俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 思わずハッとして沖長は蔦絵を見た。
 もし事前に知っていたら驚きはなかった。しかしネット情報などには、恭介の娘は蔦絵一人としか記載されていなかったのである。

 まさか隠し子かと思っていると……。

「そいつは最高峰の占術師――籠屋クシナの再来って呼ばれてるらしいぜ。なあ、七宮の嬢ちゃん?」

 大悟の視線が蔦絵へと向けられる。まるで自分で説明したらどうだといわんばかりの眼差しだ。ちなみにそれを咎めるようにトキナは大悟を睨んでいるが。
 すると、これまで静かに話を聞いていた蔦絵がその重い口を開く。

「その日本国には、昔から裏で支える占術師がいたのよ」

 それは以前に大悟から聞いた話でもある。

「元々は籠屋家が筆頭占術師だったけれど、ある時代から別の一族がその任を請け負うことになったわ」

 それも聞いた。籠屋家が他一族と交わったことでその力が弱まり、そのせいで没落してしまったと。

「その一族というのが――天徒《てんと》一族。籠屋一族と双璧を成す占術一家。そして現在、国家占術師として任に就いているのが天徒咲絵さきえ。私の…………私の双子の妹よ」

 まさに衝撃的告白だった。いや、原作を熟知している長門なら驚きはないだろうが、そこまでの情報を聞いていなかった沖長にとっては十分な威力を持った話である。
 ナクルは「へぇ~」と、それほど重く受け止めてはいない様子だが。

「てん……と? 名前が違いますよね?」

 そう沖長が尋ねると、蔦絵は一息入れた後に答えてくれた。

「天徒というのは母の家名なのよ。占術師を引き継ぐに当たり、父の七宮よりも天徒の方が良いと判断されたようね」

 なるほど、そういう事情があったのかと納得する。しかしどこか蔦絵の優れない顔色を見て腑に落ちないものを感じた。その色にはどこか負い目みたいなものがあったからだ。
 父である七宮恭介との関係もそうだが、妹とももしかして拗れた間柄をしているのだろうか。

 これはおいそれと言及してはいけない。そう躊躇われる何かを感じさせた……が、

「でも蔦絵ちゃん、あまり自分のお父さんと仲が良くないッスよね? 何でッスか?」

 などと軽々しく尋ねてきたのである。

「ちょ、ナクル!」

 つい反射的に沖長が注意しようとしたが、それもしょうがない話だ。何せ自分と違いナクルは正真正銘の小学生なのだ。個人の背景などを考慮して空気を読むことなど早々できようはずもない。
 だから思ったことをそのまま純粋に口にしただけ。しかしその質問は、大人たちにも苦笑をさせる原因となっている。

 こういう時、素直な子供というのは怖いことを痛感した。
 しかしその真っ直ぐさが返って蔦絵の心を軽くさせたのか、彼女は僅かに微笑みを浮かべて口を開く。

「ええそうね。父とはあまり仲が良くないわ」
「もしかしてケンカしちゃってるんスか?」
「ケンカ……そうなるかもね」
「だったらちゃんと仲直りしようッス! だって家族ッスよ!」
「ふふ、ナクルは本当に真っ直ぐね。時々それが羨ましくて……眩し過ぎるわ」

 どこか自嘲するような笑みを浮かべる蔦絵。やはり複雑な事情があるらしい。

「う~ん、よく分からないッスけど、ボクも手伝うッスよ! だって蔦絵ちゃんもボクの家族ッスから! 蔦絵ちゃんにはずっと笑っててほしいッスもん!」

 その言葉に蔦絵は目を見開く。その瞳が潤んだように揺れる。

(はは、まったくナクルは……。さすがは主人公ってところか)

 ナクルの言葉には力があるように思える。人の心にスッと入ってくるのだ。それはきっと彼女が心の底から偽りのない気持ちを吐き出しているからだろう。
 その純朴さが心に真っ直ぐ届くのだ。

 そしてそれは修一郎も感じ取ったようで、穏やかに微笑みながら言う。

「そうだね。ナクルの言う通り、君はもう俺たちの家族なんだ。頼ってくれていいんだよ」
「で、ですがただでさえ居候という形で迷惑をかけているというのに、これ以上望むなんて……」
「迷惑ならボクもい~っぱいかけちゃってるッスよ!」
「! ナクル……」
「でも前にお父さんが言ってたッス! 家族なんだから迷惑かけてもいいんだって! 一緒に乗り越えていくのが家族なんだって!」

 ナクルが少し自分の気持ちを落ち着けると、そのまま静かに続ける。

「ボクも少し前までは、自分の気持ちを誰にも言わなかったッス……。もし言っちゃえば、お父さんたちに迷惑をかけるって」

 沖長は彼女の言葉に心当たりがあった。恐らくは会ったばかりの時のナクルが思っていたことだろうと。

「でも……それは間違いだって教えてくれた人がいたッス」

 チラリとこちらを見てくるナクルに、沖長は応じるように笑いながら頷く。そしてナクルも嬉しそうに笑顔を浮かべて再び蔦絵に視線を向けた。

「ワガママを言ってもいいんだって。それを受け止めるのが家族だって」

 改めて他人の口から聞けば、随分と知ったようなことを口にしたなと恥ずかしくなる。それでもあの時の言葉がナクルを前向きに変えたのなら、沖長としては口にした甲斐はあった。

「だから蔦絵ちゃんもワガママを言うッスよ! もちろん蔦絵ちゃんのお父さんにもちゃんと自分の気持ちを言えばいいッス! 大丈夫ッス! ボクも一緒にいてあげるッスから!」

 フンスと鼻息を出し胸を張るナクル。どこからその自信がくるのか分からないけれど、ナクルはこれでいいと沖長は思う。彼女の足りない部分は、自分が補えばいい。

 だから……。

「そうですね。まだまだ頼りないですけど、俺も力になりますよ。蔦絵さんのためならばたとえ火の中水の中、どす黒い政治の中だとしても」
「沖長くん……」

 本当は政治なんて関わりたくないけれど、蔦絵もまた沖長にとっては守るべき対象だ。彼女が悲しむとナクルも悲しむ。そんな未来は望んでいないのだ。故にハッピーエンドを掴みたい沖長としては人事を尽くすつもりである。

 大人たちも同様なのか、まるで自分の子供に向けるような笑みを蔦絵に向けていた。
 すると蔦絵は目を閉じ、少しだけ沈黙する。そして意を決したかのようにその言葉を口にした。

「私は……私は――――優しかったあの父を取り戻したい。そしてまた妹と……咲絵と一緒に過ごしたい! だから…………手伝ってくれますか?」

 その懇願に対して、全員が合わせたように頷き返事をしたのであった。


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