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第五章 出会い

98 ひたすらに訓練をする

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 しばらく打ち合いを続けたあと、やっとミハエルが少し納得したので終わることができた。
 俺は地面に座り込んで呟く。

「うへぇ、疲れた……」

 そんな俺にミハエルが苦笑しつつ言った。

「ありがとな、ルカ。まぁまだちっと物足りねぇけどな」
「そうか。まぁ俺も訓練になった。結局あれからソロダンジョンもできずにこんな事態になってるしな」

 本来であれば、レオンとの戦闘はもっとあとになると思っていたのだ。
 だから俺はほとんどレオン対策の魔法訓練をできていなかった。
 ミハエルが負けるとは微塵も思っていないが、レオンの実力も底が見えないのは確かだ。

「明日もまだ余裕がありそうなら訓練するか?」
「そーだな、ルカが平気なら頼むわ」
「ああ、問題ないぞ」

 ただ、なんとなく、なんとなくではあるが、ミハエルが勝つか負けるかに関わらず、俺はレオンと戦うことになりそうな気がするのだ。
 魔法を使っての訓練はここでは出来ないけども、それでもミハエルという剣士と訓練できるのは俺にとってもプラスになる。

 まぁ、もし勝っても負けても、レオンとの戦闘はミハエルにとってはかなりプラスとなるだろう。
 ミハエルとしては負けるのは悔しいかもしれないけど、それでもきっとミハエルにとっては大きな収穫になるし、いつかレオンを追い越すためには必要だと、そう思う。

 この世界にはレベルという概念はないし、鑑定でもレベルは出てこない。
 だけど、表示されないだけである気がするのだ。
 というのも、鑑定魔法は改造する前、最初の頃は評価というのがあった。
 物に対してではあったけど、今だって普通や良、最良があったりする。
 だから、きっと見えないだけであるのだと思う。

 努力もきっとあるけど、努力だけではどうにもならないレベルの強さというものもある。
 それは見えないだけでレベルというか、経験値があるのだと思う。

 ミハエルを見ていると思うが、どう考えてもパッシブスキルがあるとは言っても成長速度が異常なのだ。
 もちろん努力の結果もあるが、それだけではなんとも言えない『伸び』がある気がするのだ。

 だから、というわけではないが、今回のレオンとの戦いは、ミハエルも俺もきっと大きな成長の材料となる。
 レオンには悪いが、いや、レオンから絡んできているのだ、悪いとは言わず俺たちの糧になってもらおう。

 俺はベッドに潜るとそんなことを考えながら目をつむった。

 翌朝、目を覚ました俺は身だしなみを整えてから、一旦部屋を出てから階下に降りて宿屋の従業員に伝言がないかを確認した。
 確認したところ、特に伝言はなかったので、今日も闘技場でレオンと戦うことはなさそうだ。

 部屋に戻ったところ、珍しくミハエルがすでに起きていた。

「あれ、起きてたのか?」
「おう、そろそろエルナたちがくるだろ」
「ん?」

 何のことだ? と俺が首を傾げると、ミハエルが説明してくれた。

「あー、昨日ルカが先に部屋に戻ったあとにエルナがきてな、明日の朝ご飯も一緒にしようって言ってきて、おうって言ったんだよ。すまん、ルカに言ってなかったな」
「ああ、なるほど。はは。別にいいさ」

 そんなことを話しているとノックの音が聞こえた。
 フィーネたちが来たようで部屋へと迎え入れる。

「おはよう、二人とも」
「おはよう、ルカ、ミハエル」
「おはようございます!」

 朝食を取りながらも、昨日の訓練の話などをしているとフィーネがその訓練に参加してくれることになった。
 俺一人ではミハエルに魔法攻撃なしで対応するのがかなり大変だったので、フィーネと二人でやれば多分ミハエルはかなりきついはずだ。
 俺も余裕をもって訓練ができるし、フィーネにもいい経験になる。
 何よりミハエルにとってはいい訓練となる。

 とはいえ、フィーネにも身体強化や各種向上魔法をかけるので少し慣れるのに時間はかかるだろうけども。
 エルナは近接戦闘には向いていないので見学だ。

 さすがに裏庭で訓練は問題はないとはいえ、宿屋に確認をとる。
 従業員からはほぼ使われていないのでどうぞと言われたので存分に訓練で使わせてもらおう。
 とはいえ、裏庭を荒らすことはできないのでそこまで暴れることはしないけども。

 本当はギルドの訓練場でやりたいのだが、あそこだと他に人がいすぎるのだ。
 さすがに俺たちの動きをあまり他人に見られたくはない。
 宿屋の従業員に見られるというのはあるが、戦闘をしない人にはすごいなー程度だろうし問題はない。
 冒険者に少々見られても、多くの冒険者に見られるよりはマシだ。

 裏庭にきた俺たちはとりあえずまずはフィーネに身体強化や向上魔法に慣れてもらうことにした。
 というのも、正直強化魔法なしでは強化魔法をかけたミハエルとはろくに戦うことができないのだ。
 身体強化やその他もろもろかけたところ、最初は動くのすらフィーネは少し苦労したが、やはりそこは冒険者、数十分もすれば動きに慣れてきた。

 慣れ始めたところで今度は俺と打ち合いをする。
 とはいえ、さすがに矢を撃たれるとそれは難しいので、弓についた刃を使っての近接戦闘になる。
 ただやはり剣士とは動きがまったく違うので対応が遅れる。

 俺が切り上げると弓の刃で逸らされるのは剣と同じなのだが、そのすぐあとに刃が想定外の場所に誘導されるのだ。
 これが弓刃と剣の違いというのもあるだろうが、やはりフィーネの実力もあるだろう。
 気を付けてはいるのだが、気づくといつのまにか俺の予期していない方向に剣の刃が誘導されていて、次の行動がうまくいかなくなるのだ。

 これは中々に厄介で訓練になるかもしれない。
 一時間ほどフィーネと打ち合いをして一旦休憩にした。

「すげぇな。弓刃は予想できねぇ動きだな。フィーネ、もう慣れたか?」
「ええ、自分が一段階強くなれた気分ね。でも、努力すればいつかあの域にいけるのかと思うとやる気がでるわ」
「本当にすごいよ。俺の剣先がいつのまにか誘導されてて、まともに戦闘させてもらえなかった感じだ」
「ふふ。ありがとう」
「俺も早くフィーネとやりてぇな」
「そうね、でも私一人だとミハエルには対応できないわよ」
「わかってるって。ルカとペアで頼むぜ。楽しみだな」

 ミハエルは子供のように嬉しそうな笑みを浮かべている。
 こういうところがレオンと似ているんだよな、とふと思う。
 でもそれをミハエルに言えばきっと心底嫌そうな顔をしそうなので黙っておく。

 二十分ほど休憩をとったあと、今度はミハエル対俺とフィーネで打ち合いをすることにした。
 最初に俺がミハエルに切りかかり、フィーネは隙をつくようにミハエルに切りかかる。
 ミハエルは俺の剣を捌きながらもフィーネの動きを把握してフィーネの攻撃を的確にはじく。
 しかし、フィーネのあの独特な剣の逸らし方にミハエルもうまく剣を次の攻撃に繋げず動きが鈍い。

 だからこそ俺もミハエルを追い詰めるほどに攻め込める。
 だがそれも数十分もすれば、ミハエルがフィーネの動きに慣れ始めた。

 ここが俺とミハエルの経験値の違いだ。
 俺のは創造で最近作った魔法だから、経験値はほとんど溜まっていない。
 だけど、ミハエルのは生れたころからあるパッシブ魔法だ。
 本格的に剣を使い始めたのはここ最近ではあるが、それでもずっとひたすらに剣を振っている。
 ゲームで言えば、俺がまだレベル三くらいだとすればミハエルはレベル三十以上と言ったところだろう。

 ミハエルのパッシブはそれだけの経験値があるから、相手の動きや行動に慣れるのも異様に早いのだ。
 半面、俺は経験値がほとんどないので慣れるのが遅い。

 ちなみにこの剣術強化・大であるが、ただ単純に剣術が強化されるだけではない。
 というか、剣術に関することと言えば正しいだろうか。
 剣術に付随する動き、反応、読む力、それらも含めての剣術だ。
 だから、俺の低レベルなパッシブと違い、ミハエルのパッシブレベルだと俺とここまでの違いが出る。

 まだこうして考察できる余裕がありはするが、先程からそれも厳しくなってきている。
 すでにミハエルはフィーネの剣先の誘導に対応しているうえに、その誘導を自身の剣術に取り込み始めているのだ。
 俺はというとやっと誘導に少し慣れた程度なので、ミハエルからの誘導逸らしにほぼ対応できずに追い込まれ始めている。

 本当にミハエルは強いな。
 ただ、それでもレオンに確実に勝てるかというと、俺は言葉を濁すことしかできない。
 それほどにあの男の底は見えない。

 だけど、俺はミハエルを信じる。
 ミハエルならば、最初は押されるかもしれない、だけどきっとこうして押し返すはずだ。
 ミハエルにはパッシブ魔法ではない、普通の才能もあるのだから。

 休憩を挟みつつも、俺たちはその日ずっと打ち合いを続けた。
 さすがに次の日に疲れを残すわけにはいかないので、夕食前には打ち合いを止めはしたが。

 最終的には俺とフィーネでミハエルに相対あいたいしても、ミハエルの動きについていくのが精一杯になってしまった。
 俺が突然動きを変えてもフィーネが新しい動きをしても、少しすればすべて対応され、あまつさえその動きを吸収されてしまうのだから、恐ろしい。

 本気でミハエルを倒すなら、俺は魔法も使ってミハエルが不慣れなうちにやるしかない。
 きっとレオンもミハエルと同じだろう。
 時間をかけるとレオンもミハエルも慣れる。
 そして対応してくるだけじゃなく、吸収して動く。

 ある意味でミハエルとの打ち合いはレオン対策になる。
 もしレオンとやるときは魔法を使って一気に攻め倒すしかない。
 だが別にレオンに勝たなくともいいのだ。
 悔しくはあるが所詮あちらは剣士、俺は魔法使い、土台が違うのだから。
 そう、別に勝たなくてもいい、だけど――負けたくない。

 そうだな、かつてフィーネたちに課したように、レオンにも誓約魔法をしてもらうか。
 ――ちなみにフィーネたちに課した誓約魔法はすでに解除してある。

「明日あたりギルドマスターから連絡がくるかもしれないな」
「あーだなぁ」
「そうね」

 そんなことを話ながら宿屋へ戻ったところで、宿屋の従業員から伝言を伝えられた。
『明日の昼過ぎにレオンとの戦いの場を用意した。昼過ぎに宿屋の前で集合だ』と、ギルドマスターからの伝言だった。
 俺とミハエルは目を合わせ頷き合う。

 当日は勉強にもなるので、フィーネとエルナも見学予定だ。
 俺も見学で済ませたいものだが、多分なんとなくだがきっと戦いになるだろう。
 いや、戦いたい、のかもしれない。

 ミハエルも俺も、知らず少しだけ笑みを浮かべてしまっていた。
 やはり己よりも強い相手と戦うのは心が少しだけ躍ってしまうのだ。
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