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 銀河の勘違いはあったものの、助っ人少年の一石が上級生たちの油断を一掃してしまったのは明らかだ。終始上から目線でニヤ付き顔だった彼らも、どこか引き締まりつつある。
 それでもやはり武太は自ら動くことはせずに、二人に指示を出すだけ。

(あの身体だから動きたくないのか? ……だったら益々こんなスポーツ施設に来るなよって話だけど)

 そう思いつつ沖長もまた、コートを動き回りながら様子を見守っていた。
 こちらのオフェンスは、専ら銀河を中心に回っている。というより彼がボールを持ったら決しては離さないのだ。今度こそ自分がゴールをもぎ取るつもりなのだろう。

 しかしだからこそ上級生たちにとっては楽な流れだ。何せ銀河だけをマークしてボールを奪えばいいだけである。
 そのせいか、ボールを弾かれたりスティールをされ、すでに五回もゴールを奪われていた。これであと五回入れられたらこちらの敗北が決定する。

 するとまたもボールを奪われた銀河は、そのまま相手にゴールを許してしまった。
 さすがに体格差があるので、一度奪われたら止めるのは難しい。

(……これであと4ゴール。対してこっちは2ゴールか)

 数だけ見ればこちらが有利だが、こうして対峙して分かったが、武太以外の二人は元々ミニバスケをやっていたのか、動きが洗練されていて無駄が少ない。つまりはかなりの経験者ということ。
 体格差だけでなく経験も上手となると益々もって勝ちの目が薄くなった。

「だあっ、くっそっ!」

 銀河はというと、苛立ちを隠しもせずに転がってきたボールを蹴っている。
 そんな彼を見ていた助っ人少年の瞳は、どこか呆れた雰囲気を含んでいた。そして我慢の限界に達したのか、

「いい加減にしなよ」

 ついに銀河の失敗を追及し始めたのだ。

「あぁ! 何がだよ!」
「これまでの6ゴール、誰のせいで奪われたと思ってるの? それにこっちも全然得点できてない。どうしてかな?」
「そ、それは……」
「自覚はあるようだね。そう、すべて君が独断専行したせいだよ」
「くっ……」
「彼女に良いところを見せたいのは理解できるけど、それで負けたらもっとカッコ悪くない?」
「っ…………んだよ、俺だけのせいかよ! お前らがもっとアイツらを止めてりゃいいだけの話じゃねえか!」
「この期に及んで逆切れ? そんな君じゃ、まだフラフラの彼がチームにいた方が勝機はあるよ」

 フラフラの彼とはもちろん勝也のことだ。自分が注目を浴びたことで、本人はギョッとしているが。

「う、うるせえ! 次はぜってーに俺が点を入れてやる! 見てろ!」
「だからそれがダメなんだって」
「離せよ、クソ野郎っ!」

 少年が銀河の肩を強めに掴むが、あろうことか怒りに身を任せた銀河が、振り向きざまに少年を殴ろうとするが、銀河の膝がカクンと落ち攻撃は失敗に終わる。
 そして銀河の体勢を崩したのは沖長だった。寸でのところで、いわゆる膝カックンをしてやったのである。

「落ち着け、金剛寺。それにお前もこれ以上ナクルを引き合いに出すな。コイツがもっと加熱しちまう」

 そう言うと、助っ人少年はプイッと顔を逸らして押し黙った。

「て、てめえ札月、何しやがる!」

 怒りの矛先が今度は沖長へと向けられる。そのまま胸元を掴まれるが……。

「いいのか?」
「あん?」
「このことぜ~んぶ、夜風さんに言うけど?」
「っっっ!?」

 一気に顔を青ざめさせる銀河。
 そう、コイツの沸騰した熱を冷ますにはナクルが逆効果だ。出すなら天敵ともいえる弱点をちらつかせなければ鎮まらない。

「いいのかなぁ。銀河が暴走して試合に負けた挙句、ナクルが悲しんだって話を夜風さんにしたら……どうなるぅ?」
「ちょっ、おまっ、そ、それはひひひひ卑怯だろうが!」
「別に卑怯じゃないだろうに。夜風さんなら男ならカッコ良くあれっていつも言ってるじゃん。今のお前……カッコ良いのか?」
「っ………………じゃあどうすんだよ?」

 ようやく怒りが収まったのか、ぶっきらぼうながらもちゃんと聞く姿勢を見せてくれた。

「簡単だよ。俺たちは三人いるんだ。けどアイツらは二人しか動いてない。そこを突けばいいだけ」

 沖長は作戦を二人に伝えると、渋々といった感じで了承してくれた。
 そして試合は再会し、ボールは銀河の手にある。彼はまた一人でゴール下まで突っ込もうとしてくる。

「相変わらずか、銀髪坊っちゃんは!」

 上級生たちは銀河が何も変わってないと判断したのか、すぐにベタリと張り付いてボールを奪おうとしてくる。
 しかし次の瞬間、銀河は左斜め後ろに向かってボールを放った。そこにいたのは助っ人少年である。
 少年はボールを受け取ると、すぐにシュートホームを見せた。

「ハハ、やっぱお前が打つか! 残念でした!」

 しかし上級生には見破られていたようで、もう一人が少年にすぐに駆け寄ってシュートコースを塞ぐ。そのまま高く放たれたはずのボールが、上級生によって弾かれてしまった。

 またもシュートが失敗し、ゴールを奪われると周りの者たちは思っただろう。しかしゴールが向かう先には沖長が立っていた。

「――ナイスパス」

 飛んできたボールを掴むと、そのまま真っ直ぐゴールへと投げた。そしてボールは誰にも邪魔されることもなくリングに吸い込まれたのである。


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