと頭をでながら優しく笑いかけてくれる。

「グゥルル」

 シルバが低くうなりながらベイカーさんを押しのける。ベイカーさんは急に出てきたシルバに驚いて、ビクッと手を引っ込めてしまった。

「シルバ、メッよ!」

 シルバの失礼な態度を注意すると、彼はシュンと耳を下げる。
 そんな私達のやり取りを見て、ベイカーさんはニカッと爽やかに笑ってめてくれる。

「本当に従魔なんだな! 幼いのに凄い才能だ。テイマーとして十分食べて行けると思うぞ。じゃあ、とりあえず町に向かいながら少し話をしよう」

 ベイカーさんは他の人達を先に帰らせ、このことを報告するように指示を出す。そしてこちらに向き直り、頬を持ち上げ微笑んだ。

「これから町に着いたらまず冒険者ギルドに行ってもらう。そこでミヅキは冒険者として登録するが問題ないか?」
「ぼうけんしゃってなにをすればいいの?」
「冒険者のやることはピンキリだ。一番簡単なものだと薬草集めとかだな。それならミヅキにもできるだろう。とりあえず登録して身元を証明するものを作らないと、町に滞在することができないからな」

 ふんふんと頷きながら聞いていると、ベイカーさんが嬉しそうに続きを話してくれる。

「別に冒険者になれってことじゃないから安心しろ、大きくなったら好きなことをすればいい」

 そう言いながら頭をぽんぽんっと優しくでる。

「じゃ行くか! ちょっと遠いから抱っこしてやろうか?」

 ベイカーさんが手を差し出してくれるが、

【ミヅキ乗れ】

 シルバが顔を近づけたので、反射的にギュッと抱きつく。そしてポンッと背に乗せられた。

「シルバがはこんでくれるからへいきー」

 ニカッと笑うと、ベイカーさんは「そ、そうか……」と肩を落として歩き出した。
 シルバはその後ろを悠々とついていく。私はそんなベイカーさんの様子には気付かずシルバの毛並みを堪能たんのうしていた。


 町に着くと門番はすでに報告を受けていたのか、ベイカーさんと挨拶あいさつをした後、すんなり通してくれた。
 シルバを見てびっくりしていたが、幼子おさなごが背に乗っていることで従魔と認識したようだ。
 町に入りしばらく歩いて行くと、民家とは違う大きな建物が見えてきた。

「あれが冒険者ギルドだ。門からの道順は覚えたか?」

 ベイカーさんがギルドの建物を指差しながら聞いてくる。
 その時になってやっと、周りの建物が気になってキョロキョロしていて、道順など覚えていなかったことに気が付いた。

【俺が覚えているから大丈夫だ】

 シルバがこちらをチラッと見た。
 なんてできる子! さすがイケメンフェンリル!

「シルバがおぼえたー」

 うちの子凄いだろっと親バカな感じで胸を張る。

「もしかして……フェンリルと意思疎通がとれるのか?」

 ベイカーさんがびっくりした顔をしながら聞いてくる。

「じゅうまのけいやくをしたからおしゃべりできるよー」

 どんな人でも従魔と契約したら会話ができると思い、軽い気持ちでそう言うと、ベイカーさんは呆然としてしまった。
 あれ? どうしたのだろう。
 シルバにベイカーさんのそばまで行ってもらい、つんつんとつついてみると、彼はハッと覚醒した。

「いや……従魔の契約をしても獣がしゃべれなければ会話はできんだろう。つまりそのフェンリルは言葉が理解できるほど知能が高いんだな……」

 ベイカーさんがブツブツ呟いているが、今は目の前のギルドに意識が行く。ギルドの中に入ると、視線が集中した気がした。
 不安になり思わずシルバの毛をギュッと握る。
 ベイカーさんはそんな視線など気にせずどんどん奥に進んでいき、窓口みたいなところに座っているお姉さんに話しかけている。
 こっちに来いと手招きをされたので、シルバから降りてベイカーさんに近づいた。

「ここで登録をするんだ。台に届かないから持ち上げるぞ」

 そう言われて、ひょいと抱きかかえられた。

「じゃあ、こいつの登録をお願いする。名前はミヅキ、年はまぁ四、いや五才で、職業はテイマー。従魔は後ろのフェンリルだ」

 ベイカーの言葉をお姉さんが紙にサラサラと書いていく。その紙を持って奥の扉に入っていくと、しばらくして一枚のカードを手に出てきた。

「こちらのカードに血を一滴お願いします」

 お姉さんがカードを出しながらにっこり笑って言ってくる。
 血……えっとどうやるんだ?
 やり方が分からずにチラッとベイカーさんを見上げた。

「ナイフとかで指先をちょっと刺して出したりするんだが……大丈夫か?」

 彼は心配そうに聞いてくる。そのくらいなら大丈夫だと思い、指を差し出した。

「俺がやるのか⁉」

 自分が刺すなど思いもよらなかったのか、びっくりしている。でも、ちょっとこの小さい手でナイフを持つ自信はないしお願いしよう。
「おねがい」と上目遣いで目をうるませる。我ながらあざとい。うん、すみません。
 ベイカーさんがもだえながらなにやら葛藤かっとうしている。すがるようにチラッとシルバのほうを見ると、プイッと顔を逸らされていた。お前がやれって感じだね。その後、お姉さんを見るけど……

「嫌です」

 ハッキリと断られた。まあ、幼子おさなごの手にナイフ刺すのなんて流石さすがにやだよねー。

「ベイカーさん、おねがいします。いたくてもへいきだから」

 にっこり笑って指を更に差し出すと、ベイカーさんが渋々ナイフを取り出した。

「フレイシア、回復薬を用意してくれ」

 ベイカーさんが受付のお姉さんに指示する。すかさずお姉さんは笑みを浮かべたまま、小さな瓶を見せた。既に用意しているとはできるお姉さんだ。
 ベイカーさんは、私の手を握るとゴクッとつばを呑む。
 えっ、そんなに覚悟がいるの……どうしよう、ちょっと不安になってきた。
 ベイカーさんの緊張が私にまで移る。そして、彼の右手が動いたと思ったら、指先にピリッと小さな痛みが走った。

「は、早くしろ!」

 ベイカーさんが慌てた顔でフレイシアさんに私の指を差し出す。フレイシアさんに手を取られ、カードの上に指の先を軽く押されて血を垂らした。カードに血がスーッと染みていく。
 彼女が指先に用意していた瓶の液体を少しかけると、みるみるうちに傷がふさがった。

「ありがとござーます」
「いい子ね。よく頑張りました」

 フレイシアさんにお礼を言ったら、優しく頭をでてくれた。こちらの人は頭をでるのが好きだなぁ、なんて考えていると、ベイカーさんが傷の具合を確認してくる。

傷痕きずあと、残ってないよな……」

 じーっと指を見ている。別に指先にあとが残ったって気にしないのに。

【ミヅキ、指先を見せろ】

 シルバまで傷痕きずあとを見たいと言いだした。ベイカーさんに言ってシルバのそばまで行き、指を差し出すとペロペロと指をめられた……なんで?

「では、こちらがミヅキ様のギルドカードになります。身元確認の際に必要になりますので、なくさないようお願いします。ギルドのシステムについて説明いたしますか?」
「あーそこら辺は俺が説明しておくから大丈夫だ」

 フレイシアさんの問いに、ベイカーさんは首を横に振る。

「了解です。あと、ギルドマスターに会って行かれますか?」
「ミヅキも今日は疲れていると思うから、明日改めて顔を出すと言っておいてくれ」
「はい。それと、従魔に装身具をつけていただきたいのですが」

 フレイシアさんは頷いた後、申し訳なさそうにシルバを見た。シルバはあからさまに嫌そうな顔になる。
 どんな装身具をつけるのか聞くと色んな形がありなんでも大丈夫とのこと。
 見せてもらうため、さっそくテーブルに並べてもらった。
 首輪に腕輪、アンクレット、イヤリング、ネックレスと種類も大きさも様々だ。

【シルバはどれがいい? それともつけるのはやっぱり嫌?】

 シルバの顔を覗くと、じっとなにかを見ている。
 目線の先には赤い首輪があった。その首輪は愛犬の銀がつけていた首輪によく似ていた。
 銀を思い出しながらそっと手に取る。銀になら首輪で丁度いいが、シルバは脚につけることになりそうだ。

【シルバ、これどうかな?】
【俺には小さそうだな】
【シルバがつけるなら脚にだね。それとも違うのがいい? 嫌なら無理してつけなくてもいいんだよ】
【ミヅキのためなら大丈夫だ】

 シルバはペロッと頬をめて、前脚を差し出した。私は手にしていた赤い首輪をシルバの脚につける。首輪はフワッと淡く光り、シルバの脚にフィットした。

【大丈夫? 邪魔じゃない?】
【いや平気だ。不思議と違和感がない】
【黒い毛並みにとっても似合ってるよ】

 シルバは満足そうに首輪――もとい腕輪を見ている。嫌がっていなくてよかった。

「じゃあ行くか」

 ベイカーさんは、無事に装身具をつけ終えるのを確認すると出口に向かった。私はもう一度フレイシアさんにお礼を言って、ベイカーさんの後についていく。

「俺の家までまた少し歩くから、フェンリルに乗せてもらえ」

 扉の外で待っていてくれたベイカーさんは、そう言ってシルバの背に乗せてくれる。そして再び歩き進めること十数分、町の外れにたたずむちょっとおんぼろの小屋が見えてきた。
 もしかして、あれ……?
 ベイカーさんは案の定その家に入る。

「ライト」

 家に入るなり、ベイカーさんがそう唱えた。すると、瞬く間に部屋の中が明るくなる。

「しゅごーい」

 これも魔法だよね! 感激してベイカーさんを見上げた。

「ライトの魔法が珍しいのか? 誰でも使える生活魔法だぞ」
「まほう。わたしにもつかえる?」

 是非とも使ってみたいが、どうやったらできるのだろう。

「魔力があればできるはずだ。ステータスは見たことあるか?」

 ステータス? そんなものが見られるの? なんて考えていると、目の前に透明のパネルのようなものが現れた。


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