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貴方に逢えたから
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心が温まるやりとりを思い出している敦士を、男性は微妙な表情で見下ろしながら告げる。
「彼奴の腹の中は、真っ黒だからな。さぞかしおまえの存在そのものが、光り輝いて見えたことだろう」
「僕は、いつまでも光り輝いていたいです。彼の中にある黒いものが全部なくなるくらいに」
さっきから男性が高橋を馬鹿にする発言ばかりするので、敦士はあえてそれに乗っかった。
「実際にそうなったときは、輝きに満ち溢れて眩いであろうな。結果的にはおまえという光が、要らなくなるのではないか?」
「そのときは、僕が真っ黒になればいいだけだと思います」
敦士は意外そうな表情を浮かべた男性を見ながら、驚くことを堂々と告げてみた。
「ふっ、やけくそになったのか」
(そう思われてもしょうがない。この会話そのものが、まるでオセロゲームみたいだし……)
「僕はただ、一番好きな人の一番でいたいだけです。望むのはそれだけ。そのためには努力を惜しみません」
「やれやれ。そろそろ別れる時分だと思って現れてみたのに、杞憂だったみたいだな」
「えっ!?」
「どこにでもいるおまえに、彼奴が飽きると見越していた。これまでの交際期間を考えたら、妥当な頃合いだと思ったのだがな」
楽しげに言いながら指を折っていく男性の手元を、敦士は穴が開くようにじぃっと見つめてしまった。
「あのぅ健吾さんは、そんなに飽き性だったのでしょうか?」
「まがい物の優しさに騙される可哀想な男たちが、彼奴が張っていた蜘蛛の糸に引っかかるように釣れていたからな。長くてもせいぜい3ヶ月くらいと記憶している。最短で1週間だった」
「短っ……」
敦士は胸元に当てていた手で、心臓部分をぎゅっと握りしめた。高橋に飽きられ見捨てられないようにするには、どうすればいいのか考えを巡らせてみたものの、そんな技量は自分にはなくて困り果てるしかなかった。
「おまえが見捨てられない理由は、なんだと思う?」
男性に問いかけられて、はじめてそれについて敦士は考慮する。
(一緒にいて和むとか居心地がいいとか、そんな理由じゃない。きっと、必然的なものかもしれないな)
「健吾さんと一緒にいられる理由は、持ち合わせていないものを、互いに持っていたからだと思います。だから僕らは惹かれて、愛し合ったのかなって……」
しどろもどろだったがそれなりの理由を敦士が口にした途端に、男性が違和感ありまくりの笑みを唇に浮かべた。敦士が言ったことが気に入らないのか、はたまたツボに入って可笑しかったから微笑んだのか、まったく見当がつかない。
「ほう、なるほどな。彼奴とおまえはふたりで一人前だから、離れることができないというわけか。片方がいなくならないように、せいぜい努力するがいい」
「創造主さまには感謝しているんです。健吾さんと出逢うきっかけを作ってくださったお方なので」
「私からの誘いを断っただけじゃなく、差し上げようとした望みも要らぬばかりか、改まって感謝されるとは」
「ありがとうございます、創造主さま。ぼくは――」
敦士が続きのセリフを言う前に、目の前にいる男性の姿がぐにゃりと歪んだ。あれっと思った次の瞬間、音もなく躰がどこかへ落ちていく。落ちていきながら慌てて顔を上げると、敦士が落ちたらしい穴が月のように白く光り輝いた。
「敦士、大丈夫か!? おいっ!」
聞き覚えのある大きな声にはっとして、敦士が落ちていく先を見てみたら、真っ暗闇でなにも見えなかった。
「怖い、助けて!」
ありったけの声で叫んだ刹那、拘束されるみたいな痛みを全身に感じた。あまりの痛さに、敦士は目をぎゅっと閉じて息を飲む。
「大丈夫だ、俺がいる。怖いものなんて、どこにもいない!」
「健吾さん……」
恐るおそる目を開けたら、あたたかみを帯びた光が敦士の目に飛び込んできた。それは優しさに溢れているように見えた。
そんな光を背後にまとった恋人が、敦士の躰をさらにキツく抱きしめる。どこかつらそうな表情を浮かべる高橋に、心配かけてしまったことが明白だった。
「彼奴の腹の中は、真っ黒だからな。さぞかしおまえの存在そのものが、光り輝いて見えたことだろう」
「僕は、いつまでも光り輝いていたいです。彼の中にある黒いものが全部なくなるくらいに」
さっきから男性が高橋を馬鹿にする発言ばかりするので、敦士はあえてそれに乗っかった。
「実際にそうなったときは、輝きに満ち溢れて眩いであろうな。結果的にはおまえという光が、要らなくなるのではないか?」
「そのときは、僕が真っ黒になればいいだけだと思います」
敦士は意外そうな表情を浮かべた男性を見ながら、驚くことを堂々と告げてみた。
「ふっ、やけくそになったのか」
(そう思われてもしょうがない。この会話そのものが、まるでオセロゲームみたいだし……)
「僕はただ、一番好きな人の一番でいたいだけです。望むのはそれだけ。そのためには努力を惜しみません」
「やれやれ。そろそろ別れる時分だと思って現れてみたのに、杞憂だったみたいだな」
「えっ!?」
「どこにでもいるおまえに、彼奴が飽きると見越していた。これまでの交際期間を考えたら、妥当な頃合いだと思ったのだがな」
楽しげに言いながら指を折っていく男性の手元を、敦士は穴が開くようにじぃっと見つめてしまった。
「あのぅ健吾さんは、そんなに飽き性だったのでしょうか?」
「まがい物の優しさに騙される可哀想な男たちが、彼奴が張っていた蜘蛛の糸に引っかかるように釣れていたからな。長くてもせいぜい3ヶ月くらいと記憶している。最短で1週間だった」
「短っ……」
敦士は胸元に当てていた手で、心臓部分をぎゅっと握りしめた。高橋に飽きられ見捨てられないようにするには、どうすればいいのか考えを巡らせてみたものの、そんな技量は自分にはなくて困り果てるしかなかった。
「おまえが見捨てられない理由は、なんだと思う?」
男性に問いかけられて、はじめてそれについて敦士は考慮する。
(一緒にいて和むとか居心地がいいとか、そんな理由じゃない。きっと、必然的なものかもしれないな)
「健吾さんと一緒にいられる理由は、持ち合わせていないものを、互いに持っていたからだと思います。だから僕らは惹かれて、愛し合ったのかなって……」
しどろもどろだったがそれなりの理由を敦士が口にした途端に、男性が違和感ありまくりの笑みを唇に浮かべた。敦士が言ったことが気に入らないのか、はたまたツボに入って可笑しかったから微笑んだのか、まったく見当がつかない。
「ほう、なるほどな。彼奴とおまえはふたりで一人前だから、離れることができないというわけか。片方がいなくならないように、せいぜい努力するがいい」
「創造主さまには感謝しているんです。健吾さんと出逢うきっかけを作ってくださったお方なので」
「私からの誘いを断っただけじゃなく、差し上げようとした望みも要らぬばかりか、改まって感謝されるとは」
「ありがとうございます、創造主さま。ぼくは――」
敦士が続きのセリフを言う前に、目の前にいる男性の姿がぐにゃりと歪んだ。あれっと思った次の瞬間、音もなく躰がどこかへ落ちていく。落ちていきながら慌てて顔を上げると、敦士が落ちたらしい穴が月のように白く光り輝いた。
「敦士、大丈夫か!? おいっ!」
聞き覚えのある大きな声にはっとして、敦士が落ちていく先を見てみたら、真っ暗闇でなにも見えなかった。
「怖い、助けて!」
ありったけの声で叫んだ刹那、拘束されるみたいな痛みを全身に感じた。あまりの痛さに、敦士は目をぎゅっと閉じて息を飲む。
「大丈夫だ、俺がいる。怖いものなんて、どこにもいない!」
「健吾さん……」
恐るおそる目を開けたら、あたたかみを帯びた光が敦士の目に飛び込んできた。それは優しさに溢れているように見えた。
そんな光を背後にまとった恋人が、敦士の躰をさらにキツく抱きしめる。どこかつらそうな表情を浮かべる高橋に、心配かけてしまったことが明白だった。
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