俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
192 / 258

191

しおりを挟む
 今年も暑い……いや、暑過ぎる季節がやってきた。
 年々温暖化が増しているせいか、日本では六月中旬ですでに三十度を軽く超える日も珍しくなくなってきている。
 故に当然夏本番ともなると、さらに暑さは増すということで……。

「あっぢぃぃぃぃ……」

 空から汗だくの沖長を見下ろす太陽。そこから降り注ぐ陽光は、生卵がゆで卵になるのではないかと思われるくらいの熱気がありそうだ。
 本日は一学期最後の登校日。つまり明日からは夏休みに突入するということ。
 学生の時分としては嬉しい限りだが、まだ午前中だというのに、この暑さだけは本当にどうにかならないものかと辟易せざるを得ない。

「おっはよーッス、オキくぅん!」

 学校の正門前で半ば現実逃避していると、沖長に向かって手を上げながら駆け寄ってくるナクルの姿があった。

「……おう、ナクル。朝から元気だな」
「えへへ! だって明日は夏休みッスよ!」

 相変わらずの元気印の主人公である。暑さなど微塵も……いや、よく見ると額に汗が滲んているので体感的には沖長と同じはず。彼女が意気揚々としているのは、やはり子供らしい気持ちからくるものだろう。

 その証拠に周りにいる生徒たちも、暑さを感じながらもどことなく嬉しそうに見える。やはり今日で一学期が終了するというのは彼らにとって喜ばしいことなのだ。
 ナクルと一緒に教室へ向かって扉を開けると、目の前に金剛寺銀河が立っていた。どうやら彼は教室から出て行こうとしていたところだったようだが、沖長を見て気まずそうに視線を逸らし、そそくさと去って行った。

 彼から能力を返せと言われてから今日まで、それまでが嘘のように突っかかってくるのを止めて、あんな感じでよそよそしい態度を見せている。
 こちらとしては暑苦しいやり取りがなくなって嬉しい限りだが、どこか拍子抜けな感は否めない。本当にもう諦めたのか。だとしたら気楽ではあるが。
 自分の席に座ると机に突っ伏する。

「今日もホントに暑いッスね、オキくん。テレビじゃ今年一番の暑さって言ってたッスよ」
「みたいだなぁ…………あぁ、クーラーの効いた部屋でゴロゴロしたい」
「オキくんはいつも以上にぐで~ってしてるッスね。そういえばオキくん、夏休みの予定は立てたッスか?」
「予定?」

 原作の第二期の舞台は夏休みに入ってからだと聞いている。故に予定が入っているといえば入っているが、ナクルが聞きたいのはそういうことではないだろう。

「決まってないなら、またキャンプ行こうッス!」
「キャンプ……ねぇ」

 日ノ部家恒例の夏キャンプ。沖長が門下生になってからは、そこに家族ともどもお世話になっているのだ。
 恐らく今年も家族同士で、避暑地でのキャンプへと出かけることだろう。実際にそういう話は、春ごろにもあったし。

「あとは、プールとかも行ってみたいし~、あ、そうそう! 今度ゾンビーバーの映画もやるんスよ! だから一緒に行くッスよ!」

 夏休みが本当に待ち遠しいようで、ナクルの中ですでにいろいろ予定が決まっているようだ。まあ、子供としてはこれが普通なのだろう。
 精神的に大人である沖長は、どこかへ出かけるというよりも、冷房の効いた部屋で日がな一日ネットやらゲームで時間を費やす方が良いのだが。

 期待を膨らませ語るナクルは笑顔だが、沖長としては複雑な気持ちが込み上げてくる。何せ先述した通りもうすぐ第二期が始まるのだ。これまでのように楽しいだけの夏休みを過ごせるとは思えない。

 ダンジョン発生もどんどん活発化しているらしいし、それに向けて沖長たちも修練に費やす時間が増えてきている。ここで本格的に妖魔人たちが動くことになると、子供らしい夏休みなど到底満喫できない。
 実際師匠である籠屋大悟からはこう言われている。

『夏休みか。なら毎日存分に鍛えることができるってことだな! 楽しみにしておけ、沖長!』

 などと物凄い笑顔で言われたことを思い出し頭を抱えてしまう。修練はこちらも望むところなので否はないが、それでも大悟の常軌を逸した課題を毎日こなすことになるのかと思うと、さすがに腰が引けてしまうのも当然。しかもこの暑さだ。やる気が起きないのも無理からぬこと。

「あ、ナクル~! 札月く~ん!」

 その時、入口から声がかけられ、見ると水月が手を振っている姿が捉えられた。彼女はそのまま教室内へ入ってきて近づいてくる。

「おはようッス、水月ちゃん!」
「うん、おはよ……って、ありゃ? どったの札月くん? 死んでる感じ?」
「オキくんってば、さっきからこの調子ッス」
「この暑さだしねぇ。しかもこれからもっと暑くなるみたいだし気持ちは分かるかも。でも明日から夏休みだし頑張ろうよ。ね、ナクル!」
「はいッス! ほらほら、元気出すッスよ、オキくん」

 大人の精神を持つ立場として、子供に気遣われるとは情けない。とはいってもこの場合は大人だから将来を憂いていると言えるが。

「そういえば九馬さん、修練の方はどう? 上手くいってる?」
「あーうん。何とか? あはは……はぁ」

 十鞍千疋に師事している水月だが、千疋もまた修練バカというか、主である沖長の期待に応えようと、水月を立派な勇者にするべく鍛えているようで、その時のことを思い出して遠い目をする水月。きっと言葉にしたくない程度には厳しいのだろう。
 とはいっても、さすがに大悟みたいな熱血スポコンみたいな修練ばかりをしているわけではなさそうだが。

「修練って言えば聞いたッスよ! 水月ちゃんってば、クロスを纏うことができるようになったとか!」

 千疋からの報告を受け、それを沖長がナクルにも伝えたのだ。

「あはは、でもまだダンジョン内に限るけどね。それにクロスを纏っても、千姉には手も足も出ないし……ははは」

 水月の空笑いに沖長は苦笑を浮かべてしまう。高いポテンシャルを水月が持っていたとしても、クロスを纏っただけでは千疋には遠く及ばないだろう。何せ向こうには何世代もの勇者の知識と経験が備わっているのだから。
 実際に熟練者であろう勇者の火鈴やヨルでさえ子供扱いされている。覚醒したばかりの水月では一撃すら入れられないのも当然だ。

「ボクも、お父さんや本気になった蔦絵ちゃんにはまったく歯が立たないんスよ。いつになったらあの二人に追いつけるんスかね……はは」

 何だかしんみりした空気になってしまった。

「で、でもいつかは追いつけるし! だから一緒にがんばろ、ナクル!」
「そ、そうッスね! よーし、頑張るッスよ! おー!」

 水月も揃って「おー!」という二人の姿は微笑ましい。そんな彼女らを見ていると、自分も頑張ろうと思えてくるのは不思議だ。

(まあ、頑張るのは明日からにしよう)

 今日だけはこの暑さに戦略的撤退を心に誓った沖長だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...