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出奔
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景虎は、定満の言を受け入れ、出奔した。
家督を義兄の長尾政景に譲り、自分は出家、隠遁すると宣言したのだ。
そして上方までの船を手配し、京にいる神余親綱に、高野山に隠居場まで用意させた。
勿論、全てお芝居である。
取り敢えず、子供の頃に過ごした林泉寺に身を置いていると、直ぐに長尾政景がやって来た。
「なにとぞ、城にお戻りを・・・・」
義兄上は、相変わらず人の良い御仁だな。
深々と頭を下げる政景を眺めながら、景虎は苦笑する。
「義兄上、面をお上げ下さい」
真っ青な政景の顔を見ると、景虎としても多少後ろめたい。
だが作戦なので仕方がない。
「この平三、己の無力無能に嫌気がさしたのです」
そう言うと、景虎は政景に背を向ける、遠くを見つめる。
「永徳院様から国主の座を預かり、越後平穏のみを願い、ただただ尽力してきたつもりです」
永徳院とは越後守護、上杉定実の戒名である。
「しかし一向に越後は治りませぬ」
はぁ、と息を吐き、景虎は顔を伏せる。
「拙者、もう疲れました」
半分がお芝居だが、半分は本心だ。
国衆地侍たちの争いには、本当にうんざりしている。
「そもそも拙者は、国主になりたかったわけではありませぬ」
これも半分本心で、半分偽りだ。
景虎にとって最初の望みは、疎まれていた兄晴景に攻め滅ぼされないため、攻められる前に攻めただけだ。
守護どころか、守護代である長尾の当主の座も、晴景が自分をもっと信じてくれたら、奪う気などなかっただろう。
ただ今、国主となり越後国を治め、他国と戦さをしている時、景虎は充実している。
野心といえば野心であろうが、責務と言えば責務だ。
責務を果たしている事に、景虎はやりがいを感じている。
「拙者には無理です」
景虎は政景の方を向き、静かにだがはっきりとした口調で告げる。
「拙者より義兄上の方が向いております」
「な、何を申されるか?」
慌てて政景がススッと近づく。
「それがしに国を治めるなど、無理にござる」
その政景の言葉に、まぁ、そうでしょうねぇ、と景虎は内心思う。
政景は誠実な男だ。
だが、いやだからこそ、国を治めるのには向いていない。
責務と言うものに、景虎はやりがいを感じるが、政景はその重圧に押し潰され、三日でそれこそ投げ出すだろう。
しかし景虎は、ここで偽りを言う。
「義兄上の誠実さは、越後皆が知るところ」
政景が国主になれば、それこそ晴景の二の舞だろう。
それが分かっていて、敢えて景虎は言う。
「皆も義兄上の言葉なら、従うでしょう」
「いや、その様な事は無い」
ええっ、そうでしょうねぇ、と景虎は内心思いながら、口では
「いえいえ」
と言って、首を振る。
「越後をお任せします」
そう告げると、政景に背を向けて、念仏を唱え始める。
「思いとどまっくだされ、平三どの」
その後、何度も政景が呼びかけても、景虎は無視を続け、念仏を唱え続けた。
しばらくすると、はぁ、と息を吐き、政景は帰っていった。
悪人だな、わしは、と景虎は苦笑する。
家督を義兄の長尾政景に譲り、自分は出家、隠遁すると宣言したのだ。
そして上方までの船を手配し、京にいる神余親綱に、高野山に隠居場まで用意させた。
勿論、全てお芝居である。
取り敢えず、子供の頃に過ごした林泉寺に身を置いていると、直ぐに長尾政景がやって来た。
「なにとぞ、城にお戻りを・・・・」
義兄上は、相変わらず人の良い御仁だな。
深々と頭を下げる政景を眺めながら、景虎は苦笑する。
「義兄上、面をお上げ下さい」
真っ青な政景の顔を見ると、景虎としても多少後ろめたい。
だが作戦なので仕方がない。
「この平三、己の無力無能に嫌気がさしたのです」
そう言うと、景虎は政景に背を向ける、遠くを見つめる。
「永徳院様から国主の座を預かり、越後平穏のみを願い、ただただ尽力してきたつもりです」
永徳院とは越後守護、上杉定実の戒名である。
「しかし一向に越後は治りませぬ」
はぁ、と息を吐き、景虎は顔を伏せる。
「拙者、もう疲れました」
半分がお芝居だが、半分は本心だ。
国衆地侍たちの争いには、本当にうんざりしている。
「そもそも拙者は、国主になりたかったわけではありませぬ」
これも半分本心で、半分偽りだ。
景虎にとって最初の望みは、疎まれていた兄晴景に攻め滅ぼされないため、攻められる前に攻めただけだ。
守護どころか、守護代である長尾の当主の座も、晴景が自分をもっと信じてくれたら、奪う気などなかっただろう。
ただ今、国主となり越後国を治め、他国と戦さをしている時、景虎は充実している。
野心といえば野心であろうが、責務と言えば責務だ。
責務を果たしている事に、景虎はやりがいを感じている。
「拙者には無理です」
景虎は政景の方を向き、静かにだがはっきりとした口調で告げる。
「拙者より義兄上の方が向いております」
「な、何を申されるか?」
慌てて政景がススッと近づく。
「それがしに国を治めるなど、無理にござる」
その政景の言葉に、まぁ、そうでしょうねぇ、と景虎は内心思う。
政景は誠実な男だ。
だが、いやだからこそ、国を治めるのには向いていない。
責務と言うものに、景虎はやりがいを感じるが、政景はその重圧に押し潰され、三日でそれこそ投げ出すだろう。
しかし景虎は、ここで偽りを言う。
「義兄上の誠実さは、越後皆が知るところ」
政景が国主になれば、それこそ晴景の二の舞だろう。
それが分かっていて、敢えて景虎は言う。
「皆も義兄上の言葉なら、従うでしょう」
「いや、その様な事は無い」
ええっ、そうでしょうねぇ、と景虎は内心思いながら、口では
「いえいえ」
と言って、首を振る。
「越後をお任せします」
そう告げると、政景に背を向けて、念仏を唱え始める。
「思いとどまっくだされ、平三どの」
その後、何度も政景が呼びかけても、景虎は無視を続け、念仏を唱え続けた。
しばらくすると、はぁ、と息を吐き、政景は帰っていった。
悪人だな、わしは、と景虎は苦笑する。
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