上 下
442 / 687
10章

554.黒い子供

しおりを挟む
ベイカー達やシルバが肉に夢中になっているとそれを遠くから眺める人物がいた。

面白く無さそうに眺めるその子は三人の和やかな雰囲気にイラッとすると…

シルバの肉を噛む口が止まった。

【何かが見てる…】

キッとそちらの方向を睨みつけると

ーヤバッ気づかれた。

急いでその場を離れようとする。

シルバが肉を放り出し走り出した!

ベイカー達がポカンとその様子を見ていると

「どうしたんだ?」

「わからん、なにか向こうにいたか?」

「いや、感じなかった…がシルバが気がついた何かがあるのかも」

ベイカーが言うと

「行ってみるか」

アラン達は急いで火を消すとシルバの後を追った!

シルバは凄まじい速さでその人物に追いつくと

【止まれ!】

風魔法で行く手を塞いだ。

「ちぇっ…追いつかれちゃった。調子にのって近くに行き過ぎたな…」

よく見るとその人物は背は低く子供の様な大きさだった…まるでミヅキの様な…

後ろ姿も何となく似ておりシルバが吠えるとゆっくりと振り返る。

その姿を見てシルバは目を見開いた。

【その顔…ミヅキ…いや、似てるが違う】

ミヅキに似たその子供に不信感しか湧いてこない…

【貴様…誰だ。なぜミヅキに似ている!】

「そんなにグルグル唸っても何言ってるか分からないよ。まぁ大方なんであいつに似てるんだ…ってところかな」

ニヤリとミヅキにそっくりな顔で馬鹿にしたように笑う。

【ミヅキに似た顔でそんな顔をするな!不愉快だ!】

シルバが唸るとシルバの体の毛がバチッバチッと逆立つ!

威嚇するように子供の目の前に雷魔法を落とすと、子供は驚き目をパチパチと動かした…そして信じられないと顔を顰めると

「なんでわざと外したの?別に当てれば良かったじゃん…君ってあのフェンリルだよね?なんか暴れ回って手に負えなくて天界の人が天罰を落としたって聞いたけど…なんでそんなやわな獣になっちゃったの?なーんか幻滅…」

子供が落胆した様子でシルバを見つめた。

【だから…その顔をやめろ…】

堪らず子供に向かって駆け出した!前脚を振りかぶって攻撃をしようとするが手前で手が止まる…

【クソッ…】

違う人物だとはわかっているのにミヅキに似た顔に攻撃する事に抵抗があり思わず止まってしまった。

「よっわっ…」

子供はシルバに触ろうと手を伸ばすと…

ゾクッ…

嫌な予感にシルバが一瞬で離れて間合いをとった。

「ふーん…勘はいいみたいだね」

【その魔力…お前が黒い魔石を撒き散らしてる奴か…】

子供の右手が黒いモヤで覆われていた…ついこの間倒したキメラのエルフと同じ気配がする。

「あっこれ?君たちも何度か会ってるよね…僕のペット達に…全部あいつに壊されたけど…」

【あいつ…ミヅキの事か】

シルバが警戒すると

「あのエルフはまぁ実験段階だったけど自我が少し残っちゃって逃げられちゃったんだよね~でも上手い具合にエルフの国に行ってくれてしかも僕に似たあいつに敵意剥き出しでさ!もう傑作!」

あははと愉快そうに笑う姿はミヅキに似ても似つかない…

【やはり全然似ていない】

シルバは子供を睨むと

【お前はここで消しとくべきかな…ミヅキが怒りそうだが…言わなきゃ問題ない。ミヅキには汚い事は知らずにいて欲しいこともある】

シルバの気配が変わると子供の顔色も変わった。

「ヤバッ…どうやら本気になったのかな…」

お互い睨み合っていると…子供が急にニヤッと笑った。

「シルバ!」

その瞬間後ろから声がしてベイカーとアランが駆けつけてきた!

その一瞬の隙をついて子供は地面へと消えていく。

「バイバイ!せいぜいあいつを守ってよ。死んだら僕も困るからさ…まぁ手がもげようが足がなくなろうが姿がどんなになろうと生きてりゃ問題ないけどね」

そういうと手を振って闇の中へと消えていく…

【くっそ!闇魔法だと…】

地面へと消えていくその瞳は赤く輝いていて前に一度見たミヅキと同じ様だった…

「シルバ!そいつは誰だ!」

ベイカー達が駆けつけた時にはもうあの子供の気配は無くなっていた…

「遠くからだったが…ミヅキに似てなかったか?」

アランが聞くと

「でもミヅキじゃない、それだけはわかる」

ベイカーは子供が消えた地面を見つめると…

「まぁここにいてもしょうがない、町に帰ろう」

ベイカーの言葉にシルバは素直に従った…今すぐにでもミヅキに会いたくてたまらなかった。

ベイカー達はそのまま一直線に町に向かうと

「おかえり~!」

会いたかったあの子がいつものように笑顔で迎えてくれる。

【ミヅキ…】

シルバはミヅキのそばに駆け寄ると頭をミヅキにくっ付けて目を瞑る。

【シルバ、どうしたの?まるで何日も会ってなかったみたいな反応だね】

よしよしと優しく撫でてくれるその手は相変わらず温かく心まで癒してくれる。

ようやく上手く息が吸えるようになると深くため息をつきミヅキの匂いを奥深くまで吸い込み、くすぐったがるミヅキの顔を舐めてみる。

嬉しそうに笑うミヅキの顔が曇った…

【あれ?シルバ…なんかお口がお肉の匂いするよ!】

ガシッと顔を掴まれるとじっと見つめられる。

いつもならそんな顔をされたら尻尾が下がりそうだが今はその顔さえも愛おしい…

【すまん…】

シルバは嬉しくて頬を擦り寄らせた。

【シルバ反省してる?なんか嬉しそうなんだけど…】

眉を顰めるその顔も、苦笑するその顔もやはり全てが愛おしい…

あいつとは違う…

シルバはもう一度ミヅキの匂いを温もりを体の隅々まで行き渡らせた…

帰ってからミヅキにべったりのシルバの様子にベイカーは顔をしかめると

「どうしました?」

セバスが声をかけてきた。

「いや、シルバの様子がな…」

言い淀むベイカーにセバスは無言で見つめていると…

「シルバさんはいつもミヅキさんにあんな感じですよね」

ベイカーはセバスを見つめると

「後で少し話がある」

そういうとミヅキとシルバの元にいつものような笑顔に戻ると

「ベイカーさん?」

セバスが顔を曇らせた。

「後でな…今はとりあえずエルフの方をどうにかしようぜ」

アランはセバスの背中をドンッと押した。

セバスは若干納得出来なかったがベイカーの様子を見てため息をつくと集まってきたギルドのみんなに声をかけた。

「じゃあ改めてこれからこの町で暮らす事になりました、オリビアさんです。皆さんもオリビアさんが困っていたら助けてあげてくださいね」

ギルドのみんなにオリビアを紹介すると

「よろしくお願いします…まぁ困る事などほとんどないと思いますが、自分の事は自分で出来ますので…」

ふんと挨拶をすると…

ミヅキの前でのしおらしさが消えて生意気さが滲み出る。

「オリビア!もっと丁寧に挨拶しないと」

ミヅキが声をかけるとハッ!と顔をミヅキに向けて

「す、すみません。ミヅキさ…ミヅキには沢山迷惑をかけると思いますが…よろしくお願いします!」

コロッと態度を変える。

「オリビアさん?」

セバスが困ったようにオリビアを見つめる。

「私より魔力が低いものになぜ頭を下げないといけませんの?これでもちゃんと挨拶をしたつもりなんだけど…ミヅキやセバスやアルフノーヴァ兄様ならわかりますが…」

オリビアが首を傾げると

「別にもう人を否定するつもりもないが媚びへつらうつもりもないです」

堂々と宣言すると…

「まぁいいんじゃね?確かに強い奴が偉そうにするのはよくある事だ」

アランが笑う。

「しかし…年上の方にもこの態度では…」

「年なら私の方が上です」

オリビアが言うと

「でもオリビアはまだ成人もしてないだろ?人の国ならまだ十四、五歳な様なものだよ」

アルフノーヴァが困ったように答えると

「人とエルフは歳の取り方が違うのですか?」

「そうだね、だからここでは君は年下だよ。だからちゃんと挨拶をしようね」

アルフノーヴァがオリビアの頭を優しく撫でると、オリビアは少し考えて…

「はい…皆さん…すみませんでした。これからよろしくお願いします」

ペコッと素直に頭を下げて伺うよにみんなを見つめた。

「うん、可愛いから許しちゃう!」

「そうだな!ツンツンした感じもそれはそれで良かったが…」

どうも一部の冒険者達には好評の様だ…

オリビアの周りにみんなが集まり挨拶をしている姿にミヅキ達はほっと胸を撫で下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ほっといて下さい(番外編)

三園 七詩
ファンタジー
「ほっといて下さい」のもうひとつのお話です。 本編とは関係ありません。時系列も適当で色々と矛盾がありますが、軽い気持ちで読んで頂けると嬉しいです。 ✱【注意】話によってはネタバレになりますので【ほっといて下さい】をお読みになってからの方がいいかと思います。

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。