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似たもの同士
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すでに閉園しているテーマパークは、小学生のときに家族で来たことがあった。
「どれだったかな、んー……」
俺の隣でスーツのポケットに手を突っ込み、なにかを探す桜小路さんに話しかける。
「なにしてるんですか?」
すると両手に持っている鍵の束を俺に見せて、ニッコリほほ笑む。
「このたくさんついてる鍵の中から、門扉の鍵を探していてね。どれだと思う?」
ジャラジャラ音をたてて、たくさんの鍵を見せびらかす桜小路さんに、うんとイヤな顔をしてみせた。
「そんなの、わかるわけないじゃないですか」
「だよな。だから奥の手を使おうと思ってね」
桜小路さんは持っていた鍵の束をポケットに戻すと、最初に逢ったときに見せた、吸血鬼の姿に早変わりする。
「わっ……」
淡い月明かりに光り輝くシルバーの髪と、俺を見つめるルビー色の瞳がとても綺麗に目に映る。
「今夜は満月だろ、そのせいで血が騒いでしまってね。君にはこの姿を無理して隠さないで済むから、すごく楽だな」
言いながら俺の体を軽々と横抱きにし、数歩だけ後ずさった次の瞬間、助走をつけて高い門扉を飛び越えた。
「ひいぃっ!」
勢いよく門扉の上を飛び越えたのに、着地したときの衝撃はまったくなく、気づいたらテーマパーク内の地に両足がついていた。
「SAKURAパークに、ようこそお越しくださいました!」
桜小路さんは胸に手を当てて、俺に深くお辞儀をする。
「やっ、待ってください。勝手に入って、大丈夫なんですか?」
「安心しろ、俺はここの関係者だ。そこにあるベンチに座って、待っていてくれ。すぐに戻る」
ひょいと肩を竦めて、颯爽と目の前から消えていく後ろ姿は、暗闇の中に溶けていなくなってしまった。
しんと静まり返るテーマパーク。あまりに静かすぎて、幽霊が出てきてもおかしくない。だって――。
「俺ってば、吸血鬼に連れ去られたようなものだし」
ベンチに座る余裕もなく、その場に立ち尽くしていると、バンッという大きな音と同時に、テーマパーク内の明かりがいきなり点灯した。
「うっ、眩しぃ」
暗闇に目が慣れていたせいで、アトラクションを照らす煌びやかなライトが、ものすごく目に突き刺さる。
「お待たせ。なんだ、渋い顔をしてるな」
「ライトが眩しいんです」
「だったら眩しいのを忘れるくらいに、夜遊びするがいい」
桜小路さんは俺の利き手を掴んで、どこかに引っ張って歩く。
「瑞稀は、ここに来たことはあるのか?」
「小学生のとき、何回か」
「君が小学生のときということは、そこから何度かリニューアルしているからね。楽しめると思う」
そう言って桜小路さんが連れて来たところは、コーヒカップの乗り物だった。
「これ、あまり得意じゃないんだけど」
「ワガママを言う前に乗ってごらん。俺が楽しませてあげよう」
コーヒカップの中に、無理やり体を押し込まれた。仕方なく腰かけると、桜小路さんは向かい側に座り、目の前にあるハンドルをこれでもかとぐるぐる回す。
「うわっ、まっ待って! 目が回る!!」
「遠くを見るから目が回るんだ。俺の顔を見ててごらん」
「それでもっ、実際すごく回ってっ、気持ち悪っ!」
「なるほど。栄養失調の体には、無理がかかるということか。では、ゆっくり回すとしよう」
桜小路さんのセリフどおりに、ものすご~く静かに、コーヒカップが動きはじめた。
「ありがと、ございます。これならなんとか、大丈夫です」
「どういたしまして。ほかに苦手なアトラクションはあるのか?」
吸血鬼の姿でいる桜小路さんは、長い足を格好よく組んで俺を見据える。コーヒカップの中だというのに、カッコイイ彼がそこにいるだけで、おとぎ話の世界観が目の前に広がっていた。
(苦手なアトラクションを訊ねられたものの、なんと答えてよいのやら)
「小学生のとき以来、テーマパークに来たことがないので、今現在苦手なものがわからないです」
「だったら苦手を探す旅に出ようか。おいで」
柔らかくほほ笑んだ桜小路さんは、俺に手を差し伸べた。さっきの衝撃で足下がおぼつかない可能性があるので、遠慮なく捕まらせてもらう。
「メリーゴーランドに乗ったかわいい瑞稀を見てみたいが、年齢的にかわいそうだからやめてあげよう」
「アハハ……そうしていただけると助かります」
その後、桜小路さんの案内に伴われ、たくさんのアトラクションに挑んだ。安全面の関係で、たったひとりで乗るものが多かったけれど、絶叫系は意外と楽しかった。
激しく動き回るジェットコースターが一周終えたので、降りる気持ちでいたのに、なぜかスピードダウンせずに二週目に突入したときは「嘘だろ!」なんて、大きな声が出てしまった。
それを見た桜小路さんは、乗降口でお腹を抱えて大笑いする。それを横目で確認できたのも一瞬で、あっという間にぐるぐる回るレールの中に、勢いよく突入したんだ。
「瑞稀の顔、ものすごく驚いていたね。そんなに意外だったのかい?」
「普通は一周したら終わりなのに、あのまま二周目にいくとか、ありえないじゃないですか!」
今俺たちが乗っているのは、SAKURAパークの中で一番大きなアトラクションの観覧車だった。丸っこい桜の花びらの形をした、たくさんのゴンドラが回っている様子は、遠目に見ても綺麗だった。
「俺は久しぶりに笑わせてもらった。またあの顔を見せてほしいな」
「嫌ですよ、まったく」
「瑞稀は楽しめただろうか?」
先ほどとは違う低い声の問いかけにハッとして、自然と背筋が伸びた。
「あっ、そうですね。小学生のときとは、また違った感じで楽しめました」
家族で楽しんだときと今では、やはり楽しむ種類が違う気がする。しかもこうしてお世話になったんだから、ちゃんとお礼を言わなければならない。
「桜小路さん、ありがとうございました。貧乏学生がこんな贅沢していいのかって最初思っていたけど、それを忘れて楽しめちゃいました」
「貧乏学生の理由、聞いてもいいだろうか?」
小首を少しだけ傾げた桜小路さんのシルバーの髪が、しなやかに揺れる。
「高学年のとき、父さんが交通事故で亡くなったんです。そこから母さんは俺を育てるのに、朝から晩まで働いていました。その苦労を知ってるので、なるべく自腹で生活しなきゃって、バイトをかけ持ちしながら、大学に通ってます」
桜小路さんは暗い内容の話を、瞼を伏せて聞き入る。そして形のいい唇がゆっくり動いた。
「俺もね、家族を亡くしてる。俺が吸血鬼になったのが原因で、母親が心臓を悪くしてね」
耳に染み入るような低い声だからか、妙に心に響いてしまった。同じように大事な家族を亡くしている彼に、無条件に同情してしまう。
「どれだったかな、んー……」
俺の隣でスーツのポケットに手を突っ込み、なにかを探す桜小路さんに話しかける。
「なにしてるんですか?」
すると両手に持っている鍵の束を俺に見せて、ニッコリほほ笑む。
「このたくさんついてる鍵の中から、門扉の鍵を探していてね。どれだと思う?」
ジャラジャラ音をたてて、たくさんの鍵を見せびらかす桜小路さんに、うんとイヤな顔をしてみせた。
「そんなの、わかるわけないじゃないですか」
「だよな。だから奥の手を使おうと思ってね」
桜小路さんは持っていた鍵の束をポケットに戻すと、最初に逢ったときに見せた、吸血鬼の姿に早変わりする。
「わっ……」
淡い月明かりに光り輝くシルバーの髪と、俺を見つめるルビー色の瞳がとても綺麗に目に映る。
「今夜は満月だろ、そのせいで血が騒いでしまってね。君にはこの姿を無理して隠さないで済むから、すごく楽だな」
言いながら俺の体を軽々と横抱きにし、数歩だけ後ずさった次の瞬間、助走をつけて高い門扉を飛び越えた。
「ひいぃっ!」
勢いよく門扉の上を飛び越えたのに、着地したときの衝撃はまったくなく、気づいたらテーマパーク内の地に両足がついていた。
「SAKURAパークに、ようこそお越しくださいました!」
桜小路さんは胸に手を当てて、俺に深くお辞儀をする。
「やっ、待ってください。勝手に入って、大丈夫なんですか?」
「安心しろ、俺はここの関係者だ。そこにあるベンチに座って、待っていてくれ。すぐに戻る」
ひょいと肩を竦めて、颯爽と目の前から消えていく後ろ姿は、暗闇の中に溶けていなくなってしまった。
しんと静まり返るテーマパーク。あまりに静かすぎて、幽霊が出てきてもおかしくない。だって――。
「俺ってば、吸血鬼に連れ去られたようなものだし」
ベンチに座る余裕もなく、その場に立ち尽くしていると、バンッという大きな音と同時に、テーマパーク内の明かりがいきなり点灯した。
「うっ、眩しぃ」
暗闇に目が慣れていたせいで、アトラクションを照らす煌びやかなライトが、ものすごく目に突き刺さる。
「お待たせ。なんだ、渋い顔をしてるな」
「ライトが眩しいんです」
「だったら眩しいのを忘れるくらいに、夜遊びするがいい」
桜小路さんは俺の利き手を掴んで、どこかに引っ張って歩く。
「瑞稀は、ここに来たことはあるのか?」
「小学生のとき、何回か」
「君が小学生のときということは、そこから何度かリニューアルしているからね。楽しめると思う」
そう言って桜小路さんが連れて来たところは、コーヒカップの乗り物だった。
「これ、あまり得意じゃないんだけど」
「ワガママを言う前に乗ってごらん。俺が楽しませてあげよう」
コーヒカップの中に、無理やり体を押し込まれた。仕方なく腰かけると、桜小路さんは向かい側に座り、目の前にあるハンドルをこれでもかとぐるぐる回す。
「うわっ、まっ待って! 目が回る!!」
「遠くを見るから目が回るんだ。俺の顔を見ててごらん」
「それでもっ、実際すごく回ってっ、気持ち悪っ!」
「なるほど。栄養失調の体には、無理がかかるということか。では、ゆっくり回すとしよう」
桜小路さんのセリフどおりに、ものすご~く静かに、コーヒカップが動きはじめた。
「ありがと、ございます。これならなんとか、大丈夫です」
「どういたしまして。ほかに苦手なアトラクションはあるのか?」
吸血鬼の姿でいる桜小路さんは、長い足を格好よく組んで俺を見据える。コーヒカップの中だというのに、カッコイイ彼がそこにいるだけで、おとぎ話の世界観が目の前に広がっていた。
(苦手なアトラクションを訊ねられたものの、なんと答えてよいのやら)
「小学生のとき以来、テーマパークに来たことがないので、今現在苦手なものがわからないです」
「だったら苦手を探す旅に出ようか。おいで」
柔らかくほほ笑んだ桜小路さんは、俺に手を差し伸べた。さっきの衝撃で足下がおぼつかない可能性があるので、遠慮なく捕まらせてもらう。
「メリーゴーランドに乗ったかわいい瑞稀を見てみたいが、年齢的にかわいそうだからやめてあげよう」
「アハハ……そうしていただけると助かります」
その後、桜小路さんの案内に伴われ、たくさんのアトラクションに挑んだ。安全面の関係で、たったひとりで乗るものが多かったけれど、絶叫系は意外と楽しかった。
激しく動き回るジェットコースターが一周終えたので、降りる気持ちでいたのに、なぜかスピードダウンせずに二週目に突入したときは「嘘だろ!」なんて、大きな声が出てしまった。
それを見た桜小路さんは、乗降口でお腹を抱えて大笑いする。それを横目で確認できたのも一瞬で、あっという間にぐるぐる回るレールの中に、勢いよく突入したんだ。
「瑞稀の顔、ものすごく驚いていたね。そんなに意外だったのかい?」
「普通は一周したら終わりなのに、あのまま二周目にいくとか、ありえないじゃないですか!」
今俺たちが乗っているのは、SAKURAパークの中で一番大きなアトラクションの観覧車だった。丸っこい桜の花びらの形をした、たくさんのゴンドラが回っている様子は、遠目に見ても綺麗だった。
「俺は久しぶりに笑わせてもらった。またあの顔を見せてほしいな」
「嫌ですよ、まったく」
「瑞稀は楽しめただろうか?」
先ほどとは違う低い声の問いかけにハッとして、自然と背筋が伸びた。
「あっ、そうですね。小学生のときとは、また違った感じで楽しめました」
家族で楽しんだときと今では、やはり楽しむ種類が違う気がする。しかもこうしてお世話になったんだから、ちゃんとお礼を言わなければならない。
「桜小路さん、ありがとうございました。貧乏学生がこんな贅沢していいのかって最初思っていたけど、それを忘れて楽しめちゃいました」
「貧乏学生の理由、聞いてもいいだろうか?」
小首を少しだけ傾げた桜小路さんのシルバーの髪が、しなやかに揺れる。
「高学年のとき、父さんが交通事故で亡くなったんです。そこから母さんは俺を育てるのに、朝から晩まで働いていました。その苦労を知ってるので、なるべく自腹で生活しなきゃって、バイトをかけ持ちしながら、大学に通ってます」
桜小路さんは暗い内容の話を、瞼を伏せて聞き入る。そして形のいい唇がゆっくり動いた。
「俺もね、家族を亡くしてる。俺が吸血鬼になったのが原因で、母親が心臓を悪くしてね」
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