俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
205 / 258

204

しおりを挟む
 そのいで立ちは異様としか映らなかった。
 何故なら盆の時期とはいえ、まだ季節は夏。にもかからず、漆黒のスーツを身に纏い、加えて両手には血のように赤い手袋をしており、露出している部分は頭部しかなかった。その頭部にしても顔半分を、これもまた赤いマスクで覆い隠していといった風貌。

 すらりとした身長なのでスーツ自体は似合っているものの、素顔がハッキリと確認できないので年齢は定かではない。ただ目元を見るに若そうという印象は伝わってくる。
 そんな奇妙な男性が登場した直後、聖歌の表情が険しくなり、同時に和歌もまた「うわ、出た」と、明らかに嫌悪を示す感情を見せた。

「久しぶりじゃないか、聖歌。それに……和歌」

 男性の切れ長の瞳が、蔓太刀姉妹へと向く。

「あなたに名前を呼ばれる筋合いなどないんだけどね」

 明らかに不機嫌オーラを隠さずに聖歌が言った。

「そうだそうだ! 陰険ボンボン野郎はどっかいけー!」

 これまた和歌も辛辣な物言いだ。てっきり気を悪くすると思われたが、男性は軽く肩を竦めただけで怒気は感じられない。

「相変わらずの姉妹だね。特に和歌、前にも言ったと思うけど、その言葉遣いは直した方が良いな。それにその不必要に男を誘惑するような不埒なファッションもだ」
「うっさいな! アンタだって年がら年中、どす黒いスーツしか着てないでしょうが!」
「スーツ姿こそ僕が一番映えるファッションなのさ。それにイメージは大切だろう? 黒いスーツのデキる男と言えば僕と、そのうち世界中が認識するようになる」
「うわぁ、どんだけ自信過剰なの。さすがに引くわ」
「自信を持つことが悪いことかな?」
「アンタはそれが過剰だって言ってんの! ほら、ナクルもドン引きしてるじゃん! ねえ?」
「ふぇ? え、えっとぉ…………あ、暑そうッスね……」

 絞り出した答えは実に可愛らしい。とはいえ可愛いと思うのは身内贔屓かもしれないが。

「そういえば今年も鬱陶しいのがいるね。しかも……二匹も」

 男性の視線が、ナクルと……沖長に向けられた。

「ちょ、そんな言い方していいと思ってんの! 今すぐ二人に謝って!」
「断る。僕が子供嫌いなのは知っているだろう?」
「それでもアンタは大人じゃない! 言っていいことと悪いことくらい理解できるでしょうが!」
「ハハ、僕は嫌なものは嫌、嫌いなものは嫌いと言える日本男児なのさ」
「ぐっ……コイツ、ああ言えばこう言う……っ」

 これは相性的に悪いと思われた。真っ直ぐ単純そうな和歌に対し、のらりくらりと飄々とした男性では和歌の方が分が悪いように感じる。

「……はあ。あなた、いつまでもここにいていいの? どうせ今年も当主代理として来たのでしょう? 早く挨拶に行った方が良いと思うけど?」
「おっと、そうだったそうだった。つい君たちの姿が見えたのでね。忠告感謝するよ、聖歌」

 だから名前で呼ぶなって言ってるでしょうに、と沖長だけに聞こえるボリュームで聖歌が愚痴を漏らした。

「じゃあ僕はそろそろ行くよ。和歌、後でデートをしような」
「おっことわりだボッケェッ!」

 憤慨して怒鳴る和歌に対し、男性は微笑を浮かべたまま軽く手を上げてから去って行った。

「ちょっとお姉ちゃん、塩巻いて塩っ!」
「落ち着きなさいな、和歌」
「だって! ああもう……相変わらずドムツカクゥ……ッ!」

 変な造語を声に出してイライラを露わにしている和歌に、ナクルも「どうどう」と言って背中を叩いている。

(ナクル、それは馬にやる行為だぞ)

 そう思いつつも、気になったことを聖歌に聞くことにする。

「あの、聖歌さん、あの人は?」
「ああ、そういえば沖長くんは初めてだったわね。あの人は――藤枝皇火おうか。あれでも藤枝家の次期当主なのよ」

 なるほど。アレが籠屋の分家の一つである藤枝の者だったらしい。

「……変わった人でしたね」
「変わってるなんてもんじゃないし! いつもいつも上から目線で何様のつもりだっつーの!」
「あら、そんなこと言ってもいいの、和歌?」
「は? どういう意味?」
「だってあの人――――――あなたの婚約者じゃない」

 まさに驚天動地というのはこのことか。沖長は「えぇっ!?」と思わず吃驚してしまった。しかし周りを見れば、驚いているのは沖長ただ一人。

「えと、ナクルは知ってた……のか?」
「う、うん、前に来た時に聞いたッスから」

 それもそうかと得心する。あの藤枝の当主代理の言動からも、すでにナクルと知り合っていたみたいだから。

「ちょっとお姉ちゃん! 婚約者ってのはアタシ認めてないし! ていうかぜ~ったいあんなのイヤだしっ!」
「どうして? 性格については多少目を瞑れば、イケメンで金持ちよ?」
「うぐっ……そ、それはそう……だけどぉ……」

 イケメンがどうかは分からなかったが、聖歌が言うならそうなのだろう。それに分家とはいえ大家の次期当主となれば裕福とも言える。

(あのスーツだって見るからに高級そうだったしな)

 けれど和歌の気持ちも分かる。確かに結婚して生活には困らないかもしれないが、あの超絶ナルシストっぷりは、付き合っているとストレスが溜まっていきそうだ。実際に自分に合わないと思ったら、力尽くでも合わそうと強制してくるはず。

 和歌の恰好や言葉遣いにケチをつけていたのもその一端だろう。
 とはいっても、その点に関しては皇火の注意も決して間違っているとは思えないが。大家の嫁になるなら、言動には気を付けなければならないだろうし、当然見た目にもだ。

(そう考えると金持ちってのもいろいろなしがらみとかあって面倒臭そうだよなぁ)

 特に国家と繋がりを持っているような家において、そこには間違いなく品質が求められるだろう。いわゆる相応しい人間で在るように、と。
 金持ちには金持ちにしか分からない苦労などもきっとたくさんあるのだろうと沖長は思った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...