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貴方に逢えたから
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敦士はなにがなんだかわからず、縋る視線で高橋を見つめると、わざわざそれに合わせながら微笑みかけてくれる。
窓から差し込む太陽の光みたいな心遣いに、敦士の怖かった気持ちがすっと消えてなくなった。
「顔色が随分と良くなった。落ち着いたみたいだな」
言いながら背中に回されている高橋の手のひらが、敦士をあやすような感じで動き出した。ゆっくりと叩くお蔭で、ふたたび眠りそうになる。
そんな気持ちよさに身をまかせたかったものの、心配させてしまったことについて謝らなければと、重たい口を開く。
「すみません、朝早くから心配かけてしまって」
「たまたま寝返りをうったら、腰がつってしまったんだ。痛みに堪えながら隣を見ると、おまえが微笑みながら『ありがとうございます、創造主さま』なんていう、寝言をはっきり言ったせいで、心臓が縮みあがってしまった」
高橋は驚いたことを示すためなのか、形のいい眉毛があげる。敦士はそれにびっくりしてまぶたを開いた。普段は見ることのできない、パッチリまなこの高橋の顔が面白くて、思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、そんな寝言を言ったんですか。ということは、夢の中で創造主さまに逢ったんですね」
「やっぱりな――」
高橋の上機嫌だった表情が、あっという間に忌々しさを表す顔に変わった。
(――つんと突き出た唇にキスをしたら、健吾さんの機嫌が直るだろうか?)
「創造主の奴め、敦士との逢瀬を楽しんだ記憶を消して、悔しがる俺の顔を空から見ているに違いない」
「逢瀬なんて、僕は誰とも浮気はしませんよ」
敦士がしっかりと否定したのに、高橋の苛立った気持ちが背中を叩く手に出ていた。ゆっくりと叩いていたのに、ベランダに干された布団を伸す勢いで、バシバシ叩きはじめる。
高橋の苛立つ気持ちが治まればいいなと敦士が思ったので、叩かれる痛みにも耐えることができた。
「アイツ、なんで今頃になって現れたんだ……。くそっ、こんなふうにイライラしてたら創造主の思う壺なのに、考えれば考えるほどに腹が立ってしょうがない!」
「あの僕の記憶がなくて、はっきりとした確証はないんですけど」
「どうした?」
「創造主さまに逢うことがあったら、ぜひともお礼が言いたいなって思っていたんです。健吾さんと出逢うきっかけを作ってくださったから」
「それでおまえは、ヤツに礼を言ったってわけか。律儀な敦士らしい」
バシバシ叩いていた高橋の手が止まり、なぜかパジャマの裾から反対の手が侵入してきた。
「悪かった、背中が熱くなるくらいに叩いてしまって」
「大丈夫ですよ。全然へっちゃらです。うっ!」
高橋の指先が、肩甲骨をなぞるように触れていく。骨の形を確かめるようになぞっているだけなのに、ちょっとした加減でぞくっとさせられるせいで、敦士の息が自然と乱れた。
「純粋無垢で素直な敦士を前にしたら、あの創造主も手が出せなかっただろう」
「健吾、さんは?」
「俺は、敦士が感じてる顔を堪能している最中さ。大好きなおまえを見て、手を出さずにはいられない」
語尾にいくにしたがって顔が寄せられ、耳元で囁かれる高橋の低い声に敦士はドキドキした。心と一緒に躰も、もっと乱してほしいと思わずにはいられない。
(健吾さんの愛の告白はストレートすぎて、なんて返せばいいのか分からないけれど――)
窓から差し込む太陽の光みたいな心遣いに、敦士の怖かった気持ちがすっと消えてなくなった。
「顔色が随分と良くなった。落ち着いたみたいだな」
言いながら背中に回されている高橋の手のひらが、敦士をあやすような感じで動き出した。ゆっくりと叩くお蔭で、ふたたび眠りそうになる。
そんな気持ちよさに身をまかせたかったものの、心配させてしまったことについて謝らなければと、重たい口を開く。
「すみません、朝早くから心配かけてしまって」
「たまたま寝返りをうったら、腰がつってしまったんだ。痛みに堪えながら隣を見ると、おまえが微笑みながら『ありがとうございます、創造主さま』なんていう、寝言をはっきり言ったせいで、心臓が縮みあがってしまった」
高橋は驚いたことを示すためなのか、形のいい眉毛があげる。敦士はそれにびっくりしてまぶたを開いた。普段は見ることのできない、パッチリまなこの高橋の顔が面白くて、思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、そんな寝言を言ったんですか。ということは、夢の中で創造主さまに逢ったんですね」
「やっぱりな――」
高橋の上機嫌だった表情が、あっという間に忌々しさを表す顔に変わった。
(――つんと突き出た唇にキスをしたら、健吾さんの機嫌が直るだろうか?)
「創造主の奴め、敦士との逢瀬を楽しんだ記憶を消して、悔しがる俺の顔を空から見ているに違いない」
「逢瀬なんて、僕は誰とも浮気はしませんよ」
敦士がしっかりと否定したのに、高橋の苛立った気持ちが背中を叩く手に出ていた。ゆっくりと叩いていたのに、ベランダに干された布団を伸す勢いで、バシバシ叩きはじめる。
高橋の苛立つ気持ちが治まればいいなと敦士が思ったので、叩かれる痛みにも耐えることができた。
「アイツ、なんで今頃になって現れたんだ……。くそっ、こんなふうにイライラしてたら創造主の思う壺なのに、考えれば考えるほどに腹が立ってしょうがない!」
「あの僕の記憶がなくて、はっきりとした確証はないんですけど」
「どうした?」
「創造主さまに逢うことがあったら、ぜひともお礼が言いたいなって思っていたんです。健吾さんと出逢うきっかけを作ってくださったから」
「それでおまえは、ヤツに礼を言ったってわけか。律儀な敦士らしい」
バシバシ叩いていた高橋の手が止まり、なぜかパジャマの裾から反対の手が侵入してきた。
「悪かった、背中が熱くなるくらいに叩いてしまって」
「大丈夫ですよ。全然へっちゃらです。うっ!」
高橋の指先が、肩甲骨をなぞるように触れていく。骨の形を確かめるようになぞっているだけなのに、ちょっとした加減でぞくっとさせられるせいで、敦士の息が自然と乱れた。
「純粋無垢で素直な敦士を前にしたら、あの創造主も手が出せなかっただろう」
「健吾、さんは?」
「俺は、敦士が感じてる顔を堪能している最中さ。大好きなおまえを見て、手を出さずにはいられない」
語尾にいくにしたがって顔が寄せられ、耳元で囁かれる高橋の低い声に敦士はドキドキした。心と一緒に躰も、もっと乱してほしいと思わずにはいられない。
(健吾さんの愛の告白はストレートすぎて、なんて返せばいいのか分からないけれど――)
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