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第五章 出会い
97 Bランク試験当日(後編)
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数十分ほど客室で過ごしたあと、ウサ耳メイドさんがやってきた。
俺は平静な顔をしつつも、まさかのウサ耳メイドさんに大興奮である。
「失礼致します。準備が整いましたので、移動をお願いいたします」
メイドさんが頭を下げるとお耳も垂れ下がってみょんみょんしている。
ちょっと驚くほどの破壊力がある。
そうしてメイドさんのウサ耳にクリティカルダメージを受けつつも、ウサ耳メイドさんに案内されて会場へと移動した。
すでに数名の貴族や令嬢が来ており、何ともソワソワした雰囲気を醸し出している。
多分、あの人たちの目的は『シュラハト』だろう。
というか今回のパーティ貴族だけでなく令嬢も参加するのか……。
ギルドマスターは会場へ入ったところで俺たちと別れ、キール子爵のもとへ向かった。
俺たちはできる限り目立たないように隅の方にいることにしたのだが、数名の貴族のうち二、三人の貴族や令嬢がこちらへやってきた。
全員が丁寧に挨拶をしてくれたが、貴族独特の曖昧な言い回しが多く、俺は笑みを浮かべる作戦にして、基本的にはフィーネが対応してくれた。
情けなくはあるが、なんでもこなせるわけじゃないのだ。
とはいえ、だからといって全てフィーネ任せで思考放棄はよろしくないので、フィーネの会話の仕方を学ぶ。
しかし聞けば聞くほどなんとも貴族の喋り方は曖昧だ。
俺が前世でもし社会に出ていればこんな会話もしたんだろうか。
笑みを浮かべながらも俺はそんなことを考えてしまった。
そうしてしばらく、三十分ほどしたところで続々と貴族たちがやってきた。
彼らはみな、こちらには視線を向けず、近くの人と何かとヒソヒソと話している。
俺たちに話しかけていた数人も今は俺たちから離れている。
代わりにギルドマスターが俺たちの近くにいる。
少ししてキール子爵から『シュラハト』の入場を知らせる声がした。
ここにいる貴族たちよりも丁寧な扱い、いや、上位の扱いをされて『シュラハト』の面々が入ってきた。
あのレオンが見事な仮面をかぶってさわやかな青年に見える笑みを浮かべて貴族たちの相手をしている。
ちょっとだけ驚きだ。
「見事な仮面をかぶってんな、あの野郎」
「ああ、そうだな。だが、だからこそ彼らはAランクなんだろうな」
ギルドマスターは本来は試験中は俺たちのそばにいるべきではないのだが、レオンがきているので俺たちに話かけはしないが、そばで待機しているのだ。
レオンたちが入場してから二十分ほどが経った。
ありがたいことに俺たちに貴族も令嬢もほとんどきていない。
それでも数名は俺たちの方にきて顔つなぎをしてくるが、ほぼほぼレオンたちに群がっている。
レオンは時折こちらに視線を送ってくるが、すぐに貴族に話かけられて視線を戻している。
『シュラハト』の中でもやはりレオンが一番人気があるようで、レオンの仲間は少しずつレオンを残して離れていっているのが少し面白い。
ただやはり前衛職のメンバーがやはり人気があるようで、レオンから離れたのに別の貴族やご令嬢に囲まれていた。
その中でもさりげなくフェードアウトしたのは、俺とエルナの魔力の多さに驚いていた魔力感知を持った魔法使いの人だ。
彼だけスルリと貴族たちの群れから抜けだし、さりげなくこちらへとやってきた。
あの時はローブを被っていたのであまり顔がよくみえなかったのだが、普通に近所のいいお兄さん的な雰囲気がある。
「やぁ、こんばんは。私はエアハルト・プロイっていうんだ。よろしく」
「こんばんは、俺はルカ・ローレンツといいます。こっちがミハエル、彼女がフィーネで、そちらの彼女がエルナといいます」
「うん、みんなよろしくね」
エアハルトさんはニコリと優しく微笑む。
「今日はごめんね、君たちの試験なのに。うちのレオンがどうしても出るって聞かなくてね」
エアハルトさんが少し困った顔でそう言ってきた。
俺は苦笑しつつ返事をする。
「いえ、かえって助かっていますよ。『シュラハト』のおかげでこちらに貴族がきませんので」
「そうか、それならレオンが我儘言ったかいはあるのかな」
「ところで、レオンさんが俺たちの試験パーティに参加された理由というのはなんでしょう?」
「ああ、レオンは君たちに言ってないんだね。ほんとに不器用なやつだよ。いやね、実は君たちに貴族が群がらないようにしたいと言っていてね、理由を聞けば、お気に入りのやつがいるから、と。多分、君のことかな?」
そう言ってエアハルトさんは俺をみた。
俺としては驚きである。
エアハルトさんの言葉が真実ならば、レオンは野生の勘かは知らないが、俺が目立ちたくないのを見抜いて、貴族が群がらないように強引に参加して注目を集めてくれているということになる。
とはいえ、ただ気に入ってるだけで貴族に借りを作ってまですることだろうか?
俺が少し訝し気にしていると、エアハルトさんが苦笑しながら話てくれた。
「はは。訝しがるのもわかるよ。レオンと長く付き合っていないと、レオンの考えはさっぱりわからないだろうね。私も最初はレオンの突飛な行動に困ったものさ」
そう言って今回のレオンの行動について話てくれた。
「レオンはね、とても単純なんだ。今回についてもとても簡単な話だよ。レオン自身がBランク試験の時に貴族に群がられてとても面倒で嫌な思いをしたから、気に入ってる君がそんな思いをしないようにって、ただそれだけなんだ。面白い男だろ? まぁ、その代わりに私たちが苦労をするんだけどね。それでもそんなレオンを私たちは気に入っているんだ」
彼はレオンを見てそう言ってとても楽し気に笑った。
どうやらレオンの今回の一件はこれが真実らしい。
「だから、ルカ君。いつでもいいから、いつかレオンと戦ってあげてほしい。レオンは強い相手と戦うのがとても好きなんだ。私たちではレオンを満足させてあげられないんだよ」
エアハルトさんは、少し寂し気な笑みでそう言った。
だからこそ、俺は素直に言った。
「難しいですね、俺もそれなりに知られたくない秘密がありますから」
「そうか。それは、どうやっても難しいかい?」
「そうですね、全力を出さなくていいのであれば相手はできます。でも、全力となると、難しいです」
「それは、君のその魔力量に関係しているのかな?」
「なんとも」
やはりレオンは単純で、そして仲間からとても愛されているように思える。
だからと言って、俺の秘密をそう簡単に教えるわけにもいかないのだ。
レオンなら信頼できそうな気はするけど、それはそれだ。
ただ、どうしてか、俺は思わず挑発のようなことを口走ってしまう。
「どうしてもっていうなら、まずミハエルと戦って勝てたら俺も受けますよ」
俺がそう言うと、エアハルトさんはスッと目を細めて射抜くように俺を見た。
「へぇ? レオンはミハエル君には反応はしてなかったけど、レオンが勝てないと?」
「ええ、俺はミハエルを信じていますから。あなたがレオンさんを信じているように」
「ははは。面白いね。うん、レオンが君を気に入った理由がなんとなくわかるよ。さすがに私は君にもミハエル君にも勝てる気がしないから戦いは挑まないけどね」
そうこうしているうちにエアハルトさんが『そろそろかな』と呟いた。
「それじゃあそろそろ私はあちらへ戻るよ。少ししたらお嬢さん方がきそうだからね」
そう言ってエアハルトさんは自身のメンバーたちのもとへ向かった。
途中で貴族令嬢が何人か殺到していたので、あれを引き受けてくれたのだろうけど、群がりそこねたであろう令嬢がこちらへ向かってきている。
『シュラハト』は有望株だが、俺たちも将来有望株ではあるのだ。
気付けば、フィーネが俺のすぐ横に控え、ミハエルのそばには恥ずかし気な顔をしながらエルナがいる。
それを見た貴族令嬢たちは若干ひるんだが、それでも果敢に戦いを挑んできていた。
ミハエルはレオンを見て対抗心が燃えているのだろう、当たり障りなく好青年に変身して相手をしている。
それでもエルナを守るように気遣っているのはさすがだと言える。
俺はというと、かなりしどろもどろの対応をしている。
「私、――家の――ともうしますの。ねぇ、ルカ様は――」
「俺はたいしたことはありませんよ」
「ルカ様、今度我が家へ――」
「お心遣いだけありがたく」
「素敵なお召し物ね、とてもお似合いですわ――」
「ありがとうございます」
精神的にどんどん疲弊していく中、唯一の救いは、貴族たちがレオンたちとの繋がりを作るのに必死で、フィーネやエルナに手を出してこないことだろう。
そしてなぜか、フィーネがいつのまにか令嬢に惚れられていた。
「フィーネ様、お姉さまとお呼びしても?」
「私などよりも貴女にはもっと素敵な方がおられますよ」
フィーネがそう言って微笑むと、益々ご令嬢たちは目をハートにしていっている気がする。
そうこうしていると、俺の周囲に数人の令嬢が集まり、あちこちから言葉がかかる。
「ねぇルカ様、フィーネ様とはどういうご関係なのかしら?」
「パーティメンバーですよ」
そう答えると、今度は違う女性に言葉をかけられる。
「あら、本当ですの? それでしたら今度我が家に遊びにこられませんこと?」
「はは。そんな恐れ多い。俺はただの平民ですから。お心遣いだけありがたく」
そう答えているとまた違う女性に声をかけられる。
「ルカ様本当に素敵でいらっしゃるから私とても胸が高鳴ってしまいますわ」
「そうですか? ありがとうございます」
「まぁ、顔を赤らめられて、うふふ。可愛らしいことですわね」
「すみません、慣れていませんもので」
俺の精神力がガリガリと削られていく。
なんだろうな、この女性の押しの強さって。
女性たちの隙間からチラリとミハエルを見ると、女性に群がられ、エルナを守っているミハエルの目がほぼ死んでいた。
頑張れミハエル。貴族が群がってこないだけマシだぞ……マシなはずだ……。
そんな風に思いながら、俺たちはBランク試験パーティをなんとか乗り切った。
やっと令嬢たちから解放された。
途中でチラリとレオンを見たら、レオンも死んだ魚の目をしていた。
うん、レオンにも感謝だけはしておこう。
俺たちは一旦客室へと移動となった。
キール子爵にお礼を言ってから帰るためだ。
しばらく待っているとキール子爵がきたのだが、同時にレオンもくっついてきていた。
キール子爵は俺たちからの礼もそこそこにレオンを置いて部屋をでていった。
Aランクというのは子爵よりも地位が高いのだ。
レオンは俺を見ると二ッと笑みを浮かべた。
「よお、ルカ。さっきエアハルトから聞いたぞ。ミハエルだっけか? そいつとやって勝てばお前とやれるんだろ?」
早速か。
「ええ、そうですね。エアハルトさんにはそう言いました」
「じゃあやろうぜ、お前ら帰るの延ばせよ。いいだろ? ギルマス」
「断ったところでじゃあシュルプでって言うんだろうが」
「当然だろ」
「わかった、闘技場借りてやるから少し待て。あそこなら人目が少ないだろ。レオンは当然借りるのに協力しろよ、お前のせいなんだからな」
「別にいいぜ、それでやれるなら問題ねぇしな」
ギルドマスターが溜め息をつく。
「ルカ、ミハエル、嬢ちゃんたちも帰るのは延期だ。こうなったらやる方が早い」
「別に俺はかまいませんよ、全力でぶちのめしてやりますから」
ミハエルがそう言うと、レオンが歯をむき出して笑った。
「言うじゃねぇかクソガキ。全力で叩き潰してやるよ」
「あーはいはい。レオンもう出てけ。あとで連絡いれる」
ギルドマスターはさらっとレオンを部屋から追い出した。
レオンも特に抵抗することなく部屋をでていった。
「面倒なことになったな。でもまぁ、遅かれ早かれだな」
「そうですね。というか、ミハエルすまん。つい、俺とやるならまずミハエルとやれなんて言っちゃって」
「んなの気にしてねぇよ。でも、俺の素のままじゃあいつにゃ勝てねぇ。だから魔法頼むわ、ルカ」
「ああ、任せろ」
こうして俺たちは宿屋へと戻った。
ただ、シュルプに帰るのは三日ほど延期となってしまった。
ギルドマスターは着替えたあとすぐに出かけていったので闘技場の予約なりなんなりレオンを連れて、しにいったのだろう。
俺とミハエルはというと宿屋の裏庭で人がいないのを確認しつつ、身体強化以外にどれだけかけるかと、かけながら相談した。
何個かかけたあと、慣らすために俺もレオン対策の魔法をかけてからミハエルと打ち合いをした。
やはり俺以上の動きをミハエルがするのでついていくだけで精一杯である。
とはいえ、ミハエルの動きを慣らすのは大事なので俺はその後も打ち合いを続けるのであった。
俺は平静な顔をしつつも、まさかのウサ耳メイドさんに大興奮である。
「失礼致します。準備が整いましたので、移動をお願いいたします」
メイドさんが頭を下げるとお耳も垂れ下がってみょんみょんしている。
ちょっと驚くほどの破壊力がある。
そうしてメイドさんのウサ耳にクリティカルダメージを受けつつも、ウサ耳メイドさんに案内されて会場へと移動した。
すでに数名の貴族や令嬢が来ており、何ともソワソワした雰囲気を醸し出している。
多分、あの人たちの目的は『シュラハト』だろう。
というか今回のパーティ貴族だけでなく令嬢も参加するのか……。
ギルドマスターは会場へ入ったところで俺たちと別れ、キール子爵のもとへ向かった。
俺たちはできる限り目立たないように隅の方にいることにしたのだが、数名の貴族のうち二、三人の貴族や令嬢がこちらへやってきた。
全員が丁寧に挨拶をしてくれたが、貴族独特の曖昧な言い回しが多く、俺は笑みを浮かべる作戦にして、基本的にはフィーネが対応してくれた。
情けなくはあるが、なんでもこなせるわけじゃないのだ。
とはいえ、だからといって全てフィーネ任せで思考放棄はよろしくないので、フィーネの会話の仕方を学ぶ。
しかし聞けば聞くほどなんとも貴族の喋り方は曖昧だ。
俺が前世でもし社会に出ていればこんな会話もしたんだろうか。
笑みを浮かべながらも俺はそんなことを考えてしまった。
そうしてしばらく、三十分ほどしたところで続々と貴族たちがやってきた。
彼らはみな、こちらには視線を向けず、近くの人と何かとヒソヒソと話している。
俺たちに話しかけていた数人も今は俺たちから離れている。
代わりにギルドマスターが俺たちの近くにいる。
少ししてキール子爵から『シュラハト』の入場を知らせる声がした。
ここにいる貴族たちよりも丁寧な扱い、いや、上位の扱いをされて『シュラハト』の面々が入ってきた。
あのレオンが見事な仮面をかぶってさわやかな青年に見える笑みを浮かべて貴族たちの相手をしている。
ちょっとだけ驚きだ。
「見事な仮面をかぶってんな、あの野郎」
「ああ、そうだな。だが、だからこそ彼らはAランクなんだろうな」
ギルドマスターは本来は試験中は俺たちのそばにいるべきではないのだが、レオンがきているので俺たちに話かけはしないが、そばで待機しているのだ。
レオンたちが入場してから二十分ほどが経った。
ありがたいことに俺たちに貴族も令嬢もほとんどきていない。
それでも数名は俺たちの方にきて顔つなぎをしてくるが、ほぼほぼレオンたちに群がっている。
レオンは時折こちらに視線を送ってくるが、すぐに貴族に話かけられて視線を戻している。
『シュラハト』の中でもやはりレオンが一番人気があるようで、レオンの仲間は少しずつレオンを残して離れていっているのが少し面白い。
ただやはり前衛職のメンバーがやはり人気があるようで、レオンから離れたのに別の貴族やご令嬢に囲まれていた。
その中でもさりげなくフェードアウトしたのは、俺とエルナの魔力の多さに驚いていた魔力感知を持った魔法使いの人だ。
彼だけスルリと貴族たちの群れから抜けだし、さりげなくこちらへとやってきた。
あの時はローブを被っていたのであまり顔がよくみえなかったのだが、普通に近所のいいお兄さん的な雰囲気がある。
「やぁ、こんばんは。私はエアハルト・プロイっていうんだ。よろしく」
「こんばんは、俺はルカ・ローレンツといいます。こっちがミハエル、彼女がフィーネで、そちらの彼女がエルナといいます」
「うん、みんなよろしくね」
エアハルトさんはニコリと優しく微笑む。
「今日はごめんね、君たちの試験なのに。うちのレオンがどうしても出るって聞かなくてね」
エアハルトさんが少し困った顔でそう言ってきた。
俺は苦笑しつつ返事をする。
「いえ、かえって助かっていますよ。『シュラハト』のおかげでこちらに貴族がきませんので」
「そうか、それならレオンが我儘言ったかいはあるのかな」
「ところで、レオンさんが俺たちの試験パーティに参加された理由というのはなんでしょう?」
「ああ、レオンは君たちに言ってないんだね。ほんとに不器用なやつだよ。いやね、実は君たちに貴族が群がらないようにしたいと言っていてね、理由を聞けば、お気に入りのやつがいるから、と。多分、君のことかな?」
そう言ってエアハルトさんは俺をみた。
俺としては驚きである。
エアハルトさんの言葉が真実ならば、レオンは野生の勘かは知らないが、俺が目立ちたくないのを見抜いて、貴族が群がらないように強引に参加して注目を集めてくれているということになる。
とはいえ、ただ気に入ってるだけで貴族に借りを作ってまですることだろうか?
俺が少し訝し気にしていると、エアハルトさんが苦笑しながら話てくれた。
「はは。訝しがるのもわかるよ。レオンと長く付き合っていないと、レオンの考えはさっぱりわからないだろうね。私も最初はレオンの突飛な行動に困ったものさ」
そう言って今回のレオンの行動について話てくれた。
「レオンはね、とても単純なんだ。今回についてもとても簡単な話だよ。レオン自身がBランク試験の時に貴族に群がられてとても面倒で嫌な思いをしたから、気に入ってる君がそんな思いをしないようにって、ただそれだけなんだ。面白い男だろ? まぁ、その代わりに私たちが苦労をするんだけどね。それでもそんなレオンを私たちは気に入っているんだ」
彼はレオンを見てそう言ってとても楽し気に笑った。
どうやらレオンの今回の一件はこれが真実らしい。
「だから、ルカ君。いつでもいいから、いつかレオンと戦ってあげてほしい。レオンは強い相手と戦うのがとても好きなんだ。私たちではレオンを満足させてあげられないんだよ」
エアハルトさんは、少し寂し気な笑みでそう言った。
だからこそ、俺は素直に言った。
「難しいですね、俺もそれなりに知られたくない秘密がありますから」
「そうか。それは、どうやっても難しいかい?」
「そうですね、全力を出さなくていいのであれば相手はできます。でも、全力となると、難しいです」
「それは、君のその魔力量に関係しているのかな?」
「なんとも」
やはりレオンは単純で、そして仲間からとても愛されているように思える。
だからと言って、俺の秘密をそう簡単に教えるわけにもいかないのだ。
レオンなら信頼できそうな気はするけど、それはそれだ。
ただ、どうしてか、俺は思わず挑発のようなことを口走ってしまう。
「どうしてもっていうなら、まずミハエルと戦って勝てたら俺も受けますよ」
俺がそう言うと、エアハルトさんはスッと目を細めて射抜くように俺を見た。
「へぇ? レオンはミハエル君には反応はしてなかったけど、レオンが勝てないと?」
「ええ、俺はミハエルを信じていますから。あなたがレオンさんを信じているように」
「ははは。面白いね。うん、レオンが君を気に入った理由がなんとなくわかるよ。さすがに私は君にもミハエル君にも勝てる気がしないから戦いは挑まないけどね」
そうこうしているうちにエアハルトさんが『そろそろかな』と呟いた。
「それじゃあそろそろ私はあちらへ戻るよ。少ししたらお嬢さん方がきそうだからね」
そう言ってエアハルトさんは自身のメンバーたちのもとへ向かった。
途中で貴族令嬢が何人か殺到していたので、あれを引き受けてくれたのだろうけど、群がりそこねたであろう令嬢がこちらへ向かってきている。
『シュラハト』は有望株だが、俺たちも将来有望株ではあるのだ。
気付けば、フィーネが俺のすぐ横に控え、ミハエルのそばには恥ずかし気な顔をしながらエルナがいる。
それを見た貴族令嬢たちは若干ひるんだが、それでも果敢に戦いを挑んできていた。
ミハエルはレオンを見て対抗心が燃えているのだろう、当たり障りなく好青年に変身して相手をしている。
それでもエルナを守るように気遣っているのはさすがだと言える。
俺はというと、かなりしどろもどろの対応をしている。
「私、――家の――ともうしますの。ねぇ、ルカ様は――」
「俺はたいしたことはありませんよ」
「ルカ様、今度我が家へ――」
「お心遣いだけありがたく」
「素敵なお召し物ね、とてもお似合いですわ――」
「ありがとうございます」
精神的にどんどん疲弊していく中、唯一の救いは、貴族たちがレオンたちとの繋がりを作るのに必死で、フィーネやエルナに手を出してこないことだろう。
そしてなぜか、フィーネがいつのまにか令嬢に惚れられていた。
「フィーネ様、お姉さまとお呼びしても?」
「私などよりも貴女にはもっと素敵な方がおられますよ」
フィーネがそう言って微笑むと、益々ご令嬢たちは目をハートにしていっている気がする。
そうこうしていると、俺の周囲に数人の令嬢が集まり、あちこちから言葉がかかる。
「ねぇルカ様、フィーネ様とはどういうご関係なのかしら?」
「パーティメンバーですよ」
そう答えると、今度は違う女性に言葉をかけられる。
「あら、本当ですの? それでしたら今度我が家に遊びにこられませんこと?」
「はは。そんな恐れ多い。俺はただの平民ですから。お心遣いだけありがたく」
そう答えているとまた違う女性に声をかけられる。
「ルカ様本当に素敵でいらっしゃるから私とても胸が高鳴ってしまいますわ」
「そうですか? ありがとうございます」
「まぁ、顔を赤らめられて、うふふ。可愛らしいことですわね」
「すみません、慣れていませんもので」
俺の精神力がガリガリと削られていく。
なんだろうな、この女性の押しの強さって。
女性たちの隙間からチラリとミハエルを見ると、女性に群がられ、エルナを守っているミハエルの目がほぼ死んでいた。
頑張れミハエル。貴族が群がってこないだけマシだぞ……マシなはずだ……。
そんな風に思いながら、俺たちはBランク試験パーティをなんとか乗り切った。
やっと令嬢たちから解放された。
途中でチラリとレオンを見たら、レオンも死んだ魚の目をしていた。
うん、レオンにも感謝だけはしておこう。
俺たちは一旦客室へと移動となった。
キール子爵にお礼を言ってから帰るためだ。
しばらく待っているとキール子爵がきたのだが、同時にレオンもくっついてきていた。
キール子爵は俺たちからの礼もそこそこにレオンを置いて部屋をでていった。
Aランクというのは子爵よりも地位が高いのだ。
レオンは俺を見ると二ッと笑みを浮かべた。
「よお、ルカ。さっきエアハルトから聞いたぞ。ミハエルだっけか? そいつとやって勝てばお前とやれるんだろ?」
早速か。
「ええ、そうですね。エアハルトさんにはそう言いました」
「じゃあやろうぜ、お前ら帰るの延ばせよ。いいだろ? ギルマス」
「断ったところでじゃあシュルプでって言うんだろうが」
「当然だろ」
「わかった、闘技場借りてやるから少し待て。あそこなら人目が少ないだろ。レオンは当然借りるのに協力しろよ、お前のせいなんだからな」
「別にいいぜ、それでやれるなら問題ねぇしな」
ギルドマスターが溜め息をつく。
「ルカ、ミハエル、嬢ちゃんたちも帰るのは延期だ。こうなったらやる方が早い」
「別に俺はかまいませんよ、全力でぶちのめしてやりますから」
ミハエルがそう言うと、レオンが歯をむき出して笑った。
「言うじゃねぇかクソガキ。全力で叩き潰してやるよ」
「あーはいはい。レオンもう出てけ。あとで連絡いれる」
ギルドマスターはさらっとレオンを部屋から追い出した。
レオンも特に抵抗することなく部屋をでていった。
「面倒なことになったな。でもまぁ、遅かれ早かれだな」
「そうですね。というか、ミハエルすまん。つい、俺とやるならまずミハエルとやれなんて言っちゃって」
「んなの気にしてねぇよ。でも、俺の素のままじゃあいつにゃ勝てねぇ。だから魔法頼むわ、ルカ」
「ああ、任せろ」
こうして俺たちは宿屋へと戻った。
ただ、シュルプに帰るのは三日ほど延期となってしまった。
ギルドマスターは着替えたあとすぐに出かけていったので闘技場の予約なりなんなりレオンを連れて、しにいったのだろう。
俺とミハエルはというと宿屋の裏庭で人がいないのを確認しつつ、身体強化以外にどれだけかけるかと、かけながら相談した。
何個かかけたあと、慣らすために俺もレオン対策の魔法をかけてからミハエルと打ち合いをした。
やはり俺以上の動きをミハエルがするのでついていくだけで精一杯である。
とはいえ、ミハエルの動きを慣らすのは大事なので俺はその後も打ち合いを続けるのであった。
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