俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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(この人たちが蔓太刀家のご令嬢ってわけか)

 籠屋の分家の一つ。長門が秘密にしてくれていたお蔭で詳しくは知らないが、そもそも沖長の知識的に本家と分家の詳しい関係というのもよく分からないのだ。

(普通に考えたら、長男が継ぐのが本家で、次男や三男が分家筋ってことだと思うけど……)

 それにしても何故苗字が違うのかという謎もある。いや、ただ単に次男たちが婿に行った先が分家になっていると言われれば納得もするが、そこらへんも確証はない。

(とりあえず親戚ってことは間違いないだろうし、そんな感じで覚えておくか)

 思考に耽りながらぼ~っとしていたのが悪かったのか、ナクルに脇腹を抓られてしまった。彼女を見れば何故か頬を膨らませている。理由を聞けば、聖歌に見惚れていたからとのこと。確かに女性をじ~っと見続けるのは良くないので反省しておく。
ただ弁解をさせてもらえるなら、見惚れていたわけではなく、聖歌に視線が向かったまま考察していただけ。とはいっても他人にとってはやはり見苦しい言い訳にしかならないので黙っておく。

「ふふ、仕方ないわよ、ナクル。私、これでも多少モテるもの。愚妹と違ってね」
「いちいちアタシをディスらなくても良くない!? てか、アタシだってモテるし!」
「変な男ばかりね」
「うぐっ……そ、そんなことは……」
「確か小学生の頃はロリコンのおじさんに拉致されそうになったわ」
「っ……!?」
「中学生の時はイケメンだけど、女遊びが激しい高校生」
「くっ……!?」
「高校生の時だって見た目は普通だけど、結果的にストーカーだったし」
「はぐぅっ……!?」
「それにちょっと前だけど、変な小学生にナンパされてたわよね?」
「で、で、でもイケメンだったし、将来はきっと俳優とかモデルとかで爆売れしたかも!」
「……はぁ。その子、ナンパした時に両隣に別の女の子を侍らせてたって聞いたけど?」
「そ、それは……」

 思わず心の中で「うわぁ」と思ってしまった。
 ていうかそんな小学生がいるのかどうかも疑わしい。

 ナンパをするなら普通一人でやるか、同性を引き連れて合コン目当てに声をかけるといった感じだろう。それが他に女子を同行させてなどと斬新過ぎて逆に凄い。

(けどその小学生、どっかで聞いたような奴だよな……まさかな)

 ふとある人物を思い浮かべるが、さすがにそれはないかと思い首を振った。

「いい加減自覚しなさいな。あなたは……男運が悪いって」

 胸に大ダメージを受けたかのように崩れ落ちる和歌。
 言い負かされているということは、どうやら聖歌の言うように、和歌は男には好かれはするが、少々……いや、かなり歪んだ性格の持ち主が多いらしい。気の毒に。

「和歌ちゃん、元気出すッスよ」
「うぅ~ナクルぅ~。アタシだってぇ……アタシだって良い男と出会いたいよぉ~」
「大丈夫ッス! 和歌ちゃん可愛いッスから、きっとそのうち素敵な恋ができるようになるッス!」
「……そのうちって……いつぅ?」
「ふぇ? え、えっとぉ……そのうちはそのうちッス!」
「うぅ……ホントォ? アタシにも良い男がやってくるかなぁ? イケメンで金持ちでアタシだけを大切にしてくれるスッゲエ優しい男ぉ」
「イケメンが最初、金持ちが二番目に来るような女に素敵な恋ができるなんて思えないけどね」
「ぐはぁ!?」
「和歌ちゃぁぁぁぁぁんっ!?」

 聖歌のトドメの一撃が突き刺さり倒れ込んでしまった和歌。そんな和歌を心配そうに介抱するナクルに対し、どこかやり切った感を出して愉快な表情を浮かべている聖歌という図。

(なるほど、この姉妹の関係性が理解できたわ)

 姉である聖歌の方が一枚上手のようだが、別に心から罵っているわけではなく、単にからかって楽しんでいるようだ。この様子から普段からこんな感じなのだろう。それでいて和歌から聖歌に向かって嫌悪感などが伝わってこないので、姉妹間の仲は良好らしい。

 少しして回復した和歌は現在ナクルと一緒に庭で遊んでいる。ただ遊んでいるといっても、普通の子供がするようなことではなく……。

「ほっ、とっ、ふっ、何の!」

 軽やかなステップと防御を駆使して、ナクルの拳や蹴りを回避したり受け流している和歌。そう、二人がやっているのは組手だ。

(へぇ、蔦絵さんほどじゃないけど、ナクルの攻めに的確に対処できてるし、やっぱりこの人もそれなりに強かったな)

 会ってからまだ間もないものの、その歩き方や体幹などを見て、武を嗜んでいるくらいは読み取れた。その動きから蔦絵には及ばないものの、武術者としてそこそこの力量があることは力できたのである。

「まったく、こんなに暑いのによくやるわね」

 そう顔をしかめながら言うのは聖歌だ。ちなみに沖長もまた彼女の隣で静かに観戦中である。

「……ねえ、沖長くんだったわね?」

 不意に聖歌から声を掛けられたので、「はい、何でしょう?」と聞き返した。

「君、ダンジョンの中に入れるというのは事実なの?」
「……えっと」

 何となく好奇心に光る眼差しを彼女から見た。誰に聞いたかは分からないが、もっともこれだけ大きな家の分家の立場にある人物なのだから調査しようと思えばできるだろう。

 それに籠屋本家の血を引くナクルが勇者に選ばれているのだから、その周辺でウロウロしている沖長のことを放置はしないはず。

「あーまあ、そうですね」
「君、男の子よね?」
「女の子に見えます?」
「見ようによっては?」

 嘘、マジで? と思わず思考が停止してしまった。

「ふふ、冗談よ。君もからかい甲斐がありそうね」

 しまった。こういう人物に興味を持たれたら死ぬまでからかわれそうだ。和歌のように。「けれど……そう、事実なのね。君がダンジョンに……」
 沖長から視線を切りながら呟く。その横顔は何となくだが険しさが見て取れた。

(これは警戒……いや不安…………心配してくれてる?)

 その表情から彼女の感情を読み取ろうとしたが、すぐに普段通りの表情へ戻し、再びこちらを見てきた。
 そして彼女が何かを言おうとした直後、

「――――ここにいたのかい」

 男性の声がカットインしてきた。


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